AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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その男、何者か

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「よくやり過ごせたもんだ。素人を連れて。……俺も強くなったのかな」
 息を切らしている男の横で、愛生《あい》は体を見た。自分も息は荒くなっていたが、体に激しい傷みはない。大して手傷を負っていないのを確認し、ほっと息を吐く。

 しかし、よく見てみると、手袋だけでなく、靴の底が熱で溶けて丸くなっていた。ドラゴンの近くに行っただけでこの有様である。いったい、ゲームマスターは何をさせようというのか。

 愛生が困惑しているうちに、愛生の襟首をつかんだ男が近寄ってくる。坊ちゃんのような顔立ちをしているし、体も細くてたくましいとはとても言えないが、身長は愛生よりも高かった。

 男はじっと愛生を見つめてから言った。

「それはただの手袋か?」
「そうなんだ。溶けてる」

 首をかしげる愛生を見て、男は鼻で笑った。

「当たり前だろう。何も知らないんだな」

 バカにされて気が悪くなったが、その通りなので言い返せない。生き残っているのは奇跡としか言いようがなかった。

「あーあ、お前のせいでだいぶ戻っちまったよ。いいところまで行ってたのにな」
「……なんで俺を助けた?」

 男にそう聞くと、相手はむっつりした顔で答える。

「見ちまったからには通り過ぎるって選択はなしだろ。命が助かるならそれに越したことはない。お前、ドラゴンと戦いに来たのか?」
「……残念だがそうじゃない」

 愛生はドラゴンのことを思い返す。

 ドラゴンの周辺は、焼きはらわれて炎で満ちていた。どういう仕組みなのか、燃えるものもないはずなのに、炎はまだくすぶっていた。熱と衝撃で裂けた大地が、怪物の口のように尖った断面をさらしていたのを、まだ覚えている。

 あれと推理ゲームができるとは思えないし、今回の目的はまだ不明だ。

 愛生が黙っていると、男は驚いた様子で聞いてきた。

「じゃあなんでここにいるんだよ。バカなことをしてるって自覚はあるのか?」

 愛生は言い返しかけてやめた。好き好んで来たわけじゃない、とわめいたって、頭がおかしいと思われるだけだ。

 そんな愛生を、男は軽くねめつけた。

「……面構えは悪くないな。猿をやっつけた手並みも悪くなかった。あてがないなら俺たちと来るか? 知り合ったのも何かの縁だからな」

 その申し出を、愛生はありがたく受ける。

「こっちだ」
「道が分かるのか?」
「ああ、この周辺はだいたい把握してる。この位置なら……こっちか」

 男は歩いて少し戻った。まだかろうじて焼け残っていた岩と岩の隙間に、影が落ちている。表面にわずかな苔がへばりつくように生える穴蔵のような場所から、男の仲間らしき人間が首を出していた。正直荒くれ者には見えず、そんなに強そうでも頼れそうでもない顔である。

 そこに合流した男は、ようやく緊張した面持ちを崩した。

「おう、遅いから死んだと思ったぞ」
「成果はどうだった?」
「上々とはいえないな」

 仲間たちが不遜な口をきくが、男は気にした様子がなかった。丁寧に体をかがめて岩の間に入る。手招きされたので、愛生も後に続いた。

「なんだこの兄ちゃん?」
「森で迷ってたんだ。拾ってきた」
「捨て猫じゃないんだからよ」

 男の言いぐさを聞いた仲間たちが苦笑した。それでも労うように男と愛生のために場所をあけてくれる。

「さっき、俺の目的を聞いたよな」

 腰を下ろしながら、愛生は問いかけた。

「聞いたな」
「お前はどうしてここにいるんだ。倒して賞金でももらいたいのか?」
「違う。ただ、俺はあのドラゴンを追い払いたいだけだ」

 男の顔が、怒りのためか紅潮しはじめた。愛生はその横顔を見つめる。

「追い払いたいだけ……ずいぶんと欲がないな」
「欲ならあるぞ。俺は向かいの島にある家が惜しいんだ。一カ所に住み着いたドラゴンは、その半径数十キロを自分の縄張りにしちまうって言うからな」

 確かにあのドラゴンなら、海を超えて破壊の限りを尽くしてもおかしくない。しかし、愛生は不思議に思った。

「家? 命ではなくてか。そんなもの、建て替えれば済むことじゃ……」

 なぜそんなもののために危険を犯す。愛生はそう問うた。

「普通の人間にとっちゃそうだろうな」

 男は揶揄するように言った。

「俺には意味が違うんだ。俺の家は、代々宝探し屋をやっててな」

 多少の危険はものともせず、森の中・水の中・洞窟の中、踏み込んでいくハンター。お宝に当たることはたまにあるが、最低限の保障すらない生活。だが、それでも彼らは一日中走り回っていた。そういう生き方をするよう、父母から子へと受け継がれていくものだという。

「そうやって集めた宝や石版、粘土板なんかを集めてるんだ」

 宝はともかく、他の連中が見れば、笑い飛ばすような古びた石版・粘土板を多数保護してきた。

「保護されなきゃ、時間経過とともに粘土板や石版はどんどん読めなくなっていく。宝は朽ちて錆びていく。うちの一族は、それを日の元に引っ張り出す魅力に取り憑かれてるんだ」

 何代も受け継がれてきたそれは、家の中や地下で眠っている。子供の頃から解読を夢見たそれを投げ出して逃げるなど考えられない、と男は言った。
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