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第二章 クラン街の悪夢

第47話 本当の危険人物

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 クランは罪悪感を紛らわせるため、最新作のアニメを見ながら、コスプレ衣装を自前で作り出す。
買った物は質が悪い上、値段が高い。

最初の頃こそ買っていたが、今ではほとんどの衣装が手作りだ。
依頼主もコスプレを始めたばかりらしいが、手作りは忙し過ぎて出来ないという。
そのため、普段は衣装作りに注文して来るのが、依頼主との連絡の理由だった。

お金にはぶりが良いようで、少し高めでも手作りの物を買いたいと言う。
それなりに関係を築いた時の依頼主の暗殺依頼だ。

最初は聞き間違いかと思い、暗殺で人気を集めているアニメかと思い、そのコスプレ衣装を作るだけだろと聞いてしまった。

そのアニメは私服が多いのでコスプレにはなかなか会わないが、たとえマニアックな衣装でも作ってやろうと考えていた。
それがまさかの殺しの依頼である。

正直、この依頼主には知られたくなかった。
メール友達とはいえ、一番長く知り合った親友のような者だ。

写真や動画なども送って来ていたが、とても暗殺を頼むような人物ではなかった。
それがどうして……。

そう戸惑っていたクランだったが、念願の夢が叶うと言う甘い誘惑に屈してしまった。
実際、店の建築設計とか、店員の数と接客とか、まるで分からなかった。

夢には見ていても、実現させるには知識も資金も経営能力も土地も無かった。
それらを一気に準備してくれるという報酬に、クランは飛び付いた。
この機会を逃せば、おそらく自力で店をオープンさせるには後数十年はかかるだろう。

クランは悪人以外を殺したくないため、半殺しで済ませるように提案するが、手加減は一切無用だと言う。

親しくなった親友の頼みだからこそ聞くが、突然にこんな依頼をされても普段のクランならば聞かなかっただろう。
依頼された以上は全力でやる。それもクランのポリシーだった。

暗殺は手加減していいほど甘くは無い。
どこから脚が付くかも分からないのだ。
慎重に、確実に、ターゲットを仕留めなければならない。

確実性が自分には欠如している事をクランも自覚していた。
それでも、ターゲットを苦しみながら死んでいく所を見たくはなかった。

精気を抜く時は、誰でも満足そうに死んでいくが、それ以外は絶望感や悲嘆にくれる者もいる。

自分の亜空間はなるべく苦しませないように、ターゲットを殺せるように作り上げていった。

食糧も飲み物もある空間で、好きなだけ食べてから死ぬ事ができるように作り上げたのだ。
場所のイメージもターゲットが望む場所に再現される。
今回のターゲットのイメージは、今までの人と違い、何もない虚無の空間だった。

大物政治家や悪人なんかは、豪勢なホテルや自分の豪邸を最後の住まいとしてイメージしている。
しかし、光宮守という奴はテントのような家や木の板などの質素な家をイメージしていた。

おかしいと思って依頼主に訊いてみると、以前は無職・ニートだと言う。
無職・ニート、おそらくこの世界に絶望し、夢や希望など奪われているのだろうな、と自分で勝手に納得する。

度重なる絶望感が、ターゲットの夢や希望を奪い去っていったのだろう。
人間は数十回ほど連続して挫折を経験すると、物事に興味を持つ事が無くなるのだ。
ただ今を生きる将来に何の希望も無い悲しい人物となるのだ。

社会、政治、会社、家庭、学校、何が彼をここまで追い込んだかは知らないが、それでいて引きこもりや精神病になっていないのは、ある種の才能である。
こうなると、新しい才能や物事の価値観等も常人には測る事ができないだろう。

良くいえば、どんなことにも絶望せずに対応できる人間。
悪くいえば、行動一つで全てを変えてしまうかもしれない危険を含んでいた。
長年、自分の築き上げて来た幸福や将来をほとんどの人は楽しむだろう。

しかし、彼は少しの行動でそれらを超えてしまうのだ。
度重なる絶望感が、群衆の心理を読み、うまく操る事さえも可能となるのだ。

ヒトラーやアインシュタインのような危険人物になり得ると言うのなら、確かに、早い段階で処理しておかなければならないだろう。

クランは依頼主の考えを予測し、暗殺する事にした。
そして、暗殺を終え、今の状況のようにくつろいでいるのだ。
そんな時、家を訪問して来る人がいた。

注意:ここまでクランの視点で進めましたが、次回からまた主人公視点に戻ります。
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