AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

文字の大きさ
上 下
67 / 101

襲われた男

しおりを挟む
「完全な安全を確保しようと思えば、やはり駆除しか方法はない……」

 龍《りゅう》はつぶやく。

 幸い、ドラゴン同士が群れになることはないそうだ。ただし、眷属を見張りに立てる。奇襲を仕掛けるのも、残念ながら困難と言わざるを得ない。

「どこかよそに注意をひきつけて、その隙に叩くしか……」

 しかし、ドラゴンはかなり注意深いという。奇襲部隊が自分の身を守れるならいいが、そうでなければ死体が増えるだけだ。魅了、変身、結界など、眷属の特性も理解しておかないと……

 龍は息を吐き、一旦資料から顔を上げた。少しだけのはずだったのに、もう数時間もたっている。資料を棚に戻して外に出ると、月が傾き山裾に消えかかっていた。

「愛生《あい》、どこにいるの?」

 一緒ならドラゴンとも戦えそう、と思う自分は甘いのだろうか。久しぶりに弱音を吐いたことを悔やみながら、龍は寝床に戻った。



 ベルトランは今日は同行できないという。見上げる馬上の彼は、申し訳なさそうにしていた。

「そろそろあなたも自分の仕事がありますものね。今日は別行動にしましょう」

 龍がそう言うと、ベルトランは控えめに笑った。

「助かります。ですが、十分気をつけてください」

 ひとりになった龍は、虎子《とらこ》を呼んだが反応はなかった。今は彼女も休んでいるのかもしれない。

 里を襲ったのなら、その辺りに潜伏しているかもしれない。龍は岩に身を隠すようにして、怪しい場所を調べていった。重点的に調べるのは岩のわずかな隙間や、自然に出来た洞窟の中になる。

「……ここにもいない」

 龍はいくつかの小さな洞窟を捜索してみた。しかし、人が隠れられそうなところには、冷たい風だけが満ちていた。茂る木の中を通って、龍は街道に戻る。

 さすがに龍も空振りばかりで少し疲れてきた頃、山の方からこちらに向かって道を行くものがいることに気づいた。森から道に視線を移し、龍は目を細めた。

 自警団か、警察か。いや、そのいずれでもない。

 背の低い、枯れ木のように痩せた男だ。酔ったように足元がふらふらしている。しかし気持ちよさそうな様子では無く、辛そうに顔を歪めていた。よく見ると、額には血のようなものがこびりついている。

 そして龍が見つけてからいくらも経たないうちに、男は倒れてしまった。

「しっかりしてください」

 龍は馬から降り、動かない男を助け起こす。頭部以外に流血はないが、頭を打っているとしたら医師に診せた方がいい。

「襲われた……いきなり、森の中から出てきて……」

 男は龍を認めると、切れ切れに語った。話をつなぎ合わせると、こうだ。道を歩いていると、森から不意に人が転がり出てきた。そいつは剣を持っていて、金品を奪おうとするでもなく、こともなげに男を殺そうとした。

「殺すために来た……あなた、狙われるような覚えがあるんですか?」
「わかりません……そして、出てきたのは、そいつだけじゃなかった……」

 後から、数人の若い男たちが出てきて、最初の殺し屋と小競り合いを始めたのだという。そのおかげで、男は最小限の被害で逃げ出すことができた。

「仲間ではなさそうだったんですね?」

 龍の言葉に、男は同意した。

「夜盗……」

 そういえば、夜な夜なロンクの店を襲う者たちの特定は全くできていなかった。多くの被害が出ているというのに、そちらもおろそかにしてはおけない。数人いたのなら、本隊はもっと大所帯かもしれない。ここで情報が得られたのは、龍にとって運が良かった。

「置いていくのが一番、病態にとってはいいんだろうけど……」

 龍は森を見つめた。

 とりあえず龍は彼を荷物のようにくくりつけて馬を走らせ、なんとか街の前にいた警察に引き渡した。そしてとってかえし、さっきの場所から周囲を見渡す。

「応援は呼ばないの?」
「里の殺人に手を焼いている彼らに、無駄な負担はかけたくありません。虎子、この周辺に人の反応は?」

 今度はすぐに返答があった。

「一キロほど先に野営が見える」

 正確な場所に誘導してもらって、龍は周囲を見渡した。

 におい。むっと鼻の奥につく、不潔なもの。何か、排泄物のそれだ。虎子が困惑したように言った。

「お姉ちゃん……そのまま真っ直ぐ進んじゃダメだよ。地面掘っただけの簡易トイレがあるから」
「汚い……」

 せめてちゃんと目立たないように埋めろ。龍は心の中で毒づきながら、虎子の指示に従って迂回していった。程なくして、白い布のようなものが見えてくる。

「あれが野営ね?」
「うん」

 奥まった窪地にテント状の幕を張り、そこで賭博をやって騒いでいるようだった。入り口を開け放しているので、コインの転がる音と賑やかな声が外にまで聞こえている。

 天幕の側でちょうど煮炊きをしているらしく、たき火の炎がちろちろと見えた。

「スープはそろそろできるぞ」
「米はもうちょっとだな。おい、こぼすなよ」
「分かってるって」

 聞こえてくる声からして、外にいるのは三人。いずれも背が高くがっちりしていて、屈強そうな男だ。人相はいずれも善人には見えない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...