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ついに目前へと
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「それを聞く気はあるか?」
問うと、石像は口をつぐんだままうなずいた。
「互いに最も近くに属する二人は、当然ながらお互いしか見ていない。こういう組み合わせの二人を順に消していくと、どうなるか」
愛生《あい》はそう言って指をたてた。
「もともとの少女の総数は十五人、つまり奇数だ。二人ずつ消していけば、必ず最後に一人余る。当たり前だな。つまり、さっきたてた仮説は崩壊し、誰からも見られていない少女が一人存在するという最初の説が正しかったことになる。地図から見た情報で割り出した少女は──」
そう言って愛生は、一人の少女を指さす。
「どうだ?」
解答に立ち会った石像は、大きく口を開いた。
「正解だ」
そして石像は不敵に笑う。妙な気配を感じて、愛生は密かに身構えた。
「そして死ね」
石像が高らかに吠えると、一気に少女たちが石像となって崩れた。
石像は腕を振りあげる。愛生がそれをよけると、体をひねるようにして、後ろ足の蹴りを叩き込んできた。
もつれる足で逃げ惑う他の男を余所に、愛生は片手で石像の足を受け止める。捕まれ投げ飛ばされ、文字通り宙を舞った石像が、驚愕にも似た声をあげた。
「やることがみみっちいんだよ、てめえは!!」
風とともに間近に落ちてきた石像に一撃を食らわそうとした瞬間、石像は脱兎の勢いで逃げ出した。短い足を器用に使い、馬の何倍もの速さで駆けていく。そのあまりにもプライドのない姿に、愛生の方が驚いてしまった。
「まあ、いいか……」
愛生はまだ痺れる掌を見つめながら、息を吐いた。眷属が去った方に向かって、舌を出す。
真剣にことの次第を見守っていたノアたちから、一斉にため息がもれた。
「具合はどうだ」
「問題ない」
近付いてきたノアに、愛生は手を振る。
「結局最後は実力行使かよ。失礼な眷属だな」
「ってかあいつ、動けたのか……」
転んでいた男たちが立ち上がってきた。まだ目の前の光景が信じられない様子だ。
「やったな」
「お前もれっきとした宝探し屋の一員だ」
「褒めてつかわすぞ」
それでもしばらくすると、笑い声があがる。群がってきて拍手までされたので、愛生はすっかり照れてしまった。この前に続けて、これで二件役に立った。少しは、恩返しできただろうか。
「余裕が出来たな。今日はあの洞窟でゆっくりするか?」
「いや、残念だが……さすがにそれは無理だ。ドラゴンも眷属の撃破にはすぐ気づくだろう。今のうちに距離を稼ぐぞ、荷物を持ってこい」
仲間の言葉に、ノアが苦笑しながら言った。
こうして一行は、再び身を潜める隠遁者となった。日没後の闇にまぎれて、再度じりじり道を行く。ノアたちが調べた、最も安全な道を行けたおかげか、上へ上へいっても道そのものの危険は少なかった。ナビがあてにならない愛生にとって、彼らと一緒に来たのは大正解だ。
「助かる。いい道を知ってるな」
「は、由緒正しき宝探し屋をなめるなよ」
話を聞くと、宝探し屋が最も重視するのは、宝があるとされる土地の地形調査だという。
「間違えば物資も装備も浪費して、赤字がますますひどくなっちまうからな」
彼らが聞くところによると、スポンサーのついている冒険者たちはそこまで神経質にはならないらしい。昔からあいつらは何もかも用意してもらうところがダメなんだ、だからこっちの方が有能だ、という宝探し屋たちの愚痴を、愛生はさんざん聞かされた。
そうなるとやはり面倒なのは眷属で、最後にはノアが見つけてきた姿隠しの魔法を使って、なんとか道を通り抜けた。その繰り返しで、進むことまる一日。幸い全員が健在のまま、とうとう決定的な瞬間を迎えた。
「おい、あそこにいるぞ。間違いない」
切り立った谷を越え、岩を目印に進むこと数日後、ようやく燃えるドラゴンの尾が見えてきた。見事に長く、山頂を巻き取るほどの尾の先には、赤い炎が燃えている。
「辿り着いたな」
「いつかは着くと分かってたが、とうとうか……」
しかし、歓声をあげる者など誰もいない。眷属の姿が見当たらないのが奇妙なのだ。
「あんなに大変だったのに、ここがこんなにがらんとしてていいのかよ……」
姿を消したふりをして、まだどこかにいるのではないか。一同は色々な方向を向いて確かめたが、それらしき姿は見えなかった。
「……まあ、いないならいないでいいさ。あっちで最後の打ち合わせだ」
ノアはそう言うと、振り返って愛生を見た。
「結局、愛生の探し人はいなかったな。こんなところまで来たのに」
「そうだったな。それならドラゴンを倒すために来たってことにしとくさ」
文句を言う前にまず自分の仕事を片付けてしまった方がいい。愛生は苦笑してノアに手を振った。
腰をかがめ、道端の岩陰に伏せるようにした面々にノアが言う。
「いいか、ここから先が本番だ。俺たちには、とてもじゃないが正面からドラゴンとやりあうような力はない。だから隙を見計らって罠を仕掛けたら即、一斉攻撃だ」
「罠って、具体的にはどんなものなんだ?」
問うと、石像は口をつぐんだままうなずいた。
「互いに最も近くに属する二人は、当然ながらお互いしか見ていない。こういう組み合わせの二人を順に消していくと、どうなるか」
愛生《あい》はそう言って指をたてた。
「もともとの少女の総数は十五人、つまり奇数だ。二人ずつ消していけば、必ず最後に一人余る。当たり前だな。つまり、さっきたてた仮説は崩壊し、誰からも見られていない少女が一人存在するという最初の説が正しかったことになる。地図から見た情報で割り出した少女は──」
そう言って愛生は、一人の少女を指さす。
「どうだ?」
解答に立ち会った石像は、大きく口を開いた。
「正解だ」
そして石像は不敵に笑う。妙な気配を感じて、愛生は密かに身構えた。
「そして死ね」
石像が高らかに吠えると、一気に少女たちが石像となって崩れた。
石像は腕を振りあげる。愛生がそれをよけると、体をひねるようにして、後ろ足の蹴りを叩き込んできた。
もつれる足で逃げ惑う他の男を余所に、愛生は片手で石像の足を受け止める。捕まれ投げ飛ばされ、文字通り宙を舞った石像が、驚愕にも似た声をあげた。
「やることがみみっちいんだよ、てめえは!!」
風とともに間近に落ちてきた石像に一撃を食らわそうとした瞬間、石像は脱兎の勢いで逃げ出した。短い足を器用に使い、馬の何倍もの速さで駆けていく。そのあまりにもプライドのない姿に、愛生の方が驚いてしまった。
「まあ、いいか……」
愛生はまだ痺れる掌を見つめながら、息を吐いた。眷属が去った方に向かって、舌を出す。
真剣にことの次第を見守っていたノアたちから、一斉にため息がもれた。
「具合はどうだ」
「問題ない」
近付いてきたノアに、愛生は手を振る。
「結局最後は実力行使かよ。失礼な眷属だな」
「ってかあいつ、動けたのか……」
転んでいた男たちが立ち上がってきた。まだ目の前の光景が信じられない様子だ。
「やったな」
「お前もれっきとした宝探し屋の一員だ」
「褒めてつかわすぞ」
それでもしばらくすると、笑い声があがる。群がってきて拍手までされたので、愛生はすっかり照れてしまった。この前に続けて、これで二件役に立った。少しは、恩返しできただろうか。
「余裕が出来たな。今日はあの洞窟でゆっくりするか?」
「いや、残念だが……さすがにそれは無理だ。ドラゴンも眷属の撃破にはすぐ気づくだろう。今のうちに距離を稼ぐぞ、荷物を持ってこい」
仲間の言葉に、ノアが苦笑しながら言った。
こうして一行は、再び身を潜める隠遁者となった。日没後の闇にまぎれて、再度じりじり道を行く。ノアたちが調べた、最も安全な道を行けたおかげか、上へ上へいっても道そのものの危険は少なかった。ナビがあてにならない愛生にとって、彼らと一緒に来たのは大正解だ。
「助かる。いい道を知ってるな」
「は、由緒正しき宝探し屋をなめるなよ」
話を聞くと、宝探し屋が最も重視するのは、宝があるとされる土地の地形調査だという。
「間違えば物資も装備も浪費して、赤字がますますひどくなっちまうからな」
彼らが聞くところによると、スポンサーのついている冒険者たちはそこまで神経質にはならないらしい。昔からあいつらは何もかも用意してもらうところがダメなんだ、だからこっちの方が有能だ、という宝探し屋たちの愚痴を、愛生はさんざん聞かされた。
そうなるとやはり面倒なのは眷属で、最後にはノアが見つけてきた姿隠しの魔法を使って、なんとか道を通り抜けた。その繰り返しで、進むことまる一日。幸い全員が健在のまま、とうとう決定的な瞬間を迎えた。
「おい、あそこにいるぞ。間違いない」
切り立った谷を越え、岩を目印に進むこと数日後、ようやく燃えるドラゴンの尾が見えてきた。見事に長く、山頂を巻き取るほどの尾の先には、赤い炎が燃えている。
「辿り着いたな」
「いつかは着くと分かってたが、とうとうか……」
しかし、歓声をあげる者など誰もいない。眷属の姿が見当たらないのが奇妙なのだ。
「あんなに大変だったのに、ここがこんなにがらんとしてていいのかよ……」
姿を消したふりをして、まだどこかにいるのではないか。一同は色々な方向を向いて確かめたが、それらしき姿は見えなかった。
「……まあ、いないならいないでいいさ。あっちで最後の打ち合わせだ」
ノアはそう言うと、振り返って愛生を見た。
「結局、愛生の探し人はいなかったな。こんなところまで来たのに」
「そうだったな。それならドラゴンを倒すために来たってことにしとくさ」
文句を言う前にまず自分の仕事を片付けてしまった方がいい。愛生は苦笑してノアに手を振った。
腰をかがめ、道端の岩陰に伏せるようにした面々にノアが言う。
「いいか、ここから先が本番だ。俺たちには、とてもじゃないが正面からドラゴンとやりあうような力はない。だから隙を見計らって罠を仕掛けたら即、一斉攻撃だ」
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