AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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小さな訪問者

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「そうですか……最近、私以外の者がここに来て、あれこれ聞いていったりなど、しませんでしたか? もしくは誰かが、人の痕跡を見つけたとか」

 長にも言えず、こっそり処理していたのなら教えてほしい。礼はする。龍《りゅう》はそう言ったが、大人たちはそろって首を横に振った。

「そうですか……」
「ずいぶん熱心に探すな。境界の向こうの街で何かあったのか?」
「私の探している人とは、また別件なのですが……」

 長に問われて、龍はありのままを話した。街が強盗によって荒らされ、死人まで出ていることを聞くと、彼は心配そうに顔をしかめる。

「余計な真似をする連中だ。こちらの山狩りでもされたら、どうしてくれる」

 龍は長に視線を投げる。嘘をついている様子はなかった。

「見聞きした情報もない。すまんが、力にはなれんな」

 長はそう言ってかすかに笑った。

「孤独には慣れた。外にはもう期待せん。だから、あんたらもわしらを放っておいてくれ」

 長の言葉は投げやりだった。しかし、龍はそれを咎める気にはなれない。誰にも認めてもらえない、誰も隣にいてくれない辛さが、ひしひしと伝わってきたからだ。

 龍は礼をして後ろに膝でいざってから、立ち上がった。

「……ごめんなさい、私はもう帰ります」

 名残惜しくはあったが、龍は深追いすることなくその場を立ち去った。

 冷え込みがいっそうきつく感じる。日が落ちてきたせいもあるが、それだけのせいでないのは分かっていた。遥か昔から続く、あの里の人々の窮状が心から離れなかった。今まで自分が裕福な生活をしてきたということが、龍の心に罪悪感を植え付けている。

「なにか、助けになれればいいのですが……」

 口だけの慰めでなく、何かしたい。しかし、現実世界でならいくらでも方法が思いつくのに、こちらでは全てダメになってしまう。ゲームマスターに成り代われないのが歯がゆかった。

「それにしても、賊も愛生《あい》もいませんでしたね……」
「近くに反応はなかったよ。あのおじいさんの言ってたこと、嘘じゃないと思う」

 虎子《とらこ》の声が重く響いてくる。

 ベルトランにはひとり帰ってもらって、今夜はこの周囲を捜索するか。龍がそう思った時、声が聞こえてくる。龍はとっさに身構えた。

「たーすけてー……」

 氷の谷の入り口で、ベルトランが引っかかって抜け出せなくなっていた。大の男が泣きそうな顔で龍を見つめている。

 龍は辛そうな彼をしばらく放っておいた。止めたのに、ひらひらしたマントなんか着てくるからだ。

「助けて下さい!」

 ベルトランは必死に、龍の足首をつかんでくる。それを見やって、一気に肩の力が抜けた。

「次から次へと問題を持ってきて……あなたには、貸しが増えるばかりですね」
「すみません……」

 龍は苦笑し、ベルトランのマントを外してやった。彼は大儀そうにマントを始末し、龍に礼を言う。

「それにしてもあなたにしては冷たい仕打ち……ずいぶんご機嫌斜めですね。賊でもいましたか?」
「いいえ」

 龍は首を横に振った。

「なんですかあ。教えて下さいよ」
「だめです」

 目を輝かせて言うベルトランを、龍はいなした。

「あ、イヤリングを片方なくしたから?」
「つねりますよ」

 今のところ、詳しい話はしないほうが賢明だろう。

 ベルトランはもしかしたら、味方になってくれるかもしれない。しかし、街の者と一緒に彼女らを迫害していた可能性もあった。街を愛するからこそ、その感情が違う方向に向いてしまうこともありうる。

 様子を見て、見所があれば話してやってもいい。こんな時に、愛生がいてくれたらよかったのだが。

「戻りましょう。明日もお弁当をお願いしないといけませんから」



 それから龍はしばらく、山や村を歩きながら調べ物をした。時には客が来ないので暇を持て余した宿の子供と遊んだり、簡単なお使いをしたりすることもある。しかしベルトランの目があって、またあの山に行くことはできなかった。

 身分の高い者も低い者も、正体のしれない強盗に怯えている。苦しい胸の内を語る者もいれば、強がって胸を張る者もいた。宿泊客も噂を聞きつけたのか、減り続けていた。

 あの派手な宿無し女性も、全く姿を見せなかった。強いように見えて、不安だったのかもしれない。それもおかしなことではなかった。

 今日も有意義な情報はなかった。龍は宿先のテラスで暖かいお茶を飲みながら、ため息をついている。問題はたまっていくばかりだ。何かひとつくらい、いいことがないものか。

 見覚えのある姿が目に入って、龍はやにわにカップを置いて立ち上がった。

 スルニだった。口をぴたりと閉じ、頬をわずかに紅潮させていたが、龍を見つけると笑った。

「……ここで何をしてるんですか?」

 まさかこんなことが起こると思っていなかった龍は、叱るような口調になってしまう。寄ってきていたスルニが足を止めた。

「どうやって潜り込んできたんですか。危険ですよ。ここには店を襲う悪い人たちがいるんです」

 龍がそう言うと、スルニは肩にめりこみそうなほど首をすくめた。その様子を見て、さすがに龍も言い過ぎたと反省する。
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