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何事にも……  (にんげんだもの)

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異世界なんちゃってヒストリーなんで、細かい考証は勘弁してください


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さて。

ついに「火」を持ち帰ったワタシを、仲間たちは、畏怖の表情で迎え入れた。
例のかまどもどきに枯れ枝を積んで炎を移すと、皆、憑かれたようにその揺らめきに見入った。
何人かがそれに触れようとして、熱さを知った。
かまどの天板となっている、私の研ぎ石の窪みに溜めてあった水が湯気を上げて沸き立つと、歓声が起きた。

ここまで来れば、後は早い。

この火を絶やすまいと薪を集めに走るものが現れ、風に煽られて炎が揺らぐと、石組を補強して風避けしてみたり、別のかまどに火を移したり、てんやわんやが始まった。
頃合いを見計らって、焼けた石の上に生乾きの肉を置いてやると、漂い始めた香ばしい匂いに、皆、恍惚としてかまどを囲んだ。
これまでも、日射しで熱くなった石に魚や貝を乗せるなど、すでにちょっとした加熱への下地工作を進めていたため、この熱を調理に利用する方向性は成立しやすくなっていた。

「火」を知ってしまった以上、彼らは、もう火のない暮らしには戻れまい。
この火種が失われてしまったとしても、何とかして火を作り出そうとするだろう。

すでにその日その夜には、大量の薪が集められ、自主的に火の番が行われるようになっていた。
洞窟の壁に窪みが掘られ、獣脂ろうそくがいくつも置かれて、幻想的な光景が皆を魅了した。
焚き火もろうそくも、かなり煙と臭いが出たため、幸いなことに、洞窟の奥に大きな火を持ち込むリスクは踏まずに住んでホッとした。

ほどなく、いつぞやワタシが作った粥を温めてみると言う天才も現れ、誰もが火に夢中になった。


私による文明開化プロジェクトの成果はまずまずで、この集落は、わりと進んでいるほうだ。
たぶん。

全世界視点でみれば、数千年の誤差で地域ごとの文明レベルは違うだろうけど。

1回目の人生で日本では歴史が始まってもいなかった頃、他所ではとっくに巨大建造物をこしらえていたわけだし、逆に、ワタシがスマホの更新で携帯ショップの兄ちゃんを困らせていた頃、まだ半裸で穴居生活をおくっている部族だって存在していた。

だが、本当に必要な知恵と言うものは、びっくりするほど素早く広まって行くものだ。

たとえば、この集落にも、外の世界からやって来た男達が幾人か居着いている。
交流と交易は、わりと遠方に及んでいるのだ。
おそらくは近親交配を忌避する動物としての本能であろうが、集落で生まれた男たちは、成熟すると、大多数が旅立って行き、二度とは戻らない。
弱い者は道中どこかで命を失うが、技術技巧や珍しい土産を持った他所者は、概ね歓迎されるのだ。
そして、遠い集落での知恵をもたらし、新たな遺伝子による命を育むわけだ。

だが、女たちは違う。

この世界、少なくともこの近隣において、成熟した女たちはその短い寿命の大半を、妊娠か、授乳、育児に絶え間なく費やす。
定まった伴侶は持たず、集落の健康な男がボスとして君臨する群れとなるのは、霊長類としての習性なのかもしれない。

つまり、そろそろ成熟女性とみなされる時期となるワタシは、近い将来、選択の余地なくそのルーティンに組み込まれる羽目になるということなのだ。



そこそこ華やかだった2回目の文明下ですら衛生上の理由で拒絶反応全開だったこのワタシが、そっち方面においてはまだサルの域を出ていないこの世界で、野生な皆さんとグローバルなお付き合いとか、あり得ない。
唯一の忌避手段は、集落からの逃亡だけだ。
幸か不幸か、危険の多いご時世なので、男女問わず狩猟や採取に出たまま帰らぬ人となる事は珍しくない。
手分けして捜索できるほどの意思疎通能力を有するには至っていないので、そうした場合、深追いはせずに諦めるのが常である。
親しい人々を悲しませる事にはなるが、逃げ出すこと自体はさほど難しくはないはずだ。

火に夢中で夜明かしをする集落の人々の背をぼんやりと眺めつつ、一抹の寂しさは禁じ得なかった。
だが、仕方がない。

このままとどまっても、猿山のサルのごとくに不潔極まりない中で、危険な妊娠出産を絶え間なく繰り返して早世する未来が待つだけなのだから。

何事にも、耐えられる限界と言うものはあるのだ。











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