【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ

文字の大きさ
上 下
87 / 143
第三章

24

しおりを挟む
螺旋状の竪穴のスロープを下層に向かって、“ハルク式荷馬車チャリオット・参式”で走行していく。
しばらく降りていくと、スロープの終点に到着する。

「付きました。ここがミスリル鉱脈の第一階層です!」

到着した先に広がっていたのは、横に伸びている空洞。ボクが横に採掘していった通称“第一階層”だ。

「ここがミスリル鉱脈……凄く綺麗で幻想的ですね……」

設置してある“発光石”に反射して、坑道内のミスリル原石が虹色に輝いている。サラが言葉を失っているように、まるで幻想の世界のような光景が広がっていた。

「ふむ、これがハルクの見つけたミスリル鉱脈か。ワシもこれほど大規模なものは、初めて目にするのう」

ベテランのドワーフ職人のドルトンさんは、前にも別のミスリル鉱山に入ったことがある。だが大地に愛されたドワーフ族ですら、これほどのミスリル鉱脈は発見してないという。

「あっ、でも、下の階層にはもっと沢山のミスリル原石がありますよ! ここはほとんどボクが採掘してしまったので!」

「な、なんじゃと、これよりも、もっと沢山じゃと⁉ ふう……まったく、どれほどの埋蔵量があるのか予想もできないな」

「はっはっは……そうですね」

ミカエル城の地下に広がる鉱脈は、かなりの深さがと埋蔵量がある。ボクが十年かけても、まだ一割も発見できていない状態。

大げさな話をするなら『ミカエル王都の地下深くに、広大な鉱脈は広がっている』ような大規模な鉱脈なのだ。

「ふん。それほどの大規模な鉱脈があるのなら、ミカエル王国はとんでもない超軍事大国になる可能性もあるのう」

「そうですね。だからルインズ様は国王だった時は、最低限の採掘しか指示してきませんでした」

貴重な金属の採掘量は、その国の国力と軍事力を増大させる。
平和を望むルインズ様は『ハルクよ、国民の生活を豊かにする程度の、最低限の採掘をするのだ』と言ってくれた。
だからボクはその教えをずっと守ってきたのだ。

「じゃが、今の国王は何を考えているか分からん。もしかしたら、この鉱脈を悪用する危険性があるのう」

「そうですね。だからヒニクン国王が何をしているか、調べる必要性があるんです!」

ルインズ様の情報によると、今の国王は怪しげなことを水面下している。特に臣下にも内緒で、この鉱脈で何かをしているという。
嫌な予感しかしないボクは、最優先で鉱脈の現状を調べることにしたのだ。

「それじゃ、第二階層に降りていきましょう。ん? サラ?」

“ハルク式荷馬車チャリオット・参式”を再発進させようとした時、サラの異変に気がつく。

「ご、ごめんなさい、ハルク君。なんか、息苦しくて、身体が重くて……」

サラは明らかに体調が悪そう。
座席に座りながら顔が白くなって、息が苦しそうにしている。隣のドルトンさんの方に異常はない。
これはどういうことだ?

「『息苦しくて、身体が重い』……あっ、そうか! すぐに対処するね!」

サラの容態で思い当たることがあった。急いで運転席の操作パネルのスイッチを入れる。

キュイン! シュ――――!

直後、“ハルク式荷馬車チャリオット・参式”の床から、空気が噴き出してくる。

キュイ――――ン! ボワ――――ン!

更に床の下から、新たなる駆動音が聞こえてきた。どちらも新たなる超魔具が作動したものだ。

「えっ……もう苦しくない⁉ すごく楽になりました、ハルク君!」

しばらくしてサラの体調が回復する。顔色は元に戻り、元気そうに自分の身体を動かしている。

「さっきの私の体調不良は、なんだったんだろう?」

「説明するのが遅れてごめん、サラ。実はこのミスリル鉱脈は“少しだけ”息苦しくて、身体が重くなる場所なんだ!」

王都の地下にあるミスリル鉱脈は、普通とは少しだけ違う場所。空気に“魔素”が少しだけ濃く混じっているのだ。

また重力と呼ばれる下に引く力が“少しだけ”強く、身体が重く感じしてしまうのだ。

「なるほど、そうだったんですね。あっ、でも、ドルトンさんは?」

「辞典によるとドワーフ族は人族よりも頑丈で、地下に強い体質らしいから、まだ平気だったのかな、たぶん」

大地の精霊に愛されたドワーフ族は、呼吸や骨格などが強靭。そのためドルトンさんに異常はなく、人族のサラだけ苦しくなったのだろう。

「ふむ、そう言われてみれば、ワシも少しだけ違和感があったかもな。だが、今はまったく無くなったぞ。さっき何の超魔具を起動させたのだ、小僧?」

「実はこの空気が出てくるのは、《空気清浄器プラズマ・エアクラスター》という超魔具の機能なんです!」

今回、ミスリル鉱脈に潜るにあたって、“ハルク式荷馬車チャリオット・参式”に色んな機能を追加してある。
その中の一つが《空気清浄器プラズマ・エアクラスター》。機能を簡単に説明すると、『生きていくうえで適切な空気が流れてくる』超魔具だ。

あまり知られていないが、人は生きていくために“空気”と呼ばれる存在が必要となる。少しでも変なものが混じっていたり、空気が薄くなると人は体調を悪くしてしまう。
だから常に適切な空気が吸えるような超魔具を、事前に開発設置しておいたのだ。

綺麗な空気の元は、サラに作っておいたポーション。それに魔道具を組みわせて、最後にボクの鍛冶仕事でくみ上げたものだ。

「あと、身体が軽くなったのは、《重力制御装置グラビティー・コントロール》の機能です!」

こっちの機能を簡単に説明すると、『重力の強さを自由に制御』する超魔具だ。
今回は強くなってきた重力を相殺して、地上と同じ強さに調整。地下に潜っていく度に、自動的に強さを相殺していく機能がある。

ちなみに手動で強さを調整可能なために、逆に重力を強くすることも可能だ。

あっ、でも『人が動けなくなるほど強力な超重力』なんて機能があっても、日常では使い道はないかも。

「……という訳で、荷馬車の中にいる限りは、最下層にも対応できます!」

鉱脈の最下層は、ここよりも更に少しだけ過酷な環境になる。
だがこの二つの超魔具があれば、なんの問題なく降りていくことが可能だと、二人に説明をする。

「く、空気を生み出して、さらに重力を制御できる……じゃと⁉ 相変わらずとんでもない物を作り出しおって、オヌシは。この荷馬車さえあれば、魔界にも乗り込んでいけそうじゃぞ」

「はっはっは……おそれいります」

「でもハルク君の発明のおかげで、快適に先に進めそうですね」

「そうだね、サラ。よし、こんどこそ本当に下層に向かおう!」

超魔具のお蔭で、過酷な環境に対しての対応は万端。
こうして更に下の“第二下層”にボクたちは向かうのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...