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第五章 選ばれし者 授けられし力

第七話 イデアの影 その1

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 「お兄ちゃん見て見て! ほら、浮いてる! 浮いてるよぉおぉ」
 「浮いてられるのは少しの間だから気を付けるんだぞ?」
 「うん、わかったぁ」

 現在クライマーユニットは絶賛自由落下中だ。

 当初最大速度で降下させるつもりだったのだけれど、イィザエル様から地上に着く前に打ち合わせをしておきたいという申し出があり、敢えて速度を緩めたのだ。どうせならその間無重力による空中浮揚を楽しんで貰おうと、ユニット内のGCS重力制御装置の作動を緩めてある。

 シィスが先ほどから、今までにない位の笑顔ではしゃいでいるのはその為だ。

 実に、実にカワイイ!!
 あと彼女は気づいていないみたいだけど、ミニスカートでフワフワされると健康的な太ももと、更にその奥がチラチラと見えて、こう、なんというか……実にイイ!!

 「マスター? なんかちょっと表現するのがためらわれる顔にニャっているけど大丈夫かニャ?」
 「ん? あぁ、大丈夫。大丈夫。あ、もう少し角度を……あぁ惜しいぃ!!」
 「……アニス君……」
 「はっ! いかんいかん。コホン……ミャア、減速開始六十秒前に合図を。あとシィスについてやっていてくれるか? 重力が戻ったら床に落ちるから、その前にちゃんと着地させておいてくれ」
 「了解ニャ」

 さすがネコといったところだろうか?
 身体が空中に浮かんでいる状態にすぐさま適応したミャアは、床や壁を自在に利用して、天井付近をふわついて遊んでいるシィスの下へと最短距離で移動していった。

 見れば当初はぎこちなく空中で手足をばたつかせて、その度に身体がコマのように回転していたシィスも、器用に手足を伸ばしたり縮めたりしながら自由に浮遊を楽しんでいる。

 「はぁ~……さっすがシィスだな。もう無重力化での動きに馴染んできている」
 「確かに優れた運動神経ね。アニス君とは正反対と言ったところかしら?」
 「ハハ。まぁその通りですね。シィスは凄いんですよ。いつも従士隊と一緒に鍛錬していますし、模擬戦でも父さんとクニーグさん――ウチの従士隊長なんですけど。その人以外には滅多に後れを取らないんです……まぁ聞いた話で実際に見たわけじゃないんですけどね。でもシィスならその通りなんだろうって思います。あの歳でアルス・べラム装身術も習得していますしね」
 「へぇ凄いわね……まだまだ成長するでしょうし、今後が楽しみといった所かしら」

 そう言うイィザエル様は、展開した四枚の羽根の力で揺らめく事もなく自然に空中に浮かんでいた。
 僕はといえば、椅子の脚部につま先をひっかけ――床に固定されているシートには、足先を突っ込んで身体を固定させるのに丁度よいすき間があるのだ――背もたれを掴んで身体をその場に固定させている。

 「そうですね……ちょっと座学が足りない気がしますけど責任感もありますし、領民からの人気も信頼も篤いですし、僕なんかよりよっぽど領主の座に向いていますよ」
 「アニス君はなる気はないの? 領主に」
 「僕ですか? いやぁ、僕は向いていないんで……今までも自分のやりたいこと。夢の実現の為に魔法の研究ばっかりしてきましたしね……多くの人に指示をだして、その人たちの人生に責任を持つなんて、俺には無理です」
 「そう? 私は結構向いているんじゃないかって思うんだけどね? さっきもミャアちゃんに的確に指示を飛ばしていたじゃない」
 「あれは……まぁ、ネコですし。なんか僕の部下らしいですので……まぁお世辞でも嬉しいです」
 「お世辞じゃないんだけどね……」

 優しい表情で僕を見ながらイィザエル様はそうおっしゃった。
 天使様だから嘘はつかないと思うし、多分心の底からそう思ってくださっているんだろう。なんとなくその美しい微笑みに後ろめたさを感じてしまうのは、表には現さない自分の本心を、自分自身でわかっているからだろう。

 結局のところ、僕が父さんの後を継いで領主になるしかない。とは思っている。
 けど、できることならそんな面倒事は全部シィスにうっちゃって、好きな事だけをして生きていきたいという本心が僕にはあるからだ。

 シィスが領主になって、僕は今まで通り……まぁ研究施設は消えちゃったから、軌道エレベーターのグランドタワーの中で、魔法の研究をして生きていきたいなぁという思いが僕には、ある。
 けどそんなのは、それこそ夢であることを僕は理解していた。
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