AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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クララとの邂逅

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「クールなところも素敵です」

 何故か笑うベルトランは放って置いて、龍《りゅう》はクララに向き合った。何をすべきかは、もう考えてある。

「お前がこいつの主人か」
「主人ではありませんが……まあ、同志的な存在でしょうか」
「立派でしょう、素晴らしいでしょう。この方になら話す気になりませんか」

 横に下がって余裕が出来たベルトランがうるさい。

「どうだか。格好だけ立派な奴など、掃いて捨てるほどいる」

 クララは龍をねめつけた後、苦笑した。

「私は忙しい。帰れ」
「待ってくれ、話を聞いてくれ!!」

 ベルトランも顔を赤くして怒鳴るが、クララは意に介した様子がない。

「小物に興味はない、お前はどけ」

 いきなり踏み込み、細身のナイフで切りつけられて、ベルトランが悲鳴をあげた。

 その場で足が止まっている彼の後ろに、龍は回り込む。疾走してきたクララが、にわかに参戦してきた龍に一瞬顔をしかめた。

 龍はそのわずかな間に撃つ。もちろん実弾ではなく、量を絞った麻酔弾だ。

「……っ」

 弾はクララの足に命中した。これでしばらく、立ち回りは無理だ。龍はおろか、ベルトランすら殺せないだろう。

「……格好だけは立派と言ったことは、謝罪しよう」

 彼女は小さな声でつぶやく。負けを認めた様子だが、憮然とした表情を崩さない。何かを語ろうとする様子もない。

「ほら、無駄だって言ったでしょう。こういう女なんですよ」

 ふてくされているような彼女を見て、ベルトランは吐き捨てる。しかし龍は、深々と頭を下げた。権力も腕力もダメとなれば、あとは情に訴えるしかない。取り繕っても仕方無いのだ。

「お願いします。協力していただけませんか。里ひとつが丸々消えてしまった大事件なんです」

 龍が必死に頼み込むと、クララはわずかに目をそらした。

「……それは知っている」

 感情が露わになりかけている。そう見た龍はさらに歩を進めた。

「まあ平凡な言葉だが、ご愁傷様というところだ」

 しかしクララは再び、そっけない様子に戻ってしまった。だが、いつまでも居座られるのも迷惑だと思ったのか、さらに口を開く。

「私は誰も見ていない。それだけは確実だ」

 クララは龍の意図をはかるように冷たい目で見つめてきた。それでも食い下がろうとする気配をかぎとったのか、彼女はもう一度繰り返す。

「ここを通り抜けた者などいなかった。……これを聞くくらいの耳はあるだろう」
「今まではそうなのですね、分かりました。これから怪しげな人物を見かけたら連絡をいただけますか?」
「お前、意外としつこいな。それに無茶を言う」

 クララは舌打ちをした。

「里が消えたと騒ぐが、今日行ってみたらロンクの街は無事だったぞ。お前が間違った情報をつかまされただけではないのか」
「消えたのはロンクの側にあった、別の里です。氷の谷の奥にあって──」
「なんだと?」

 さらに言葉を続けようとする龍を、クララが遮った。彼女は揺れながらもなんとか立ち上がる。

「氷の谷の最深部に人だと……まさか」

 クララは真剣な顔でつぶやく。

「何があったんでしょうか」

 ベルトランがささやいてくるが、龍にだってわかりはしない。ただ、態度の豹変が妙だとは思う。

「わかった。お前の話に乗ろう」

 クララは腰に手をかけ、偉そうなポーズのまま言う。

「もちろん、報酬はもらうぞ」
「それくらいはお安いご用です。この人が」
「しれっと丸投げしてくる貴方も素敵です」

 ベルトランは諦めの表情でつぶやいた。クララが視線を龍に向けて、かすかに微笑む。

「その度胸は横の男も見習うべきだな。……お前、氷の里がなぜ滅びたか、知りたくないか?」

 龍は自分の頬に朱がのぼるのを感じた。

「知りたい。いいえ、知らなければならないことです」
「ならば教えよう。来い」

 短く言ってから、クララは踵を返す。龍たちもそれを追った。

 クララの家の扉は、街のどの家よりも分厚かった。大層な構えだ、と龍はわずかに眉を寄せる。

「実験動物が街に繰り出しては、お前たちが困るだろう。中には毒や牙を持った奴もいる」

 それを読み取ったようにクララが言い、龍たちに中を指し示す。龍が先に立って、ゆっくりと扉の中に入った。こもった空気が押し寄せてきて、ベルトランが咳払いをする。

「確かに、配慮はされていますね」

 窓は鉄の雨戸のようなもので締め切られているし、廊下の途中にも鋼の扉があって途中で区切れるようになっている。動物の逃走を防ぐ仕組みだった。この分では、緊急脱出用の隠し通路まで完備してあるかもしれない。そのことを聞くと、クララは薄く笑っただけだった。

「ここは……」
「飼育室だ。私はここにいる動物を使って、各種実験を行っている」

 招き入れられた室内はひんやりと涼しい。部屋の一つがガラス張りになっていて、死んだように動かない大きなトカゲがその内側で寝そべっていた。

「……中に入って最初に案内された部屋が、これとは」

 ベルトランが長く息を吐く音が聞こえてきた。
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