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第五章
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しおりを挟む私は初めて入る地下牢でワクワクする気持ちと、ちょっと不気味だから怖いって気持ちで混乱する。
「大丈夫かい?怖かったら断っても良かったんだよ?」
私がぷるぷる震えてるのを怖いせいだと思ってるユーリ様は、私を気遣ってくれる。
「大丈夫です。初めて入るので不思議な気分です。冒険気分でワクワクもするんですけど、ここの気配のせいか怖いって気持ちもあるんですよね」
「それが当たり前だと思う。ここは犯罪者の中でも凶悪犯が集まる牢屋だから、ここにいる者達は死刑が決まっているんだよ。そのせいで死の恐怖と戦ってるものばかりだからか、この場所は負の感情が集まってるからか空気が重くなりがちなんだ」
スピリチュアルみたいなものか。
暗い場所には悪いものが集まりやすいって言いますものね。
てか………、ここにいる人達って全員が凶悪犯なんだ。
テイラー伯爵令嬢はこんな所に入れられてるんだ。
やったことを考えたら凶悪犯か。
「ちょっと怖い気持ちはありますけど、陛下が私がいたほうがテイラー伯爵令嬢の口が軽くなるって判断したなら、私はそれに協力するだけですわ。早く全ての真実が分かり、何の不安も無くなったほうがいいですからね」
テイラー伯爵令嬢は牢屋に入ってからも、私に対してずっと悪態をついてるらしい。
私が何もしないから悪いとか、自分はヒロインだとか、普通なら意味が分からないことばかり。
この意味が分かるのは、私とレイチェルぐらいよね。
でも悪役令嬢がいないとハッピーエンドになれないなんてその程度ってことよね。
それに私は悪役令嬢って言っても、虐めたり妨害をするわけではない。
ヒロインの成長を促すキャラだから、自分で成長できるように努力すればいいだけ。
それなのに魅了魔法なんかに頼るから、こんなことになったのに私のせいにされても困る。
「イリーナ嬢は勇敢だな。でももしも途中で無理だと思ったら、遠慮なく言ってほしい。ここの担当の看守は半年で病んで辞めていく者ばかりだから、ここは精神衛生上あまり良くないんだよ」
「はい。無理は絶対にしませんわ」
私達は何箇所かの牢屋の前を通るけど、誰も入ってない場所が続く。
凶悪犯が何人も居るわけないわよね。
それに死刑が決まってるものを、長期間もこの場所に居させるわけがない。
死刑が決まったら、すぐに処刑されてしまうはず。
だって犯罪者達が生きてる間にここで出される食事は、国民の税金が使われている。
被害者からしても牢屋で苦痛もなく生きて、ただ飯を食らってるなんて許せないわよね。
…………凶悪犯が沢山いるって考えたら、ちょっと怖くなってきたかも。
もしも何かの事故で全員が牢屋から出てきたりしたら怖い。
奥の方に進めば進むほど、牢屋の中に人が入ってる場所が増えてくる。
私達が通ると牢屋の柵を掴み、助けを求めるように大声を出すもの。
ここから出すように脅すものが居たり、牢屋の奥から出て来ないでブツブツ何かを言ってるものもいる。
恐怖で体が固まってると、私の肩をユーリ様が抱き寄せる。
「大丈夫だから。何があっても絶対にイリーナ嬢は僕が守る」
ユーリ様の励ましに勇気を貰い、ゆっくりとだけど前に進む。
私達の前を歩いていた王妃様が私の様子に気がついてくれて、歩みを止めて私の隣に並ぶ
「まだ若い貴女にはここは怖いわよね。ごめんなさいね。私達がお願いしたからこんな所まで来ることになってしまって」
「王妃様が謝ることではありません。ユーリ様からテイラー伯爵令嬢が脱獄を企んでいたと聞きました。そんな人物を私だけの都合で部屋を移動させるわけにはいきませんから」
テイラー伯爵令嬢は最初は若い女性ってことで、一般牢に入れられていたけど、看守を魅了して逃げ出そうとしていたと聞いた。
魔導具のおかげで未遂で終わったけど、そんな危険人物を一般牢では無理ということで、警備も厳しいここに入れられた。
もう魔法は使えないとはいえ、そんな危険人物を王族に会わせて良いのかしら?
「私よりも陛下と王妃様は大丈夫なんですか?逃げ出すためならお二人に何かする可能性もありますよね?今も逃げることを諦めてないって聞いてます」
「危険かもしれないけど、私はあの者を許せないのよ。馬鹿な息子だったけど私は子供を愛していたの。また子供を手放さないといけないなんて、理由を作ったあの者を許せないわ。絶対に罰を受けさせる」
また子供を手放すか………、
生まれたばかりの息子を実家に任せたことを言ってるのかな?
王妃様からしたら双子って理由で息子を手放さないといけなかったことが、今でも辛い出来事として残ってるのかもしれないわね。
今はその息子が学園に通うために近くに居るのに、自分が母親だって堂々と名乗れないのは、何よりも辛いかもしれないわね。
この事件を陛下が率先して動いてるのは、王妃様と同じ気持ちだからなのかもしれないわね。
今までの陛下を見てると、息子を見限ってるように見えたけど、本心では息子に跡を継いでほしかったのかもしれない。
だけど息子に任せる事はできない。
陛下にとってジレンマだったでしょうね。
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