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来てみたけれど

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「ハーン家御息女セレニスタ様、御到着でございます」

奏者番の奏上と同時に、私は完璧な角度で、一礼をキメた。

因みにこの奏者番という役職は、宮殿勤めの登竜門だ。
端役に見えるが、彼らはれっきとしたエリート官僚。

それぞれの知識に応じて配置されるが、要は、どれほど人事に通じ、武家、貴族の家門の事情に精通しているかで決まる職務だ。
国王謁見の場や、宮廷舞踏会の奏上ともなれば、国内外の高度な作法と膨大な知識が要求される。

決して、単なる案内人ではない。

おまけに、長時間立ちっぱなしの激務でもある。

知識、作法、体力、そして有事には扉を守護する武術も必要となるゆえに、出仕当初からここに従事するのは、概ね高位家門の子弟だ。
令息らにとってはめちゃくちゃキツい仕事だが、ここへの配属が早いほど、長老会議の老中職は近くなる。



そして人は、そんな事も知らずに入室前には油断するものなのだ。


もちろんこの私は、こんな初歩の初歩のトラップには引っ掛からない。
奏者にも会釈を送ると、素晴らしい最敬礼が返されてきた。

だからといって、ズカズカと入室してはいけない。
この国のルールは女に厳しく、初めての扉は一人で潜ってはいけないことになっているのだ。

本来であればここでは兄がエスコートするべきなのだが、そんなことに気付くほど血の巡りがよろしくないのか、はたまた意地悪の類なのか、腰を上げる様子は見られなかった。


さて、どうしましょうかね?

さっさと帰っちゃダメかしら?




::::::::::::::::

江戸幕府豆知識

「奏者番」

時代劇なんかで、将軍の席のナナメ前に正座して、謁見者を呼び出したりしてる、あの役目。
実際、多くの人名や役職を熟知しておらねばならず、また、将軍に最も近い位置に座すため宮中の儀礼や規範にも通じている必要があり、本人の地位もそれなりに高い。
初めて勤務する若手の大名が任じられることが多く、また、この役目を負えば、将来は老中に抜擢される可能性大の、出世登竜門だった。
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