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1回目  (恋愛貧乏録)

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高卒で就職したワタシは、数年間、新人の後輩達より年下だった。

指導員に任じられても、何か、なめられているようで落ち着かなかった。


3年目の春、大卒で入社してきたひとつ年上の後輩は、取り立てて顔が良いとかではなかったけれども良く気が合って、頼まれて毎朝モーニングコールで起こしてあげたり、異性としてはやや踏み込んだ友人関係にあった。

2年ほどが過ぎた頃、彼が言った。

「お前なんか、どうせカレシもいないだろうから、残ってたら俺がもらってやるよ」と。


恋愛とは、スイッチ次第だ。

恋愛相手として意識するかどうか、オンオフで切り替わるのだ。

うっかりオンしてしまうこともあれば、突然、ブレーカーごとオフになっちゃう事もある。

容姿が中の下だという自覚の有ったワタシは、徹底的にスイッチをオフに管理していた。

この自分にも好意を寄せてくれる人が現れれば、ありがたくスイッチオンしよう、と考えていた。


おずおずとスイッチを入れ、彼を意識し始めたある日、比較的親しかった先輩女子が電撃結婚を発表した。

未婚で産科受診したくないから、と非公式ながら、いわゆるできちゃった結婚らしい。

お相手は、ワタシの、あの彼だった。


その夜、彼から電話があった。


「クリスマス会の帰りに、送って欲しいって言われたんだ。酔ってたから、それで……」

「うん、おめでとう。」


当時は携帯電話なんか、なかった。

自分の家族が居間にいるのに、感情的になれるわけはなかった。


「お前なら、大丈夫だろ? 俺が結婚しても、何も変わらないからさ!」


変わらないはずはない。

家族だって、既婚男性から夜な夜なかかって来る電話を快く取り次いではくれまい。


「大丈夫だけどね。でも、外聞ってものがあるから。」



花嫁のお腹が目立つ前にと、2ヶ月後には結婚式が行われ、職場の同僚一同としてワタシも披露宴には行ったし、結婚祝いだって送った。

結婚後程なく「絶対そうだと思ってたけど、違ったみたい、ごめん」と奥様から言われたそうだが、ワタシには関係ない事だった。


そんな大事な事を、証拠も診断書も無しに鵜呑みにした男がバカなのだ。


数年後、独り暮らしを始めて携帯電話をゲットしたワタシの元に、電話がかかってきた。


近くまで来ているので家に来たいという彼には、丁重にお断りさせていただいた。

何も聞かないし、何も答えない。

冷たくする理由はなかったのかもしれないが、親しさを取り繕う理由は、もっとなかった。



それが、ワタシの最初の、恋愛未満の体験だった。





今世は非常に単純だ。

母親はママだが、父親は不明だ。

基本的にはボスの子であるはずだが、例外は多い。


前世で悩んだ事の大半は、今世においては何の意味も持たない些末事。


単純な世界に幸あれ。

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