上 下
99 / 143
第四章

しおりを挟む

 お父様とお兄様の所に挨拶に来る人が増えたので、私とレイチェルは避難するために飲み物を取りに行くことにした。

「お兄様が恨めしそうな目をしてるわね。こういう時は次期跡取りとして逃げることは出来ないから、お兄様が不憫に感じますわね」

「本当だ。イリーナは後で八つ当たりされるんじゃない?」

「かもしれませんわね。レイチェルには絶対に八つ当たりをしないですから、あの恨みは私に行くでしょうね」

 お兄様は婚約してからずっとレイチェルには紳士ですからね。

「優しいのは嬉しいけど、イリーナとセミュン様のやり取りを見てると、セミュン様は私に壁を作ってる気がして寂しいかな」

 確かに普段のお兄様は意地悪なところもありますし、兄妹だから砕けて話すことも多いから、それを見てたらちょっと寂しくなるかもしれないわね。

 今日みたいなパーティーでは、公爵令息のお面を被って紳士的な青年を演じてるけど、お兄様の素の姿はちょっと俺様で強引な所がありますからね。

 妹である私にも悪戯をしたり、意地悪を言って私の反応を楽しんでる時もある。

 そんなお兄様を私が嫌わないのは、私が本当に困ってたり、悲しんでる時は寄り添って助けてくれるからなのよね。

 お兄様は心を許した相手にしか素を見せない。

 嫌いな相手には辛辣な態度になることもありますけど、それ以外の人には紳士に接している。

 公爵家の息子として、家の恥にならないように過ごすのは当たり前よね。

「お兄様はレイチェルに嫌われたくないんだと思いますわ。紳士的な男性を嫌う人は居ませんから、お兄様は嫌われないように必死なのよ」

 レイチェルとお兄様の婚約は、レイチェル側からの申込みだったけど、レイチェルに初めてあった時にお兄様が一目惚れしたのは間違いない。

 私はお兄様に好きな人が出来て安心したのよね。

 お兄様はちょっと人間不信なところがある。

 私も多少ではあるけど人間不信だから、お兄様の気持ちはよく分かるのよね。

 公爵家って身分があるせいで、私達に近付いてくる人は男女問わず沢山居る。

 媚てくる人や妬んで嫌味を行ってくる人、私が努力をして何かを出来るようになっても、公爵令嬢なんだから出来て当たり前だと思われることが何度もあった。

 努力をしてもその努力を受け入れてもらえない。

 結果だけを求められて、もしも出来なかったりすると、見下されたり残念そうにされることが何度もあった。

 公爵家って身分があるせいで、私自身を見てくれる人は少ない。

 公爵家の子供として失敗は許されない、大した事ない失敗でも大袈裟に吹聴する人が居る。

 私達が失敗することを喜ぶ人達が居る。

 私がまだミハイル様の婚約者候補だった時は、私が王太子妃になれる可能性が1番高いってことで、私を蹴落とすために失敗するように誘導する人もいた。

 失敗が許されないのは私だけではなく、お兄様とお父様も同じだったのよね。

 私の欠点が見つからない事で、私の身内の粗探しをするようになる。

 家族の誰かが問題ある人物だったら、それを理由に私を蹴落とすことが出来るから、私達家族は家から出たら気を抜くことは出来なかった。

 友達だと思ってた人に裏切られる事が何度もあった。

 それはお兄様も同じで1時期は人間不信が酷すぎて、お兄様と私は鬱になりかけたこともあるのよね。

 だからお兄様がレイチェルに一目惚れをした時に、私は心の底から安心したのよね。

 たぶんお兄様は私よりも人間不信が重症だと思うから、そんなお兄様が好きな人が出来て、心の底から私は嬉しかった。

 お兄様は人を好きになれないかもって不安だった。

 お兄様も悩んでいたことを知っていた。

 学園で年頃の男女が集まってたら、当たり前に恋愛に発展したりする。

 好きな人が出来たりするのは年齢を考えたら当たり前なのに、お兄様は全く好きな人が出来なかった。

 異性として意識することもなかったみたいで、当時のお兄様は本気で悩んでたのよね。

 でもお兄様の気持ちは分かるのよね。

 私も学園に通うようになって、今までより沢山の人と関わる機会が増えた。

 だから色んな人と関わるようになって感じることもあるのよね。

 私に近付いてくる人たちは、私の身分やお金が目的な人が多い。

 男性が相手でもそうなのだから、女性が相手なら余計によね。

 今は女性でも働ける場所は徐々に増えては来てるけど、古い考えの貴族などは女性が働くのに否定的な人が多い。

 そうなるとお金を直接稼いだり出来ない女性は、結婚相手に稼いでもらう必要がある。

 良い暮らしをするためには、地位がありお金を持ってる男性を選ぶのが当たり前になる。

 今のこの国では仕方ないことだから、当時のお兄様は家ではなく自分を見てくれる相手を諦めていたのよね。

 諦めてるお兄様に何か言ってあげたくても、当時の私は何も言えなかった。

 だっていつか好きな人が現れるとか、お兄様自身を見てくれる人が現れるなんて、確信のないことは言えない。

 公爵家に生まれ私達には、純粋に私達を見てくれる人を探すのは難しい。

 誰かを異性として好きになれなくても、結婚して子供を作ることは出来るから跡取りとしては問題ないのよね。

 でも結婚相手が心の支えになるかは分からない。

 貴族の当主は孤独を感じることが多い、だからこそ愛人を作ったりして心の支えにしたりする。

 結婚相手が心の支えになる人物なのが一番いいけど、例え愛人だったとしても居ないよりはいい。

 ずっとお兄様が心配だったけど、今のお兄様にはレイチェルが居る。

 もう大丈夫よね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

処理中です...