142 / 143
第五章
31
しおりを挟むテイラー伯爵令嬢を尋問してから一週間が経ち、私達の目の前では変わり果てた姿になったテイラー伯爵令嬢が居た。
……………かなりの回数で魅了魔法を使っていたみたいだから、何となく予想は出来ていたけど、これは酷いわね。
テイラー伯爵令嬢はミイラみたいになった姿で亡くなっていた。
看守が朝の見回りをした時には、すでに彼女は亡くなっていたらしい。
「これが魅了魔法の恐ろしさなんですね。兄上はこの事をどうするつもりですか?」
「残酷ではあるが、今回のことを公表して、この者の亡骸を皆が見える場所に1か月間保管する。この姿を見たら、誰も同じようなことはしないだろう。最後までこの者は真実を話そうとしなかったからな」
そうなのよね。
残念なことに彼女は亡くなるまで何も真実を話さなかった。
話すことと言えば、自分は悪くない。
自分は神に選ばれた人間だとか、そんな話しかしなかったのよね。
協力者が居たのか、魅了は魔法を使ったのか、それとも魔導具を使ったのか最後まで話さなかった。
「陛下はテイラー伯爵令嬢に協力者が居たと思ってるんですか?」
「それは分からない。でももしものことを考える必要がある。魅了魔法のことを知らせなくても、いずれまた使えるものが出てくる可能性はあると思っている」
確かにもう2度と現れないとは言えないわね。
魔法なのか魔導具なのか分からないけど、もしも使えるようになったとしても、その恐ろしさを知ったら使おうとは思わないはず
「風化させてはいけないですね。でも記録として残したとして、この記録を見れるものは限られてしまうので、一部のもの以外には忘れられてしまうでしょうね」
ユーリ様は悔しそうに呟く
私に出来ることはないかしら?
「陛下にお願いがあります」
「何かな?」
「今回のことの当事者として本に残したいと思います。完成したものを陛下に確認してもらい。許可が下りたら販売をしたいと思っております」
2年間は学園生活が残ってますし、王太子妃教育もほぼ終わってるようなもの。
本を書く時間ならいくらでもあるわ。
本を販売したら魅了魔法の被害者と公表して、今回の事件の事実を次期王太子妃が書いたって宣伝したら、買ってくれるものが沢山居るはず。
貴族はミーハーが多いですからね。
「それは有り難いが本当に良いのかい?知られたくないこともあるんじゃないか?テイラー伯爵令嬢が親戚だったことを知らないものも多いはずだ。本を出したらそれを知られてしまうぞ?」
「正直に言うとちょっと怖いです。でもこのことを忘れられてしまうことのほうが私は怖いですわ。もう2度とこのようなことは起きてほしくないですから」
私は私の出来ることを頑張りたい。
私が本を書くことで興味を持ってくれる人が一人でも増えたら嬉しい。
本を読んでくれたことで、魅了って魔法がどんなに恐ろしいことなのか知ってほしい。
陛下はテイラー伯爵令嬢の遺体を全員が見れるように公開すると言ってるけど、どれだけの人が見てくれるのか分からない。
それに今は小さい子供などは親が見せるわけがない。
小さい子供やこれから生まれてくる人が、本を読んでくれたことで何かを感じてくれるかもしれない。
その可能性があるなら、私は少しの希望だとしてもやってみたい。
テイラー伯爵令嬢の遺体を見る人はいずれは亡くなってしまう。
そしたらこのことを覚えてる人は居なくなってしまうはず、こんな重たい話をわざわざ自分の子供や孫に、進んで話したい人なんて居ないでしょうからね。
それにこの子は忘れられてはいけない。
忘れられてしまったら、また同じようなことが起きるかもしれない。
私が王太子妃になるってことは、私の子供が将来は王位を継ぐことになる。
そしたらまた魅了魔法を使うものが現れた時に、私の子孫が被害者になる可能性は高い。
そうならないように、この出来事を風化させてはいけない。
「イリーナ嬢………ありがとう。期待している」
「はい!!」
これは次期王太子妃として、初めての大事な仕事になる。
皆が最後まで読んでもらえるように、つまらない話では絶対にいけない。
だけど現実味がなさすぎる話では、今回のことを信じて貰えなくなってしまう。
加減を気を付けないといけないわね。
「兄上!!イリーナ嬢にプレッシャーを与えないでくれ。イリーナ嬢も無理する必要はないから」
「心配してくれてありがとうございます。でも私のちょっとした行動で未来が変わるかもしれないなら、最後まで頑張りたいです」
「そっか………、じゃあ、私もイリーナ嬢を応援してるよ」
今までの私は漠然とした夢しかなかった。
国のために役立つことをしたいってことしか決まってなくて、将来のビジョンがハッキリしてなかったけど、やっと自分がやりたいことが見えた気がする。
後悔のないようにやり遂げてみせるわ。
1,591
お気に入りに追加
5,749
あなたにおすすめの小説
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる