AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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荒らされた休憩所

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 愛生《あい》が確認すると、京《けい》はとたんに答えなくなってしまった。都合の悪いことは聞こえないという、ボケたふりした老人みたいな耳である。

 愛生は墓のところまで戻り、奥の草むらをゆっくり探った。

 長い草を踏み越えてゆっくり進むと、急に地面が深く落ちくぼんでいるところがある。そこに石が敷きつめてあり、愛生はその中央に小さな墓石を見いだした。

「確かに、八個目だ……」
「ほら、早く行けよ兄ちゃん」

 京にせきたてられた。動揺してしまった自分を叱咤しながら、愛生は墓に近付く。念願の検証のはずなのに、なぜが不吉な予感がやまない。

 石だらけの土地は、賽の河原を思わせた。愛生はその光景に、軽く身震いする。虫の声も鳥の声も、なぜか穴に入ると聞こえなくなった。まずは眠っている霊に対して両手を合わせる。

 死者の命を奪ったのが刃か、病か。それは分からないが……その墓石に小さく刻まれた名前を見た時、愛生は思わずにじり寄った。

「なんだ、これは」

 愛生は低くささやいた。また頭の中で情報がカチカチとはまっていき、黙り込む。

「ああ、なるほどな。事件はもうとっくに起こってしまってたのか」
「……え?」

 聞きとがめた京が声をあげたが、愛生の頭の中は事件のことでいっぱいだった。弟は何度も問うが、愛生は口を開かない。

 ゲームマスターは、それを愛生が気づくまで待っていたのだ。愛生は魔除けのために、袋一杯の塩でも撒いてやりたい気分になっていた。

 完全に月がのぼった夜道を歩いて、愛生は休憩所に戻ってきた。室内が暗くてよく見えないので、ライトをつける。

「……なんだ?」

 明るくなった瞬間、愛生は違和感をおぼえ、椅子に腰を下ろす前に立ち止まる。金属製の扉や棚、金庫に特におかしなところはない。それでも、愛生は黙って室内を見渡した。

 窓は開いていない。細かい家具の位置も同じだ。だが、何かがにおう。物理的な異臭ではない、何か霊的な残り香のようなものを、愛生はかぎとっていた。

「……まあ、いいさ。悩まなくても、調べれば分かることだ」

 侵入者がいたとしたら、頑張って元通りにしたようだが、愛生はそれでは隠しきれない仕掛けをしていた。

 入り口の扉のあちこちに、特殊なインクを塗っておいたのだ。少し渇きの遅い、無色透明のインク。知らなければ、水としか思わないだろう。

 用心しておいてよかった。休憩所は自分たちにしか見えないと思っていたが、ゲームマスターはそんなこと、一言だって言っていない。それに、扉の鍵なんて、あの性格の悪いマスターの一存でどうにでもなる。

 愛生は懐から細いライトを取りだした。可視光線ではなく、紫外線を発するブラックライトだ。

 電気を消し、暗い部屋の中でしゃがみこむ。そして部屋のあちこちを、ブラックライトで照らしていった。

 そんな代物があるとは向こうも思ってみなかったのだろう、愛生が机の裏にブラックライトを当てると、すぐに反応があった。しっかりした指の跡だ。次いで棚の裏からも次々に似たような指跡が見つかる。

 愛生はその、机の裏や家具に残った忌まわしい指の跡をにらみつけた。おそらく、あの兵たちがここに入りこんで、探し回った痕跡。

「ああ、そうか。一日不在の間に、さんざん人の家を荒らして──向こうさんも、覚悟決めたってワケだな」

 長い一日の終わりに、愛生は拳を握った。ゲームマスターが戦いの運命をお望みなら、それを叩き潰してやるまでだ。

「……後悔するなよ。徹底的にやってやる」

 愛生の決意を飲みこんだまま、夜は静かに更けていった。



「まさか、そんなことが起こっていたのですか」

 帚木《ははきぎ》は最初は驚いていたが、愛生の話を聞いて重々しくうなずいた。

「経緯を全て聞けば、納得のいくことばかりです。それが真実であれば、どんな手を使ってもその秘密を隠そうとするでしょう。……それなら、私だけ殺せばいいものを」

 少し青ざめてはいたが、彼の声はしっかりしていた。

「せっかく大事を切り抜けた後だ。平穏に暮らしたいという気持ちはあるだろうが、思い直してもらえると助かる」
「最後まで戦いましょう。それが、生き残った者の責務です」

 帚木は瞼を閉じた。彼の脳裏に浮かんでいるのは、死んでいった民か、急を知らせた侍か。どちらにせよ、耐えがたい苦痛を受けた者なのは間違いなかった。

「今日、村に変な奴らがいたよ」

 その人物の容姿を聞くと、帚木は不安そうに眉をひそめた。

「おそらくそれは、光政《みつまさ》の護衛隊でしょう。彼らには歪んだ正義感があり、感情の揺らぎを軟弱だと言って排除している。一旦敵とみなした相手は決して忘れない、蛇のような男です」
「そういう奴ばっかりが従ってるとしたら、こりゃ全面戦争になるしかないな」

 愛生は不敵に笑ってみせた。笑っていないとやっていられない、という気分でもある。

「彼らは斥候……ですが、光政は用心深い。すでに近くに、数百人単位の兵がいるとみて間違いないでしょう」
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