上 下
2 / 13

第2話「出会い」

しおりを挟む
薬師になって3か月が過ぎた。

この頃になると、異世界生活にも慣れて来た結果、大まかな現地事情なども把握出来るようになっていた。

ちなみに、俺の転生先となったヤレドの街は、エノク大陸北東に位置するメトシェラ王国の王都。

かつては、魔王軍の本拠地で、勇者たちの聖戦があった歴史的な場所となる。

その後は、勇者の相棒であった賢者ヤレド・メトシェラが大地を再生し、人間の国家を再興したわけだが…

以降の子孫たちはろくでもないボンクラばかり。

力に溺れ、周辺の国々を侵略し続けた結果、いつの間にか大陸最大の領土を獲得してしまう無法ぶり。

そんな最強の軍隊を維持するためには、莫大な軍事費がかかることは言うまでもなく…

近年のメトシェラは、とんでもない重税国家となっていた。

メトシェラの重税ぶりを示す逸話はいくつもあるが、特に酷いのが城壁税だ。

中世欧州風ファンタジーワールドの都市なので、当然ながら城塞化しているヤレドだが、その維持費がなんと全額市民負担になっているのだ。

城壁税自体は、1世帯あたり年に金貨1枚。

前世の貨幣価値に換算すると10万円程度だが…

敵に攻め込まれて城壁が崩れるなんて事態も久しくないのに、徴収額がまったく減らないものだから、軍事費に転用されているのではないかとの疑惑まで浮上する始末だ。

それでもヤレドに商工業者が集まり、大陸五大都市の称号を得ている背景については…

帝国主義国家の王都ゆえに、戦争に巻き込まれる可能性が少ない点が、商売上の大きなメリットと判断されたのだろう。

そのせいか、街の雰囲気はそこまで暗いわけではなく、夕暮れ時になると、繁華街は酔客で賑わっていたりもする。

フリーランスの身の上の俺などは、自由に時間を使えるメリットを活かして、まだ酒場が混む前の昼下がりに、麦酒をあおる贅沢を楽しんでいたりもする。

その日も薬の調合をひと休みし酒場に繰り出しすと、道中でチンピラに絡まれている女性の姿を見つけた。

とんがり帽子に黒ローブを身に纏う若い女性なため、恐らくは魔法使いなのだろうが、しつこくナンパを繰り返すチンピラに対してどこか上の空な様子。

(困っている風でもないが…)

(自分で撃退しそうな雰囲気でもないんだよな)

(やっぱり、ここは助け船を出した方が良いのかも)

俺の住む南地区は、家賃も安く、雑多な商店で賑わっている一方で、貧民街が近いため治安は結構悪い。

民度がよろしくない輩も比較的多いため、チンピラがツレナイ態度の女性に逆上し、大変なことに発展してしまう可能性も少しくらいはあった。

そのため、余計なお節介を承知で、両者の間に割って入って仲裁を試みたところ…

「邪魔してんじゃねえぞ、この糞オヤジ!」

と激高したチンピラに殴りかかられてしまった。

俺も身長175センチと決して小柄な体格ではないが、相手は二回りは大柄な若い男。

チンピラ本人もワンパンのKOシーンを想像していたところだろうが…

そこは残念。

俺は、インハイ県予選でベスト4に輝いた実績もある元柔道家。

おまけに、転生後はどこへ行くにも徒歩で移動しなければならない環境のおかげで、前世よりもさらに体のキレが増していた。

モーションが丸見えのテレフォンパンチを交わす程度は、造作もないことだった。

そして、お返しの背負い投げをお見舞いすると、石畳に強かに背中を打ち付けたチンピラは、うめき声をあげながらもだえ苦しみ、起き上がることすら出来なかった。

突然現れたおっさんが、颯爽とチンピラを退治する姿に、女性は驚きを隠せない様子で目をパチクリさせていた。

ちょっとしたヒーローになった気分だが、得意げにドヤるのも恥ずかしい場面だ。

「世の中、薄情な人間ばかりではないですから…」

「困った時は悲鳴をあげて、周囲に助けを求めることも大事ですよ」

クールに決め込んで、その場から立ち去ろうとすると…

「ま、待ってください…」

「実は、他にも困った問題を抱えてまして…」

「親切ついでに、ご相談に乗って頂けないでしょうか?」

女性が突然俺の手を取り引き留めて来た。

世の中、予期せぬ展開が続くものだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...