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第二章 光の柱
第七話 ごっこ遊び その4
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「……あのな。森の中一時間かけて歩いてきたってことは、帰りにも同じくらい時間かかるんだぞ。しかも父さんたちが戻ってくる前に屋敷に帰ってないといけないんだ。もし父さんたちが先だったら……ううう、どれだけ怒られることやら」
「この間こっぴどく怒られてたもんね。ダメだって言われてたのに前庭で魔法の練習して……庭の木が炭になってたっけ」
「しょうがないだろ。試したかったんだよコレ」
「なんだ。私と同じじゃないの」
「なんだって?」
「ううんなんでも」
小さくぽそっといった呟きをお兄ちゃんに聞かれるところだった。
危ない危ない。
でも、結局のところお兄ちゃんも誕生日プレゼントにもらったタクトを使ってみたいんだよね。
お兄ちゃんは魔法を使ってみたい。
私はこの武器で魔獣をずばーってやってみたい。
まぁ実際のところ魔獣には会えないんだから、お兄ちゃんも私もただのごっこ遊びなんだけどね。
私がそんな事を考えている間にも、お兄ちゃんは腰から抜いたマジックタクトをうっとりと見つめている。
「ほらグリップの上と下に二つの魔導石が填まっているだろ? 下には防御用魔導陣。上には攻撃用魔導陣が刻まれているんだ。マジックタクトは何も『理性の手』の向きや範囲を調整する為だけにあるわけじゃない。この防御用魔導石の存在によって、呪文詠唱という魔法使いの弱点を補う役目もあるんだ。そもそも魔法使いが魔法を発現させるには、どうしても呪文の詠唱が必要に――」
「あーはいはいはいはいわかったわかった。もぅ何を言ってるのかわからないのがわかったからいいよ」
「な、なんだよ。何も難しいこと言ってないだろ? シィスだって母さんに魔法の基礎教えてもらったじゃないか」
「私はむりぃ。母さんもお兄ちゃんも言ってることがよくわかんないんだもん。なんだっけ手を伸ばすぅ? とかイミフメー。頭から手なんて生えるのって感じ」
「頭からじゃない。まぁ頭からって仮定しても良いんだけど、それだと自縄自縛で――」
「だーっもうわかったから。それよりも私にはこれがあるから良いって」
ぶつくさと呟くお兄ちゃんの目の前で、私は新品のショートソードをしゅらぁああんと抜いた。
薄暗い森の中であっても、その銀色の輝きはとっても美しい。少しばかり習っている型動作を行ってみる。煌めく刀身。ビュンビュンと空を斬り割く音……うーんカッコいい!
「シィスには無理かぁ……はぁ、早く母さん帰ってこないかなぁ」
私がひゅんひゅんぶぉんぶぉんと剣を振り回す様子を見ながら、お兄ちゃんはそう言いつつ右腕に嵌められている黒い腕輪を触った。
その瞬間、腕輪に埋まっている透き通った魔晶石がゆらぁりと複雑な色に変わり始める。
妹の私にはない。お兄ちゃんだけが着けている腕輪。
良いなぁ。お兄ちゃんだけカッコいいの貰えて……。
じぃーっと物欲しそうに見つめている私に気づいたのだろう。
お兄ちゃんは右袖を少しめくって、わざと見せつけるように腕輪を顔の前にかざしふふーんと自慢げな顔をした。
「スゴイだろ? 純度の高い大魔晶石が一つと四つの補助魔晶石からなるチャージリングだ! 新しいのを母さんに貰ったんだ。いいだろー」
「べ、別に羨ましくなんかないもんっ……そんなの要らないし」
「まぁ確かにシィスには必要ないよな。これが要るのは魔力が高い人間だけだから」
「悪かったわね! 魔力が低くて」
「別に悪いってことはないさ。それにシィスは魔力低くないだろ? 僕と比べるから相対的に低く見えちゃうだけで」
「……」
「それに魔力が高いってのも良い事だけじゃないんだ。僕が幼い頃しょっちゅう熱だして寝込んでいたの知ってるだろ?」
「うん」
「コレがなかったら今頃僕はどうなってたことやら。いやぁチャージリングさまさまだね」
お兄ちゃんは魔力が高い。
どれくらいかっていうと王国魔法軍で働いていた母さんよりも高いくらい。
魔法軍は王国中から魔法のエリートが集まっている軍隊。当然みんな魔力が高くて、母さんも私なんかよりとってもとっても高い。
お兄ちゃんはその母さんよりずっとずっと多い魔力を持っているのだ。
大人は魔法が使えるから魔力が高くても大丈夫だそうなんだけど、幼い頃のお兄ちゃんは魔法が使えないから吸い出す必要があって、その為にあるのがチャージリングなんだって。
だから魔力の少ない私に必要ないのはわかっている。
わかってるけど、なんかカッコいいんだもん。
欲しくなっちゃうのはしょうがないよね。
「この間こっぴどく怒られてたもんね。ダメだって言われてたのに前庭で魔法の練習して……庭の木が炭になってたっけ」
「しょうがないだろ。試したかったんだよコレ」
「なんだ。私と同じじゃないの」
「なんだって?」
「ううんなんでも」
小さくぽそっといった呟きをお兄ちゃんに聞かれるところだった。
危ない危ない。
でも、結局のところお兄ちゃんも誕生日プレゼントにもらったタクトを使ってみたいんだよね。
お兄ちゃんは魔法を使ってみたい。
私はこの武器で魔獣をずばーってやってみたい。
まぁ実際のところ魔獣には会えないんだから、お兄ちゃんも私もただのごっこ遊びなんだけどね。
私がそんな事を考えている間にも、お兄ちゃんは腰から抜いたマジックタクトをうっとりと見つめている。
「ほらグリップの上と下に二つの魔導石が填まっているだろ? 下には防御用魔導陣。上には攻撃用魔導陣が刻まれているんだ。マジックタクトは何も『理性の手』の向きや範囲を調整する為だけにあるわけじゃない。この防御用魔導石の存在によって、呪文詠唱という魔法使いの弱点を補う役目もあるんだ。そもそも魔法使いが魔法を発現させるには、どうしても呪文の詠唱が必要に――」
「あーはいはいはいはいわかったわかった。もぅ何を言ってるのかわからないのがわかったからいいよ」
「な、なんだよ。何も難しいこと言ってないだろ? シィスだって母さんに魔法の基礎教えてもらったじゃないか」
「私はむりぃ。母さんもお兄ちゃんも言ってることがよくわかんないんだもん。なんだっけ手を伸ばすぅ? とかイミフメー。頭から手なんて生えるのって感じ」
「頭からじゃない。まぁ頭からって仮定しても良いんだけど、それだと自縄自縛で――」
「だーっもうわかったから。それよりも私にはこれがあるから良いって」
ぶつくさと呟くお兄ちゃんの目の前で、私は新品のショートソードをしゅらぁああんと抜いた。
薄暗い森の中であっても、その銀色の輝きはとっても美しい。少しばかり習っている型動作を行ってみる。煌めく刀身。ビュンビュンと空を斬り割く音……うーんカッコいい!
「シィスには無理かぁ……はぁ、早く母さん帰ってこないかなぁ」
私がひゅんひゅんぶぉんぶぉんと剣を振り回す様子を見ながら、お兄ちゃんはそう言いつつ右腕に嵌められている黒い腕輪を触った。
その瞬間、腕輪に埋まっている透き通った魔晶石がゆらぁりと複雑な色に変わり始める。
妹の私にはない。お兄ちゃんだけが着けている腕輪。
良いなぁ。お兄ちゃんだけカッコいいの貰えて……。
じぃーっと物欲しそうに見つめている私に気づいたのだろう。
お兄ちゃんは右袖を少しめくって、わざと見せつけるように腕輪を顔の前にかざしふふーんと自慢げな顔をした。
「スゴイだろ? 純度の高い大魔晶石が一つと四つの補助魔晶石からなるチャージリングだ! 新しいのを母さんに貰ったんだ。いいだろー」
「べ、別に羨ましくなんかないもんっ……そんなの要らないし」
「まぁ確かにシィスには必要ないよな。これが要るのは魔力が高い人間だけだから」
「悪かったわね! 魔力が低くて」
「別に悪いってことはないさ。それにシィスは魔力低くないだろ? 僕と比べるから相対的に低く見えちゃうだけで」
「……」
「それに魔力が高いってのも良い事だけじゃないんだ。僕が幼い頃しょっちゅう熱だして寝込んでいたの知ってるだろ?」
「うん」
「コレがなかったら今頃僕はどうなってたことやら。いやぁチャージリングさまさまだね」
お兄ちゃんは魔力が高い。
どれくらいかっていうと王国魔法軍で働いていた母さんよりも高いくらい。
魔法軍は王国中から魔法のエリートが集まっている軍隊。当然みんな魔力が高くて、母さんも私なんかよりとってもとっても高い。
お兄ちゃんはその母さんよりずっとずっと多い魔力を持っているのだ。
大人は魔法が使えるから魔力が高くても大丈夫だそうなんだけど、幼い頃のお兄ちゃんは魔法が使えないから吸い出す必要があって、その為にあるのがチャージリングなんだって。
だから魔力の少ない私に必要ないのはわかっている。
わかってるけど、なんかカッコいいんだもん。
欲しくなっちゃうのはしょうがないよね。
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