AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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領主一族の秘密

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 屋根と壁、それに近代的な家具に包まれていると、ささくれ立っていた気分が落ち着いていく。珈琲とサンドイッチを胃に詰め込んで、渇きと空腹を癒やした。

 それから愛生《あい》は辛抱強く、全ての資料に目を通していった。

 何もかも、というわけにはいかないが、本棚をよく探してみると、この地方に関する簡単な説明と、領主一族の家系図があった。地形や産業に対する説明は、弥助《やすけ》たちの話以上のものはない。愛生は早々にそちらは放り投げて、家系図に目をやった。

「最初は吉政《よしまさ》と千代《ちよ》の夫婦から始まったわけか」

 始祖とされるひと組の夫婦を頂点にして、まずは子供が九人。そのうち四人は幼い頃に亡くなり、二人は結婚したものの子供ができなかった。残りの三人は結婚し、合計八人の子を残している。さらにその子たちのうち半分が結婚し、十五人の子が生まれた。

 つまり、最初の夫婦は九人の子、八人の孫、十五人のひ孫を持ったことになる。ここまではいい。気になるのは、家系図の何人かの名前に、薄墨が塗ってあることだ。下の名前が見えないほど濃くはないが、なんだか薄気味悪い。

「千代、千朝《ちさ》、千冬《ちふゆ》、千菊《ちぎく》、千駒《ちこま》、千彩《ちあや》、千雲《ちぐも》……」

 薄墨が塗ってあるのは、最初の夫婦の妻のほう、子供のうちの女児二人、孫の女児四人。ひ孫の代には一人もいない。

 愛生はここまで見て、目を見開く。

 そしてさらに、家系図には気味の悪い書き込みがあった。名前が、墨で塗りつぶされている場所があるのだ。子供の代に一人、孫の代に三人、そしてひ孫にはなんと八人も。

「おい、これってまさか──」

 愛生はその家系図が示す事実に気づき、小さく驚きの声をあげた。

 潰されている名前は知りようがないが、ヒントはすでにあった。しかしこれが何を意味するというのか。手探りなことには変わりが無い。

「もう少し、歩いてみるしかないか。……それにしてもこの情報、どこかに隠しておかないと」

 愛生は机を動かしながら、しばし考えた。



 食料も水も、それを入れるリュックもエイドステーション内にあった。愛生は物資を満載にして、村へ降りていく。

 今まで村人から得た情報、昨日京《けい》から最大限聞き出した情報から作った地図を見ながら、自分でも細かく書き足していく。かがみこんでしばらく書いていると、腰が痛くなってきた。

「そういえば……」

 まだ、大事なものを地図におさめていなかった。愛生は踵を返し、自らが辿ってきた道を戻っていく。考え、思い出しながら進むと、間もなく八つの石が見えてきた。最初に見た時、そのままの姿だ。

 放置された岩の数々。その表面には、名前が刻まれていた。ほとんど苔の奥に埋もれていたが、なんとか読み取ることができる。その死因までは書かれていなかったが、そこは確かに墓だった。だが、京の言うこととは違って、墓は七つしかない。数も数えられないのか、あいつは。

 とりあえず、八つの墓の村でなくてほっとした。愛生はその全ての名前を読み取ろうと試みた。そしてそれを、地図の端にメモしていく。途中から愛生の手は止まらなくなっていった。

「照政《てるまさ》、明政《あきまさ》……って、──おいおい、待てよ」

 書き留めた名前と、今までに得た情報をつなぎ合わせるのはたやすかった。愛生は目を丸くして、墓を見つめる。

「そういうことか……」

 この墓の数。そして家系図で、墨で塗りつぶされた名前の数。意味深な薄墨の意味。その全てが、愛生の中でつながった。

「だとしたら、ゲームマスターはなんであの家系図をあそこに置いた?」

 繰り返し示される手がかり。領主一族に注目しろ、ということだろうか。そこで事件が起きるのか。どちらにしろ、進むべき道は見えてきた。愛生はやる気を取り戻す。

 その勢いのまま、河原へと向かった。

 今日も開戦を告げる増えが高らかに鳴っていた。愛生は用心しながら、河原の下へ降りていった。確実に人形たちは気づいたはずだが、一体の人形が弱々しく笑っただけだった。

 しかし秩序があったのはそこまで、切り捨てられ頭を破砕され、また血液に似た液体が飛び散る。同じ事の繰り返しだ。

 愛生は死体そのもののような人形を見て、ため息をついた。この前と変わらずのひどい有様で、見るに値しない。それでも、通り過ぎる気になれないのは、見捨てたような気持ちになるからだった。

 荷物を運ぶわけでもない、橋をかけるわけでもない、船を作るわけでもない。ただ無駄な動きをさせられている人形が情けなくて、かつ哀れだった。

「この人形と、領主一族がもっと深い繋がりがあればいいんだが……」

 愛生は低くつぶやく。その答えを知っていそうなのは、一人しかいない。

 数時間経つと、静かになった。空が紫色になり、陽光の残滓が山の向こうへ消えていく。それを見ながら待てど暮らせど、誰かが回収に来る様子はなかった。今日は帚木は、近くにいないのだろうか。

 愛生はとうとう苛々してきて、大地を蹴って歩き出す。倒れている人形たちのすぐ側まで寄っていった。

 腐心しつつ触ってみると人形の体はひんやり冷たい。さっきまで動いていたのに、表面まで熱は伝わっていなかった。
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