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地底の底から立つ炎
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手をさしのべられた隊員たちから、呑気な声があがる。ごつい顔の奴が多いが、意外に素直なのだ。だが、そうそう緩んでもらってはまずいことになる。
龍《りゅう》が真面目に何か言おうと思ったとき、エルンストが大きく腕を伸ばした。
「……確かに俺は強い」
蔓を切ったばかりの剣を地に叩きつけながら、エルンストが言った。
「ただし、気は抜くなよ。この島に入ってから、安心していい瞬間なんて一つもないぞ!」
「恐れ入ったぜ、隊長。気をつけるよ」
笑っていた冒険者たちの顔が引き締まった。一応、統率の才は少しはあるらしい。一挙一動を見ていた龍は、一旦彼らから目を離した。そして、愛生の顔を思い浮かべた。別れたのは少し前なのに、もう十年も離れているような気さえする。どうしているだろう。どこかで待っていてくれているだろうか。
そんな龍の内心をよそに、冒険者たちはじりじりとではあったが、前に進んでいた。剣と槍とで闘うのがきつい相手には、龍の銃弾とワイヤーが大いに役に立った。
これまでは。
「しかし、無駄遣いはできませんね……」
さっき試してみたのだ。フェムトを組み替えて銃弾を作ろうとしても、できない。形を取ろうとはするのだが、途中でへたって崩れてしまう。どんなに丁寧にやってみても、結果は同じだった。
龍は一旦作業をやめ、己を落ち着かせた。ゲームのルールがそうだとしたら、やきもきしても仕方無い。龍は口元を引き締めた。
それからは期待されても、単純な弾切れで押し通した。どこかでエイドステーションに寄れればいいが、残念なことにその兆候はまるでない。
「ち、役に立ったのは最初だけかよ」
揶揄の言葉にも龍は一人で耐えた。そんな歩みを、一時間ほど続けた頃だろうか。
小隊の隊員を何人か怪我で失った後、疲れが見えるようになった冒険者たちは、また思わぬトラブルで歩みを止めることになった。
目の前にまるで鉄線のような茨が絡み合った茂みが有り、冒険者たちの行く手を阻んでいた。その奥を見通すことは出来ず、今まで前のめりになっていた誰もが、そこにつっこむのをためらう。
「奥に敵の反応は?」
「今のところ、何もいないみたい」
虎子《とらこ》の返答に、龍は少し安堵した。単なる破壊だけなら、冒険者たちでも不足はないだろう。一歩下がって見守ることにした。
「思ったよりしっかりした茨だな」
「くそ、斧を持ってこい。まったく、厄介な森だぜ」
怒り出した一部の者たちを、他の仲間がなだめ、そろって斧の刃を叩き込む。彼らの腕には、ひっかき傷がどんどん増えていった。
「なかなか向こうが見えないな……」
「もしかしたら火で燃えないか、これも?」
茨に足を踏み入れるのを嫌った誰かが、そう言い出した。その提案は見事だと皆に賞賛され、さっそく火種が集められる。
「やめておきなさい。何かが火につられて、やってくるかも」
「ああ? 周りにはなにもいないだろ」
老人だけがそれを止めようとしたが、所詮ひとり。立場は弱く、屈強な冒険者たちに押し切られてしまった。
確かに火はどんどん燃え上がり、茨は崩れ落ちた。一応その向こうには、裂けてはいたが道と言えるような平らな地面も見える。
「どうだ。やっぱり植物は火には弱いんだよ」
自慢げに言う冒険者の様子を見て取って、隊列が動き始める。虎子が叫んだのはその時だった。
「反応、下から!!」
「下?」
相変わらず敵の姿は見えない。急にそんなことを言われても、と龍は困惑する。龍が行動する前に、冒険者たちの口から悲鳴がもれた。
「うわああああ、食われた!!」
「こいつら、どうやって潜んでやがったんだ!?」
下から飛び出してくるのは、敵意で目を真っ赤にした、狼に似た獣たち。彼らは炭でいぶしたような真っ黒な体毛を持ち、牙をむき出しにして襲いかかってきた。
「まだ出てくる!」
虎子がうろたえている。彼らはどうやってか、体の形状を変化させられるようだ。体をふらふらと揺らし、薄い煙のようになりながら、道に入っているヒビから続々と新手がやってきた。彼らは的確に、切り離されて少人数になっているところを狙ってくる。
「やはり炎につられて来たか、『火食い』の眷属」
老人が最低限の荷物を提げて移動を始める。エルンストはそちらをちらっと見たが、何も言わなかった。
「とりあえず退路を開いて!」
虎子の言う通りだと、すぐに分かった。龍は一旦迷ったが、思い直して銃で敵を威嚇する。ここで死んだら元も子もない。
前へ進もうという抵抗は徒労になった。隊列は役に立たず、何人かが喉を牙で裂かれ、鮮血をあたりにまき散らしのたうった。それに足を滑らせてさらに人が転び、ますます状況が悪化していく。
「くそ!」
「後ろだ、一旦後ろへ行け!!」
事態を把握した仲間が、怪我人と敵との間に分け入ってくる。龍はそちらを狙ってくる犬に銃口を向けた。
「こっちは請け負う、左手を頼む!!」
「引き受けました、気をつけて!」
冒険者たちに言われて、龍は大きく体の向きを変える。
龍《りゅう》が真面目に何か言おうと思ったとき、エルンストが大きく腕を伸ばした。
「……確かに俺は強い」
蔓を切ったばかりの剣を地に叩きつけながら、エルンストが言った。
「ただし、気は抜くなよ。この島に入ってから、安心していい瞬間なんて一つもないぞ!」
「恐れ入ったぜ、隊長。気をつけるよ」
笑っていた冒険者たちの顔が引き締まった。一応、統率の才は少しはあるらしい。一挙一動を見ていた龍は、一旦彼らから目を離した。そして、愛生の顔を思い浮かべた。別れたのは少し前なのに、もう十年も離れているような気さえする。どうしているだろう。どこかで待っていてくれているだろうか。
そんな龍の内心をよそに、冒険者たちはじりじりとではあったが、前に進んでいた。剣と槍とで闘うのがきつい相手には、龍の銃弾とワイヤーが大いに役に立った。
これまでは。
「しかし、無駄遣いはできませんね……」
さっき試してみたのだ。フェムトを組み替えて銃弾を作ろうとしても、できない。形を取ろうとはするのだが、途中でへたって崩れてしまう。どんなに丁寧にやってみても、結果は同じだった。
龍は一旦作業をやめ、己を落ち着かせた。ゲームのルールがそうだとしたら、やきもきしても仕方無い。龍は口元を引き締めた。
それからは期待されても、単純な弾切れで押し通した。どこかでエイドステーションに寄れればいいが、残念なことにその兆候はまるでない。
「ち、役に立ったのは最初だけかよ」
揶揄の言葉にも龍は一人で耐えた。そんな歩みを、一時間ほど続けた頃だろうか。
小隊の隊員を何人か怪我で失った後、疲れが見えるようになった冒険者たちは、また思わぬトラブルで歩みを止めることになった。
目の前にまるで鉄線のような茨が絡み合った茂みが有り、冒険者たちの行く手を阻んでいた。その奥を見通すことは出来ず、今まで前のめりになっていた誰もが、そこにつっこむのをためらう。
「奥に敵の反応は?」
「今のところ、何もいないみたい」
虎子《とらこ》の返答に、龍は少し安堵した。単なる破壊だけなら、冒険者たちでも不足はないだろう。一歩下がって見守ることにした。
「思ったよりしっかりした茨だな」
「くそ、斧を持ってこい。まったく、厄介な森だぜ」
怒り出した一部の者たちを、他の仲間がなだめ、そろって斧の刃を叩き込む。彼らの腕には、ひっかき傷がどんどん増えていった。
「なかなか向こうが見えないな……」
「もしかしたら火で燃えないか、これも?」
茨に足を踏み入れるのを嫌った誰かが、そう言い出した。その提案は見事だと皆に賞賛され、さっそく火種が集められる。
「やめておきなさい。何かが火につられて、やってくるかも」
「ああ? 周りにはなにもいないだろ」
老人だけがそれを止めようとしたが、所詮ひとり。立場は弱く、屈強な冒険者たちに押し切られてしまった。
確かに火はどんどん燃え上がり、茨は崩れ落ちた。一応その向こうには、裂けてはいたが道と言えるような平らな地面も見える。
「どうだ。やっぱり植物は火には弱いんだよ」
自慢げに言う冒険者の様子を見て取って、隊列が動き始める。虎子が叫んだのはその時だった。
「反応、下から!!」
「下?」
相変わらず敵の姿は見えない。急にそんなことを言われても、と龍は困惑する。龍が行動する前に、冒険者たちの口から悲鳴がもれた。
「うわああああ、食われた!!」
「こいつら、どうやって潜んでやがったんだ!?」
下から飛び出してくるのは、敵意で目を真っ赤にした、狼に似た獣たち。彼らは炭でいぶしたような真っ黒な体毛を持ち、牙をむき出しにして襲いかかってきた。
「まだ出てくる!」
虎子がうろたえている。彼らはどうやってか、体の形状を変化させられるようだ。体をふらふらと揺らし、薄い煙のようになりながら、道に入っているヒビから続々と新手がやってきた。彼らは的確に、切り離されて少人数になっているところを狙ってくる。
「やはり炎につられて来たか、『火食い』の眷属」
老人が最低限の荷物を提げて移動を始める。エルンストはそちらをちらっと見たが、何も言わなかった。
「とりあえず退路を開いて!」
虎子の言う通りだと、すぐに分かった。龍は一旦迷ったが、思い直して銃で敵を威嚇する。ここで死んだら元も子もない。
前へ進もうという抵抗は徒労になった。隊列は役に立たず、何人かが喉を牙で裂かれ、鮮血をあたりにまき散らしのたうった。それに足を滑らせてさらに人が転び、ますます状況が悪化していく。
「くそ!」
「後ろだ、一旦後ろへ行け!!」
事態を把握した仲間が、怪我人と敵との間に分け入ってくる。龍はそちらを狙ってくる犬に銃口を向けた。
「こっちは請け負う、左手を頼む!!」
「引き受けました、気をつけて!」
冒険者たちに言われて、龍は大きく体の向きを変える。
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