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ゾンビよりもおぞましいもの
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「なら、これでどう!」
龍《りゅう》の弾丸を生首は器用にくわえたが、その途端弾丸が爆発した。生首の牙がはじけ飛び、口内が焼かれる。
龍はうめく生首を、あいている足でクララの方に蹴り飛ばす。化け物は泣き喚きながら逃げ帰ったが、すぐに冷たい目で見ていたクララに踏みつぶされた。
その一瞬、化け物よりも……少し拗ねたような顔をしたクララの方が、例えようもなく恐ろしいものに見えた。
「思ったより役に立たなかったな。罪人の首に、虫の妖精を乗り移らせてみたのだが」
「……どういうセンスをしてるんですか」
龍は足を元の位置に戻した。
「凡人には理解できないか。ならもっと見てみるがいい」
腹立たしいことに、クララはまだ皮肉を言う。壁に穴があき、部屋の外から新手がやってきた。
背中が焼けただれ、そこに無数のキノコが生えている女。胴体が潰れてぺらぺらになっているのに、手足だけは毛むくじゃらで象のように太い男。空洞になった眼窩に、極彩色の花を生やし、口からは太い根が生えている老人。骨だけになった下半身をひきずりながら這う赤子。そしてその化け物たちに付き従うのは、目玉だけがぞろぞろとついた動く蔦だった。
忌まわしい、禁忌の生物。元の姿からは想像もつかないほど変わり果て、地獄から呼び出したかのような彼らを見て、龍は拳を握った。数は軽く数えて十数体をこえる。
ぎくしゃくとしながらも進み出た化け物は、明確にクララを防衛する構えをとった。
「可愛い私の眷属を、じっくり間近で見るがいい」
本当にどうかしている。全ての感覚が逆撫でされる。豊富な嫌がらせのパターンを見せられるる前に、全ての飢えた化け物を消し飛ばすしかない。
化け物が群がってくる。龍はとっさにワイヤーでとびのき、すれ違いざまに襲ってきた先頭に集中攻撃をあびせた。たっぷり数分は銃撃が続いたが、倒れたのは全体の一割程度。他は元気に襲ってきた。
撃っても串刺しにしても、化け物は死なない。クララが勝手に生み出した化け物のためか、せっかく準備していた銀の弾丸も効かなかった。爆発する弾も、口の中など柔らかい部分に当たらなければ効果が薄い。
「ならば、あれしかないでしょう」
龍は化け物をいちいち両断したり、踏みつぶすような力はない。せいぜい腕や足を飛ばす程度、化け物にとってはなかなか致命傷にならない。それが化け物たちにも分かってきたのか、彼らはじりじりと龍との距離をつめ始めた。
ある程度やられることは覚悟の上、誰か一体でも安全に龍にかかっていければそれで良し。そういう敵意が化け物から噴き出し、龍の全身にかかる。こういう数頼みの特攻はタチが悪いと、龍は知っていた。じりじりと押され、壁際に追い詰められている。
「まあ、それならそれで……背後を気にしなくて良いのですが」
龍は素早い相手にも当たるよう、広い範囲に杭を射出する。
串刺しになって倒れた化け物が、なおも無理に動こうとする。龍に襲いかかろうとするが、どうしても深く食いこんだ杭は抜けなかった。その個体はとうとう首が引きちぎれても、不気味にびくびくと動く体を晒していた。
その狂ったような姿を見て龍は恐怖し、逆に化け物たちからは気味の悪い咆哮があがった。駆け抜け、時に防御不能な攻撃を放つ龍を、化け物たちは忌々しげに見つめる。ただ一体の人間を仕留められないのが、不満で仕方ない様子だった。
龍は壁際に目をやり、そして光る洋燈の足元に移動する。一瞬足を止め、化け物たちを見据えた。
その隙に、化け物がどっと一線を越えて飛びかかってくる。龍は横手に体を滑らせ、そのまま銃を上に向けて洋燈を打ち抜いた。
龍めがけてやってきた化け物は、驚いたように立ち止まる。そして頭上から匂いのきつい油を浴びた時、ようやく龍の狙いに気づいた。が、もう遅い。
熱い油が引火した。たちまち燃え上がり、赤い炎が化け物の全身をなめる。あの女が持ってきていたアイテムほどではないが、上がった火は大きく、威力は十分だった。
「油ですからね、なかなか落ちませんよ」
彼らは炎を身にまとったまま不気味な絶叫をあげた。クララに同情する気はさらさらないが、化け物には少し気の毒に感じる。
「……生半可な打撃より効きました。どうぞ安らかに」
龍は口を押さえ、喉をかばいながらつぶやく。煙が廊下を覆い始めていた。
「ずいぶん景気のいいことを」
目の前で化け物を次々に倒されたクララは、眉をつり上げた。倒された化け物を足蹴にして火をもみ消しても、落ち着かない様子だ。
「まだ妬みで動きますか」
「しぶといのは貴様も同じだろう」
「私には帰る場所も、待ってくれている人もいます。逃げるだけのあなたと一緒にしないでください」
「……これ以上私を挑発すると、後悔することになるぞ」
女たちは互いに頑として譲らず、にらみあった。顔も見たくない相手なのだが、そらすと負けた気分になる。そう、この場を支配しているのは獣の理屈だ。
化け物の最後の一体が燃え尽きる。それと同時にクララが駆けた。
龍《りゅう》の弾丸を生首は器用にくわえたが、その途端弾丸が爆発した。生首の牙がはじけ飛び、口内が焼かれる。
龍はうめく生首を、あいている足でクララの方に蹴り飛ばす。化け物は泣き喚きながら逃げ帰ったが、すぐに冷たい目で見ていたクララに踏みつぶされた。
その一瞬、化け物よりも……少し拗ねたような顔をしたクララの方が、例えようもなく恐ろしいものに見えた。
「思ったより役に立たなかったな。罪人の首に、虫の妖精を乗り移らせてみたのだが」
「……どういうセンスをしてるんですか」
龍は足を元の位置に戻した。
「凡人には理解できないか。ならもっと見てみるがいい」
腹立たしいことに、クララはまだ皮肉を言う。壁に穴があき、部屋の外から新手がやってきた。
背中が焼けただれ、そこに無数のキノコが生えている女。胴体が潰れてぺらぺらになっているのに、手足だけは毛むくじゃらで象のように太い男。空洞になった眼窩に、極彩色の花を生やし、口からは太い根が生えている老人。骨だけになった下半身をひきずりながら這う赤子。そしてその化け物たちに付き従うのは、目玉だけがぞろぞろとついた動く蔦だった。
忌まわしい、禁忌の生物。元の姿からは想像もつかないほど変わり果て、地獄から呼び出したかのような彼らを見て、龍は拳を握った。数は軽く数えて十数体をこえる。
ぎくしゃくとしながらも進み出た化け物は、明確にクララを防衛する構えをとった。
「可愛い私の眷属を、じっくり間近で見るがいい」
本当にどうかしている。全ての感覚が逆撫でされる。豊富な嫌がらせのパターンを見せられるる前に、全ての飢えた化け物を消し飛ばすしかない。
化け物が群がってくる。龍はとっさにワイヤーでとびのき、すれ違いざまに襲ってきた先頭に集中攻撃をあびせた。たっぷり数分は銃撃が続いたが、倒れたのは全体の一割程度。他は元気に襲ってきた。
撃っても串刺しにしても、化け物は死なない。クララが勝手に生み出した化け物のためか、せっかく準備していた銀の弾丸も効かなかった。爆発する弾も、口の中など柔らかい部分に当たらなければ効果が薄い。
「ならば、あれしかないでしょう」
龍は化け物をいちいち両断したり、踏みつぶすような力はない。せいぜい腕や足を飛ばす程度、化け物にとってはなかなか致命傷にならない。それが化け物たちにも分かってきたのか、彼らはじりじりと龍との距離をつめ始めた。
ある程度やられることは覚悟の上、誰か一体でも安全に龍にかかっていければそれで良し。そういう敵意が化け物から噴き出し、龍の全身にかかる。こういう数頼みの特攻はタチが悪いと、龍は知っていた。じりじりと押され、壁際に追い詰められている。
「まあ、それならそれで……背後を気にしなくて良いのですが」
龍は素早い相手にも当たるよう、広い範囲に杭を射出する。
串刺しになって倒れた化け物が、なおも無理に動こうとする。龍に襲いかかろうとするが、どうしても深く食いこんだ杭は抜けなかった。その個体はとうとう首が引きちぎれても、不気味にびくびくと動く体を晒していた。
その狂ったような姿を見て龍は恐怖し、逆に化け物たちからは気味の悪い咆哮があがった。駆け抜け、時に防御不能な攻撃を放つ龍を、化け物たちは忌々しげに見つめる。ただ一体の人間を仕留められないのが、不満で仕方ない様子だった。
龍は壁際に目をやり、そして光る洋燈の足元に移動する。一瞬足を止め、化け物たちを見据えた。
その隙に、化け物がどっと一線を越えて飛びかかってくる。龍は横手に体を滑らせ、そのまま銃を上に向けて洋燈を打ち抜いた。
龍めがけてやってきた化け物は、驚いたように立ち止まる。そして頭上から匂いのきつい油を浴びた時、ようやく龍の狙いに気づいた。が、もう遅い。
熱い油が引火した。たちまち燃え上がり、赤い炎が化け物の全身をなめる。あの女が持ってきていたアイテムほどではないが、上がった火は大きく、威力は十分だった。
「油ですからね、なかなか落ちませんよ」
彼らは炎を身にまとったまま不気味な絶叫をあげた。クララに同情する気はさらさらないが、化け物には少し気の毒に感じる。
「……生半可な打撃より効きました。どうぞ安らかに」
龍は口を押さえ、喉をかばいながらつぶやく。煙が廊下を覆い始めていた。
「ずいぶん景気のいいことを」
目の前で化け物を次々に倒されたクララは、眉をつり上げた。倒された化け物を足蹴にして火をもみ消しても、落ち着かない様子だ。
「まだ妬みで動きますか」
「しぶといのは貴様も同じだろう」
「私には帰る場所も、待ってくれている人もいます。逃げるだけのあなたと一緒にしないでください」
「……これ以上私を挑発すると、後悔することになるぞ」
女たちは互いに頑として譲らず、にらみあった。顔も見たくない相手なのだが、そらすと負けた気分になる。そう、この場を支配しているのは獣の理屈だ。
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