AIはついに、全人類を人質にとりました。

七綱七名

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大和国の宿無し

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 愛生《あい》はそれから脅したりなだめたりすかしたりして、ようやく侍の居場所を聞き出した。全く無駄な時間で、もうしばらく弟の声は聞きたくない。

「いいか。しばらく俺に話しかけるなよ」
「寝てていいの? やったー」

 背後からかすかに親族一同が怒鳴る声が聞こえてくる。愛生がいない間に、せいぜい教育してもらえばいい。

 愛生は指示された方角に向かった。小さな丘に登ると、京の言っていた河原の全景が見渡せる。気候は相変わらず良いというのに、河原の周りだけ草が刈り取られ、味けのない地面を晒していた。

 河原の一角に、石塀で囲まれた、運動場程度の広さの空間がある。そこには乾いた土が敷きつめられていた。そこに人がいる。ざっと数えて百くらいだろうか。もっと詳しく見ようとして、愛生は一瞬、身動きするのを忘れた。

 そしてしばらくたってから、ようやくわずかに声を漏らす。

「殺し合いだ……」

 多くを語る必要はない光景だった。涙も流さず、怯えもない。ただただ吠え猛る大勢の武士たちが、互いを容赦なく攻撃しあっていた。

 槍で鎧を砕かれても、大太刀で兜を割られても行軍は止まらない。瞬く間に、深手を負って十を超える人間が転がった。

 愛生は地に体を伏せる。矢がこちらに飛んでこないか見極めてから、じっと河原の方を見渡した。

 楽隊が、煽るように勇壮な音楽を奏でる。それに勢いづいてか、どんどん殺し方は残虐になっていく。中には、立ったまま串刺しにされて死んだ者すらいた。周囲はその哀れな屍を放置して、さらに戦いを続けようとしている。

「なんだ、この戦いに意味があるのか……?」

 止めようとして、愛生はふと立ち止まった。

「血のにおいがしない……」

 さっきから不快感が少ないとは思っていたが、その原因はこれだった。それに、切り口から一切内臓の類いがこぼれていない。代わりに落ちているのは、歯車やネジばかり。

「もしかして、あいつら人形なのか?」

 失われた命はないとわかってとりあえずほっとしたが、そうするとまた別の疑問がわいてくる。誰がどうして、こんな人形を作ったのだろう。

 人形は顔まで精巧にできている。これを作るには、相当手間がかかったはずだ。それに見合うだけの成果となると──

「他国への侵攻」

 確かに、人形であれだけ戦えるとしたら、戦争するにはもってこいだ。誰かがそれをテストしているとしたら、この大がかりな設備にも納得がいく。

「平和そうに見えても、安心できないな……」

 愛生がそうつぶやくと同時に、急に戦闘が終わった。人形たちがみな動きを止めて頭を垂れ、その場に崩れ落ちる。ひどく壊れたものは、その前から地面に横たわったままだ。

 どういう構造になっているか、技術者として中身を調べてみたい。愛生は様子をうかがいながら、おそるおそる人形に向かって歩を進めた。

「あんた、そこで何をしていなさる」

 その時、丘の下から呼び声がかかった。愛生が声のする方を見下ろすと、農作業帰りとおぼしき人々が立っている。中年男性一人、青年が二人で合計三人。家族らしく、皆よく似た、人の良さそうな顔をしていた。

「その先には川しかねえはずだぞ。どうなさった?」
「ちょっと道に迷ってしまって。この村に宿はありますか?」

 愛生は誤魔化すためにそう言った。それを聞いて、中年男性が顔をしかめる。

「そんな大層なもんはねえよ。船乗りが体を休める、寄り合い小屋ならあるが」
「その場所を教えてもらえませんか。宿無しでして、どこでもいいんです」
「でも、今の時期は誰もいなくて、寂しいところだよ。あんた、うちに泊まっていっちゃどうだい」

 男性の声に下心はないようだった。無理に断る方が失礼だろう。

「……すみません、よろしくお願いします」

 愛生は、素直に頭を下げる。最悪野宿でも、と思っていたから、ありがたい申し出だった。

 愛生は男たちと一緒に、来た道を戻る。夕暮れの空に雲が浮かんでいる。それに混じるようにして、家から煮炊きの煙があがっていた。

「あんた、名はなんという」
「愛生です」

 庶民には姓がない時代かもしれないので、愛生は短く名乗った。

「儂は弥助《やすけ》、こっちは太郎と次郎、うちの息子だ」

 弥助が言うと、息子たちも礼儀正しく頭を下げた。

 愛生は彼らと一緒に歩きながら、周囲を見渡す。

 もう一度見ても、村は豊かに見えた。田にも畑にも緑が見え、水路には豊富に水が通っている。現代日本の田舎、とまではいかないが、道も周辺の雑草をはらってきれいに整えられていた。農民たちは皆一様に痩せて日焼けしていたものの、不自然な飢餓の様子はない。この調子でいってくれれば今年も豊作だろう、と稲を見ながら農夫の一人がつぶやいていたのが聞こえた。

 暖かい風が吹く。気候は、春の終わり頃といったところか。愛生は、落ちかかった夕日を背で受けながら田んぼの間を進んでいった。

「あっちがわしらの家だ」
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