AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

文字の大きさ
上 下
84 / 101

山中の急襲

しおりを挟む
「お前たち、龍《りゅう》って名前に聞き覚えはないか? どこかで会ったことは?」
「いや」

 居並ぶ面々は、一斉に首を横に振った。

「その人は、お前とどういう関係なんだ?」
「……俺の婚約者だ。一緒に旅をしてたんだが、とある理由ではぐれてな。腕の立つ女だから、どこかで聞いたことがないかと思って」

 愛生《あい》は切ない思いをかみ殺しながら言った。

「そうか、そりゃ難儀だな」

 ノアは顔をしかめた。

「今回はたくさん仲間と力を合わせてやってるが、いつもは一人だぞ。宝探し屋はだいたいそうだ」

 頭数が増えると、支え合うメリットに比べて、宝を奪い合うことになった場合のデメリットが大きすぎるのだそうだ。そりゃそうだ。

「国や貴族から支援を受けて宝探しや新しい航路の航海をする、冒険者なら結構つるむんだけどな。有名な依頼に参加した経験がありゃ、名前が売れやすいから」
「冒険者は男が多いからなあ……あんたが言うような美人がいたら気づいたと思うが」

 他の面々に聞いても、結果は同じだった。

 薄闇の中、愛生はため息をつきながら食事を再開した。今は休んで、後からもっと資料を読み込もう。ここから抜け出さないと、龍にも会えない。



「……朝か」

 愛生は資料を抱えたまま、うとうとしてしまったらしい。軽く眠ったからか、気分はいくらか良くなっていた。目覚めた後に携帯食料で腹ごしらえをし、少ない水で顔を拭く。痛むこめかみをほぐして顔を上げると、ノアたちが立っていた。

「行くぞ。今日は、第三ポイントまでは進みたい」

 ノアたちは島の地図を持っていた。休憩できそうな場所をポイントとして定め、一日でそこへ辿り着くことを目的とする。

 少人数のため、不意をつかれれば容易に全滅する。そのため、常に周囲に気を配りながらじりじり進んだ。やがて、石がゴロゴロしている荒れた林道に出る。頭上を不気味な木々が覆い隠しているので、足元がおぼつかない。

「石を使うか?」
「なんとか見えるから温存しよう。石は、本当に困った時だけだ」

 手の届く範囲から離れないよう注意しながら進む。少なくとも、はぐれることだけはない布陣だった。道中、焚き付けに使えそうな木や草を拾いながら進む。

「まとめて狙われたら全滅だけどな」
「うるさい」

 愛生が言った言葉に、ノアが苦々しく答える。

 重い荷物を背負った一行は、列になって森をさらに行った。小一時間ほど歩いたところで、急に花火に点火した時のような音がする。

「なんだ……?」

 不審な音に、全員が足を止め前方を見つめた。このまま歩くべきか、止まって迎撃するべきか、ノアでさえ気弱になって迷っている様子だ。

 途方に暮れても仕方無いと、愛生はとりあえず耳をすませる。熱い風に混じって、わずかに頭上から音が聞こえてきた。

「木の上に、何かいる!」

 ノアもそれに気づいていた。彼の声に反応して、誰もが傍らの木を見上げた。頭上から火の粉が落ちてきて、そこここから悲鳴があがる。

 愛生はまじまじと上方を見つめた。落ちてくる火の粉の威力はたいしたことが無い。これは目くらましだ、と判断した愛生はそこから目を離し、周囲を眺める。

 上を見て欲しい、ということは、本当の狙いはそれとは逆。一瞬でそこまで計算した愛生は、石を拾い、重心を低くして構えた。

 次の瞬間、見通しの悪い低木の茂みから何かが躍り出た。一同の背後から、身を低くした赤い犬がつっこんでくる。

「やっぱりそこから来たか!」

 動きを読んでいた愛生は飛び上がり、振りかぶった石を犬の背中に落とす。

「下から犬が来た! こっちが本隊だ!!」

 次々と茂みから犬が顔を出す。驚愕した一同の中で、ノアが真っ先に立ち直った。

「待て、確認する!」

 彼は素早く近くの木によじ登る。上に手を伸ばし、何かをつかみ出した。愛生にも見える。それは花粉のように、火の粉を撒く花だった。

 ノアはちらっとそれを改め、手袋をした手で花を握りつぶした。

「そいつの言う通りだ、こっちは囮だ!! 下の奴は登れ!!」

 ノアの呼び声に応じて、男たちが木に足をかける。愛生は一行の足を食いちぎろうとする犬を蹴り倒し、自分も大地を蹴って木に飛びついた。下を気にせず、ひたすら太い枝を踏んで上を目指す。

「石を使う、道連れになるなよ!!」

 ノアの放った石が、木漏れ日をうけて一層強く輝いた。地面に当たって砕けたそれは、小さな破壊音を立てた後、大量の水を吐き出した。水はあっという間に川を形成し、地面が見えなくなる。

 愛生は一瞬、呆然としてそれを見つめた。

 濁流は木の中程までも届いた。靴を濡らし、慌ててもっと上の枝に登る者もいる。しかしその勢いのおかげで、犬たちは吹き飛んでそのまま流されていった。

 凪いだ水は、それから五分もすると余所へ流れていった。

「あっけないもんだな……」

 激流が静まってから、我に返ったような顔で男たちが木から降りてきた。男たちはしばらく肩で息をしていたが、やがて周囲を片付け、失った荷物の欠片がないか確かめめはじめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...