AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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加勢が来てもまだ逃げる

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 光政《みつまさ》は怒りをむき出しにして、愛生《あい》を指さした。

「貴様の刑が決定した。明日は足を、明後日は手を石で潰す……泣き喚き、叫ぼうとも止まりはせん。どんな武者であっても、儂の前には屈服した。この光政の勘気をこうむり、無事に済むと思うなよ」

 飛びついてきた光政の腕を叩き落とした後、愛生は舌を出して笑った。

「いちいち話が長い爺は嫌われるぞ。無駄な妄想はしなくていい、お前に明日は来ないからな」

 愛生はそのまま光政に突進し、ナイフで首元をえぐろうとする。しかし、正面からのこの動きはかわされた。目の前の男は、とても老人とは思えない動きで、軽々と宙返りし、愛生の後ろに着地する。

 回り込まれた。血にまみれた腕が首を絞めようとしてくるのを、かわす。全てをかなぐり捨てたものの馬鹿力はすさまじく、愛生であっても正面から組み合うのをためらうほどだった。

 複数なら光政がいかに力があってもどうにでも回り込めるのだが……数の優位がないというのは、辛い。

「ひええ……」

 横手から情けない声がした。無事だった村人が、愛生たちの戦いを見て立ちすくんでいる。どうすればいいのか分からない様子で、その場に釘付けになっている村人を見て、愛生は舌打ちをした。

「河原の方へさっさと逃げろ! みんなに伝えるんだ!」

 檄を飛ばそうとしても、訓練もされていない一般人は、固まるかばらばらに意味の無い動きしかできない。愛生の叫び声さえ、ちゃんと聞いているのか疑わしいものだ。こんなことでは心許なすぎて、戦力に数えるわけにはいかなかった。

 逆に光政は調子に乗ってしまった。愉悦の表情で、舌なめずりしながら戸惑う獲物を見ている。

 愛生は時々背後を振り返りながら、策を考えた。ゲスのやることは決まっている。もうすぐこの爺さんは、誰か一人を人質に取るだろう。

「子供、来い」

 光政は速やかに動いた。年の割にはしっかり筋肉のついた腕で、立っていた子供の一人の襟首をつかむ。子供はショックのあまりか、身構えもせずに引きずられていった。

「そうだそうだ。人間、素直が一番だ」

 光政は舌なめずりした。愛生は一瞬、彼から目をそらす。怖じ気づいたともとられそうな仕草だったが、幸い誰にも気付かれなかった。──ようやく、待っていた相手がきた。ハッタリは数秒でいい。

「さて、小僧。──こいつを助けたくないか?」
「全然」
「なに?」
「言っておくが、そいつは人形だからな。馬鹿には手に余るんじゃないか?」
「くそっ!!」

 老人は子供を離し、愛生に斬りかかってきた。愛生は足を動かしてそれをよけ、背中に拳を打ち込む。やや入りが甘かったが、それでも鎧は砕けた。

「俺の馬鹿力を甘く見たな。普段は抑えてるんだよ」
「さっきもそうだったな、少しは驚いたぞ。だが、これで儂の間合い──」

 上半身が裸になった光政が笑った。しかしその笑みも、愛生のこの言葉を聞くまでだった。

「ああ……さっきお前が逃がしたのは、本物の人間だけどな?」

 光政が振り向いた時には、泣きじゃくる子供を村の女たちが抱き起こし、脱兎のごとく河原へ向かって逃げている。彼女たちが逃げ切れる場所に行くまで、あと少しだ。

「なんと……言った?」

 光政が攻撃を忘れ、肩を上下させながら愛生に聞く。

「爺さん、過去に人形使って一回騙されてるから警戒したんだよな。でもサギ師ってのは、騙された奴にこそ寄ってくるんだぜ。二度目は反対のことを言ってな。……その程度のことも知らないって、頭大丈夫か?」

 逆上した光政が、おそろしく生臭い息を吐きながら、愛生めがけて飛びかかってくる。愛生は両手剣でそれを受け止めながら叫んだ。

「貴様、よくも!!」
「うるせえ、変態!!」

 そこでようやく、遠目に見えていた帚木《ははきぎ》が到着した。彼は軽装ではあるが、皮鎧をまとって戦支度をしている。へたりこんでいる村人の手を引っ張って立たせ、歩けないものは手甲と鉄鎧で武装した人形に背負わせる。

「遅くなりました!! 他の地点にも人形を向かわせています!」
「待ってたぜ、英雄」

 愛生は剣を握る手に力をこめながら叫んだ。飛びかかってきた武者の胴を一文字にした剣で強打し、周囲を見回す。武者の囲みはさっきので破れたままだ。人形はざっと見ただけでも百近くいる。そうそう、相手の思い通りにはなるまい。

「帚木! みんなを連れて、指示した場所まで後退しろ! 村の他方向から逃げてきた奴がいれば、仲間に加えてやれ!」
「わかりました!」
「邪魔だ、どけジジイ!!」

 愛生は光政を全身の力をこめて突き飛ばす。また新たな武士がやってきて、農民たちの周りを取り囲もうとしていた。愛生は素早く農民たちのところにとって返す。

「おら、どけどけ!!」

 愛生はそこら辺に落ちている物、剣でも石でも手当たりしだいを拾って武者に投げつける。物がぶつかった武者たちが倒れた。人形と農民たちはその間に、先を争うようにして囲みを抜けた。

 愛生はその殿をつとめる。弓を持った人形の援護もあって、さっきのようにやすやすと飛びかかられはしなかった。やはり集団戦で遠距離武器は強い。
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