AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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 応戦が始まり、あちらこちらで剣と牙がぶつかりあう盛大な音がし始めた。ようやく展開された陣からは敵に対する呪いの言葉が吐かれ、間もなくして矢が放たれる。

 それでも凶悪な獣たちは、ひるみもせずにつっこんできた。戦いはますます白熱していく。

 龍《りゅう》は犬たちを手早くいなしながら、逃げ遅れた仲間に声をかけた。

「こちらへ! 援護します!」
「お姉ちゃん、下にまだ三人いる!」

 龍も、虎子《とらこ》も目の前のことで必死だったから、知るよしもなかった。別行動をとっていたエルンストが、いつの間にか龍の背後に来ていたことを。

「無駄なことをするな」

 合図を送ろうとした龍の視界が、急にぐるりと回った。背中が地面に打ち付けられ、痛みで思わずうめく。

「しまった、お姉ちゃん!!」
「う……」

 龍がかわせなかった悔しさを自覚する前に、エルンストが口を開いた。

「向こうの奴らは放っておけ」

 頭に血が昇っているのは、先ほど投げられたためではないだろう。

「自分の言っていることが分かってるんですか!?」

 驚いた龍は、思わず怒鳴っていた。

「お前には関係のないことだ。ここの頭は俺だぞ」

 不機嫌そうな様子のエルンストは鼻を鳴らすと、龍の首元をつかんで獣の方へ突き飛ばした。

「綺麗事を吠えるお嬢さんだ、しっかり捕まえておけよ」
「待ちなさい!!」
「目障りだ、とっとと行け。大事な荷は落とすなよ」

 龍はなんとか戻ろうと身をよじったが、馬に似た獣の顎は強靱だった。龍をくわえたまま走り出し、後方ではなく山の方へ駆け上り始めた。

 獣は無理矢理に道を突き進む。運良く側にいたものはそれにしがみついたり、すぐ後ろを走り抜けることができた。しかし場所取りが悪かったり、戻ろうと決めていた者はそれに乗り遅れてしまった。

「おい、何やってるんだ!?」
「俺たちも乗せてくれ、頼む!!」

 声を限りに叫ぶ同業者を見捨て、冷淡にも本隊は進み始めた。獣たちが一斉に山を登り、休むことなく走り続ける。ようやく彼らが止まった時には、もはや森の入り口は遥か下に見えなくなっていた。

「あ……」

 龍は何か言いかけて、沈黙せざるを得なかった。さっきのことのはずなのに、ずいぶん前のように感じられる。

 それでも、忘れられるはずもない。自分たちも連れて行ってくれと叫ぶ、あの必死の声と形相は。最後まで助けようとしたのだと精一杯自分に言い聞かせても、単なる言い訳だとわかっていた。

「無事か、女」

 気づくと、エルンストが傍らに立っていた。龍が一人で胸を痛めていたのを見ても、心を動かした様子が無い。

「やけにあっさり見捨てましたね」

 冷たい目で見る龍を、エルンストは得意げに見返した。

「奴らも承知の上で来たんだ。切り抜ける腕がなかったのが悪い。重荷になる死体は獣にくれてやれ。俺たちはその間に先へ進むぞ」

 かつての仲間にかけたとは思えない言葉に龍は激高したが、まだ服に噛みつく獣の力の前に敗北し、エルンストの背中を見送るしかなかった。



 山を駆け上り、しばらく経つとようやく、少し平らになった広場に出た。何者かが切り開いたところらしく、古い道具がそこここに残っている。

 彷徨っていた一行は、ようやく腰を下ろして休むことを許された。

「俺たち、生きてるのか……」

 誰かがぽつりと呟いた言葉が、妙に龍の胸を刺した。

 すでにいくつかの隊が見えなくなっている。生き残った者は直撃を受けなかったため大きな傷はないが、それでも動揺は広がっていた。冒険者たちは、しきりにさっきかいた汗をぬぐったり、水を飲んだりしている。

 そして中には当然、嫌悪をもってエルンストをにらむ者もいる。

「頭の言うことを聞いてても、いいことなんて何もないぞ」
「あいつをいっそ捨てて、新しく頭を誰かにやってもらった方がいい……」

 冒険者たちにねめつけられても、エルンストはひとり落ち着いている。

「お前、さっきのはどういうつもりだ!!」

 一人の冒険者が、えらい剣幕でエルンストに詰め寄った。それに数人が続く。龍は彼らとエルンストの顔を見比べながら、ことの次第を見守った。

「さっきのとは?」
「仲間を囮にして逃げただろう!!」
「そんなものは生き残るための常識だ。ドラゴン退治に犠牲が出ないとでも思っていたのか、めでたいな」
「そんなつもりじゃないが、やりようってものが……」
「ではどんなやりようがあった。言ってみろ」

 エルンストはじっと冒険者たちを見つめた。

「無責任に人を責めるだけの連中は楽だな。俺は全員分の命を預かって、どうやって最小限の犠牲でお前らを守ろうか必死に考えてるっていうのに」

 目を見開いたエルンストに対し、冒険者たちは反射的に固まってしまう。それを見るエルンストは、とても嬉しそうに見えた。

「そもそもお前たちに、ここを切り抜けるだけの知恵があるのか? 眷属に囲まれたらどうしようもない有象無象が」

 そう言って笑ってみせる。その問いに対して、自信をもって答えられる者はいなかった。普段なら青筋立てて怒る者もいようが、思ってもみなかった事態に直面した今は、内心の動揺がおさまっていない。
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