AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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ある眷属の最期

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 槍はクララの背中をつき、盾に隠れていた彼女をよろめかせる。

「来てはならない道に踏み込んだ、あなたが悪いんですよ」

 ドラゴンの鱗が飛び跳ねた。迂回してそれを取りに行こうとするクララを、龍《りゅう》が阻む。

「どけ!」

 龍はクララの行く手を阻んだ。

「遅い!」

 クララにぶつけるように、鋭く尖った盾の先端を振る。直撃を避けられなかったクララは、額から血を流しながらのけぞった。脳が揺れた衝撃で、彼女の動きが完全に止まる。

「助け……」
「ダメですよ」

 倒れたクララが、龍の顔を見上げ怯えを見せる。それでも龍は、もがく彼女に向かってにべもなく言った。

「なるほど、確かにこれは少し楽しいですね」

 さらにおどけた発言をする龍に向かってクララの口が動いたが、そこから声は出てこなかった。

 龍は銃口をクララの額に向ける。

 その様子を見て顔色をなくした彼女は、何を言おうとしたのだろう。たとえどんな罵倒だったとしても説得だったとしても龍には聞こえなかったし、聞く気もなかった。その時にはすでに、傲然とそり返ったまま弾丸を発射していたのだから。

 断末魔すらあげる暇なくクララの脳天が割れ、そこから血が噴き出してくる。鮮血は霧のように風を汚し、ややあって大地にもしみこんでいった。

 その様子を見届けて、ようやく龍に巣くっていた瞋恚が霧散する。満足感が、徐々にこみ上げてきた。

「大丈夫かね」

 川を割って、長が姿を現した。同じようにして身を隠していた大人たちが、川から次々に上がってくる。よく見ると、彼らは一様に隻眼だった。

「ええ。助かりました」
「そうか、それはよかった。おい、子供たちも来なさい」

 長の視線がふいと龍からそれたので、龍は後方の水面に顔を向けた。そこには、微笑みを浮かべた少女が浮かんでいる。スルニだ。

「お姉ちゃん、私……銃弾に気づいたの。偉かった?」

 おずおずと聞く様子を見て、龍はどっと気が楽になった。

「勿論ですよ。さあ、こっちへいらっしゃい」

 龍が言うと、スルニは跳ねるようにして陸地へ上がってきた。



 龍たちが街へ帰還したのは、夕方になってからだった。

 いきなり現れた氷の一族と軍服の女、怪我をした龍を見て、街の人々はざわめいていた。それでも強盗団が壊滅し、呪いの原因であった怪物たちが死に絶えたと聞くと、皆が歓声をあげる。

「呪いは我らの氷のせいでもあるのだがな」
「黙ってて。ここは私に任せなさい」

 ひとしきり落ち着くと、長たちの様子を街の人が気にし始めた。彼らが襲撃を受けた被害者であり、龍を助けた協力者であるという情報を女が広めたからだ。

 いかにも頼りなげな助けなければ、と複数の人が思った様子で、動き出す。

「とりあえず水でも飲むか?」
「それより先に、火を起こさないと。何か温かい物でも作ってやれ」
「あんたら、肉のスープは平気かね」
「ああ。世話になるな、ありがとう」

 長も大人たちも、素直に感謝の意を述べている。龍はほっとした。

 翌朝、龍は家を出て大通りに向かった。さっそく女がやってきて、龍の足をのぞきこむ。

「傷の具合はどう?」

 龍の傷には乾いた包帯が巻かれている。少なくとも骨には異常がなく、えぐれた肉だけなら元通りになるだろう。

「運が悪いと感染するかもしれないからと、薬はたくさんいただきました」

 無茶をしすぎだと腹を立てていた医者の見立てを話すと、女は微笑んだ。

「改造された無数の動物たちは、一応こちらで葬ったわ。彼らもまた、愚か者の被害者ですからね」
「ありがとうございます」

 化け物ではあったが、それは彼らが望んだ道ではない。等しく犠牲者なのだと、女に分かってもらえて良かった。

「連れて行った彼は役に立ちました?」
「まあまあね」

 女は隣に視線をやった。

「たくさん死体を運びましたよ!」

 元気に言うベルトランを、女は小馬鹿にした様子で見やる。

「あれで帳消しにできたと思わないでよ。まったく、あんたときたら本番では役に立たないんだから……」
「いやー、縛られて転がされてたらしいですねえ!」

 まだ体に縄の跡を残しつつも、明るく返事をするベルトランに、龍は一瞬なんと言ってやったらいいのか分からなかった。

「クララが怪しい人影が通った、すぐ来てくれって言うので」
「あなたその時一人だったの? 応援は?」
「急かされたので呼ぶ暇がなくて」
「バカ……」
「そんなこと言わず、被害者同士仲良くしましょうよ」
「一緒にしないでよ。あなたがひどい目にあったのは自業自得じゃない」

 女は大きなため息を落とした。当のベルトランは元気に大笑いしている。

「あなた、軍での処遇は大丈夫なの? クララに騙されて、勝手に単独行動してたんでしょう?」
「懲罰会議は食らうでしょうけど、まあ大丈夫です!」

 当たり前のように言い放つ。これで首になっていないのがさっぱり分からないが、上司ももう諦めているのかもしれない。
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