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第五章
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しおりを挟む陛下が一番奥の牢屋の前で立ち止まる。
暗くて見えづらいけど、牢屋の奥にテイラー伯爵令嬢が縮こまってるのが見えた。
彼女のこんな姿を見るのは初めてね。
いつもは自信に満ち溢れていて、暗いなんて言葉が似合わない人だったけど、そんな人でも長期間もこんな所に閉じ込められてると、精神的に辛いのかもしれないわね。
陛下は後ろを振り向いて、私達の様子を確認してからまた前を向く。
「リリヤ•テイラー」
陛下が彼女の名前を呼ぶと、彼女はパッと顔を上げる。
キョロキョロしていたテイラー伯爵令嬢の視線が私に止まり、一瞬目を見開いた後に柵の前まで掛けてきて、柵を掴みガタガタ鳴らしながら、上手く聞き取れないけど何か叫んでいる。
目も血走っていて怖い。
私が知っている今までの彼女とは全く別人みたい。
恐怖で無意識に一歩後ろに下がると、ユーリ様にぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい」
「私は大丈夫だよ。イリーナ嬢は大丈夫かい?もしも無理そうなら、今からでも辞退して良いんだよ?」
ユーリ様からのありがたい提案に、気持ちがそっちにふらつきそうになるけど、でも私が居たほうが彼女の気持ちを揺さぶることが出来るって言う、陛下達の考えは間違いなさそうだから協力もしたい。
10秒ぐらい考えてから
「私が居るだけで彼女の口が軽くなるならここに居ます。私が何か出来るとは思えませんけど、居るだけで良いなら私にも出来ますわ。ユーリ様も一緒に居てくれますか?」
「勿論だよ。イリーナ嬢を置いて行ったりしない」
ユーリ様は私の手を握ってくれる。
ユーリ様が居てくれるなら頑張れるわ。
「何で!!何でお前が幸せそうなの!!私はこんな所に閉じ込められてるのに、悪役令嬢のお前が幸せそうなのよ!!」
「………悪役令嬢が何なのか分かりませんが、私が幸せになることの何が悪いんですの?私が幸せになることに対して、貴女には関係ないですわよね?貴女の恋人を奪ったわけではありせんわ」
ずっと疑問だったのよね。
彼女からここまで目の敵にされる覚えはない。
レイチェルから詳しくゲームの内容を聞いたけど、私がヒロインとミハイル様の仲を邪魔することも無いらしいですし。
ゲームでは、ヒロインも婚約者候補の一員に選ばれて、1番成績の優秀な私と比べられるだけみたいなのよね。
最終的に私より成績が悪かったら、私が婚約者に選ばれてバッドエンドで終わるらしい。
私の役割がそれだけなら私の必要性がないのよね。
個人的に努力して、陛下や王妃様に気に入られればいいだけの話。
なのに彼女はよくある悪役令嬢に私を置こうとしている。
誰も信じなかったみたいだけど、一般クラスでは私に虐められてるや、私と仲良くしたいのに避けられてる等と言っていたらしい。
これはレイチェルから情報提供して貰ったから間違いない。
彼女が何を考えてるのか理解出来ない。
「悪役令嬢のお前が幸せだと私が幸せになれないのよ!!今だってミハイルのことを好きなんでしょ!!」
「私はミハイル様に恋愛感情は全くありませんわ。婚約者候補だったのも家のためですし、頑張っていたのはミハイル様の婚約者になったら、母親が喜ぶと思っていたからですから」
「嘘よ!!そんなのあり得ない。お前は私の邪魔をしないといけないのよ!!じゃないと私が幸せになれない。私は沢山の人に愛されないといけないんだから」
はぁ~、話が通じない。
前世では、キチガイな相手とは話が成立しないって聞いたことがあるけど、あれってこういうことなのかしら?
身近にこんな人は居なかったから、対処法が全く分からないわ。
元々そういう性格なのかしら?
それともここがゲームの世界だと思ってるから、自分が中心じゃないと許せないとか?
「君が何を言ってるの理解出来ない。君の人生にイリーナ嬢は関係ないだろ?イリーナ嬢はもう息子の婚約者候補ではない。彼女は私の弟の婚約者だ」
「それがおかしいのよ!!私とミハイルが結婚するまでは、この女は幸せになれないのよ!!結婚したあともミハイルに捨てられた女ってことで、一生惨めな暮らしをするはずなのに、何で王弟と婚約して幸せそうにしてるのよ!!こんなのシナリオにない。王弟は攻略出来ないはずなのにどうなってるのよ!!」
ゲームではそうみたいね。
でもそれを知らない者からしたら、彼女の妄想話は不快を感じるわよね。
「シナリオとか攻略とか何を言ってるんですか?貴女の言い方ではまるでこの世界が物語の中みたいではないですか。ここは現実ですわ。みんな生きていて感情があります。世の中が貴女中心で回ってるわけではありません」
いい加減に現実を見て欲しいわね。
この世界が舞台のゲームを知ってるから、現実味がないのかもしれないけど、私達は実際にこの世界で生きてるんだから、自分が不幸になるような生活をするわけがない。
自分が悪役令嬢に転生したなら、シナリオを変えてでも幸せになろうとして何が悪いの?
別に彼女の妨害をしているわけではないわ。
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