AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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氷のほほえみ

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 会話をやめて、龍《りゅう》は後ろの長たちのそばへ歩いて行った。

「あなたたちは、どういうつもりであんなところに……」
「眷属の襲撃があったのは事実。……どこからともなく炎が上がった。今までに無い強い力を感じたな」

 長は長年の経験から、これはドラゴンの一族だと直感した。それまでの心中はもう死んでも構わないと思っていたのに、祖先の敵に殺されることだけは矜持が許さなかった。

「一応備えはしていたので、時間を稼いで皆が使える最大魔法を発動した。そのあと、命からがら逃げ出したというわけだな」

 ただし、目的を果たした片目はこぼれ落ちてしまった。あの絵の男女が隻眼だったのは、そういう意味も含まれていたのだ。

「重大な意味をとりこぼしていたことは恥だが、もうこうなった以上どうしようもない。身を隠していたのだが、ある時女がやって来てな」

 はじめは拒絶していた長も、龍の名が出てきたので話を聞いた。そこでロンギスから毎年勅使が出ていたことを聞かされて、隠れ里から出てきたというわけだ。

「どうせあの場所はもう知られてしまった。ならば出た方がよかろうと決めたのだ」
「……しかし、分かりません。サレンはどうして死んでしまったのですか?」

 その問いに、長は恥じるように顔を伏せた。

「最初の攻撃が、スルニの近くに落ちてな。幸い炎にまかれはしなかったが、あの子は倒れて頭から血を流していた」

 それを見たサレンは恐怖を忘れ、顔に青筋を立てて怒ったという。彼女の怒りは容易に消えなかった。

「あの子には魔法を教え始めたところだった。使う機会も必要もないだろうが、子供に教えるのはしきたりだからな」

 スルニの言っていた「おつとめ」とは、魔法の練習のことだったのだ。

「いくらなんでも無茶だ、隠れていろと言ったのだが……スルニが怪我をしたのを見て、あの子が冷静でいられるわけがなかった」

 長が体をつかんで止める前に、サレンはよく理解していない魔法を発動してしまった。その魔法はサレンの体から両目ばかりでなく精気をも吸い取り、結局絞り尽くして死に追いやったのだ。

「そういうことでしたか……」
「いかにその精神が高潔であろうとも、分を超えた力は身を滅ぼす。そのことを教えていなかったのが悪いのだが」
「……それでも、サレンはスルニを守り切りましたよ」
「ああ、そうだな」

 長はうなずく。龍はここで、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「それならどうして、サレンだけあんなところで見つかったんでしょう……」
「サレンの死体を持って飛び去っていった、鳥のような眷属がいたな。攻撃が当たってよろめいていたから、そいつが力尽きて途中で落としたのだろう。何がしたかったのかは、わしらにもわからん」
「そういうことでしたか……」

 長は状況を説明すると、しばし黙った。

「これからどうされるつもりなのですか?」
「そうだな……」

 やや長めの沈黙の末に、長が答えた。

「ロンギスに向かう。将来どうなるかわからんし、彼らの手を借りることに恐れがないわけではないが、長年我らを探していた誠意には答えたいと思ってな。飢えにも渇きにももう飽きた」

 気持ちが楽になったからだろう、長は軽口すらたたいてみせた。確かに彼らの側には、荷を満載した馬車があり、護衛の兵士もついていた。

「精一杯やってみせるさ。サレンのためにもな」

 旅を前にして、大人たちは盛り上がっていた。その様子を、女が穏やかな目で見ている。

「先のことは私も考えるわ。さて、そろそろ国に帰って報告をしなきゃ。彼らを連れて行く場所も決めなきゃならないしね」
「あなたも元気で」

 龍は言って手を差し出した。

「私はビアンカ」

 その手を握った女は最後に声を潜めて、こう言った。

「名前はめったに人に教えないの。これでも恩に感じてるのよ。会う機会があったら、またね」

 そう言って、女は日の中を歩いていった。行き交う馬車や人々に紛れて、彼女の姿はすぐに見えなくなる。いつかまた、力を合わせて戦う日が来るのだろうか。

「お姉ちゃん」

 声をかけられた龍ははっとした。長に、スルニもついていくだろう。道が遠く離れていくのが、寂しくさえあった。それに、最愛の姉を失った彼女のこの先が、気になって仕方無い。

「……これから、どうするんですか?」

 龍はおそるおそるスルニに問うた。

「ちょっと遠いところに行くけど、そこで私たちが村を作るの! だって、もう隠れてなくていいんだもの」

 スルニが、誇らしげに答える。姉の命と引き換えに、唯一両の目が残った少女。彼女の目は、未来に向いていた。

 龍がその勇気に感心していると、スルニは小さな握り拳を差し出した。

「みんなに教えてもらって作ったの。これ、よかったらもらって」

「……ありがたく、いただきます」

 スルニがくれたのは、不思議な氷の欠片だった。確かに冷たいのに、龍がぎゅっと握り締めても溶けない。龍は腰を落としてそれを受け取り、息を吐く。泣きそうになるのを、なんとかこらえた。
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