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第一楽章 出会いと気づき
本当の友達
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学校が終わり、下校の時間になる。
金縛りから解放されたように椅子から立ち上がり、皆がそれぞれの放課後の予定を執り行っていた。
「……」
しかし、騒ぎ出す級友達に目もくれず、俺は一人で教室を出る。
視線を感じるが、俺は気にしないようにしていた。
振り向けばいいことが起こるのだろうか、そんな淡い期待をする自分はもういない。
俺は一人で別の場所に向かう。
長く続く一本道を抜けて、暗く細い路地を進む。
日が落ちると建物の陰に入ってしまい、視界が暗くなるのだ。
さらに時折聞こえる烏の鳴き声が、その不気味さを助長させている。
恐怖を振り払い、俺はさらに奥に進む。
段々と視界が開けてくると、目の前に目的地がある。
「着いた」
たどり着いた先は、古びた団地のある一角に置かれた公園。
塗装が剥げ、表面の錆びが露わになったポール。
風に揺られてギシギシと音を立てるブランコ。
時代のあおりを受けて廃れてしまった今の団地を象徴しているかのようだった。
その地に足を踏み入れる。
地面にはわずかな砂が現存しており、コンクリートがむき出しになっていた。
地面を蹴るように進み、奥に設置されたブランコに着く。
そして、ランドセルを地面に投げてブランコに座ると、俺は一人漕ぎだす。
今にも千切れそうなほどに不安定な状態。
それに構わずに加速させていく。
「______」
この瞬間だけは無心になれる。
何も考えずにただ漕いでいればいい。
しかし、次第に疲れが見えてくると、振り子が弱まっていく。
必死にもがくが、それをあざ笑うかのように振りは弱まり、最後は足を着いてしまった。
「はあ……はあ……」
呼吸を乱し、必死になって頭に酸素を取り込む。
だけど、取り込まれた酸素は、思考を鮮明にしてしまう。
クリアになった脳内には、考えたくもなかった思い出が映ってしまう。
「やめてよ……」
内から言葉が溢れる。
一度こぼれてしまうと、決壊したように次から次へと出てくる。
これ以上自分を律することはもう出来なかった。
家に帰れば、俺にはつらい現実が待っている。
大好きだった人、今までも、これからも、ずっと一緒だと思っていた。
抱きしめられた感触も今でも鮮明に覚えている。
冷たい手で頬に触れられる。
冷たい、俺がそう言うと、あの人は照れながら笑ってくれる。
それを見ると、自分が笑顔にしたんだという思いが溢れる。
笑ってくれる、その事実がただただ嬉しかった。
嬉しかったはずなのに……
ーーー
閉め切ったカーテンの隙間から光が差し込んでくる。
その射光に釣られて、目を覚ましてしまった。
ちらりと時計を見る。
時刻は五時を指しており、かなり寝込んでいたことが分かる。
「……」
嫌な夢を見た。
幼少期の自分が一人で遊んでいる夢。
いや、あれは遊んでいたのだろうか。
とても心地いい夢とは言い難い。
だからだろうか、すぐに身体を起こそうという気にはなれなかった。
布団が心地良い。
包まっていると安らかな気持ちになる。
……
家に帰ってきてから身体がだるい。
都内から自宅に戻り助手席から降り立つと、すぐに自らの異変に気がついた。
小刻みに手が震え、動悸が激しくなる。
呼吸は乱れ、視界が揺らいだ。
それでも、不審に思う父さんに悟られないよう、俺は何とかして平然を装った。
玄関でも、夕飯でも、家事をする時も、俺は自分を騙し続けた。
だけど、俺はそこまで強くない。
化かし続けた俺は、部屋に戻るとすぐに倒れ込んでしまった。
安息の場所に足を踏み入れたからだろうか、緊張の糸が切れてしまった。
すぐに身体を起こそうとしたが、俺の身体は俺の言う事を一切聞いてくれない。
立ち上がることすら出来ない、初めての経験。
俺は畏怖した。
その恐怖心を認めた途端に全身が震える。
伝播する痙攣、絞り出すことすら出来ない声。
もう自分を騙し続けることは出来なかった。
結局今日の授業は休むことにした。
朝になると症状が和らいだが、部屋から出るまでは出来なかった。
父さんに心配されたが、熱も出ていなかったので問題ないとだけ伝えた。
父さんにだけは心配されたくなかった。
「……初めて休んだな」
誰もいない部屋で、一人ぼそっと呟く。
今まで学校を休んだことは無かった。
無遅刻無欠席を維持していたため、その記録が途切れてしまう。
でも、そんなものを意識したことは無かった。
ただ、父さんに心配してほしくなったから、それが理由だった。
心配され、憐みの目を向けられる、それが嫌だった。
それを向けられるたび、どうしても目の前の父さんよりも、いなくなってしまったあの人が脳裏に浮かぶ。
あの人を思い出すから、俺は風邪をひいた時でも無理して学校に行った。
……
でも、今日はそれを考える余裕さえ無い。
実際に母さんに会ったからだろうか。
確かにそれもあるだろう。
しかし、それ以上に自分に向けられた憎悪の眼差しが最もな原因だ。
安藤の姉を名乗る人物、新藤理沙から直接発せられた言葉。
自分がいない方が物事が円滑に進む、それに気づかされてしまった。
自分の存在が余計な関係性を生み出している。
自分がいなければ、父さんは心置きなく母さんと接することが出来る。
自分がいなければ、安藤が困ることもない。
自分がいなければ……
「______」
俺は顔を枕に埋める。
こんな事ばっか考えてしまう自分が嫌いになる。
もうこれ以上、自分を嫌いになりたくなかったのに。
昨日から思考が悪循環して頭から離れない。
良くないと分かっていても、止めることは出来なかった。
突きつけられた事実が、心を蝕む。
「……」
でも、このままではいけないのもまた事実だった。
気分転換をするため、俺は無理やり布団を投げて部屋から出る。
閉め切っていた部屋を開けると、どんよりとした空気が薄れていくのを感じる。
階段をゆっくりと降りる。
しかし、ずっと寝込んでいたからか、一階に辿り着くと足が縺れた。
「……!」
一瞬冷や汗をかいたが、階段の手すりを掴んでいたため、事なきを得た。
すぐに立とうと思ったが、足に力が入らない。
そのまま階段の段差を椅子代わりにして座った。
「何やってんだ、俺」
誰もいない空間、俺の声がいつもより響く。
こだまする自分の声は塵となって消えていった。
やることが全て空回りしている気分になる。
ただ辛い。
だったら、もう動かなくてもいいじゃないか。
動かなければ、これ以上悪い方へと進む必要もない。
変わろうともがく必要もない。
俺は下を向いた。
まるで目の前の事実から目を逸らすように。
……
差し込んでいた夕日は雲に隠れてしまったのか、その姿を消してしまった。
明かりをつけていない廊下は、視界を遮るように薄暗い。
自分の影は、もう見えなくなってしまう。
ただ、リビングから時計の針が動く音が聞こえてくるだけだ。
でも、その音も次第に溶けてなくなっていく。
何もかもが消えていく。
それから先の記憶はない。
ただ時間が過ぎていくのを傍観していたと思う。
朦朧としていた意識がはっきりし始めた頃、俺は今の時刻を確認する。
既に廊下は暗闇に包まれており、手探りで明かりをつける。
壁に取り付けられた電源を入れると、目が眩んだ。
暗闇に慣れた目に温もりのある光は合わない。
目を細め、逃げるようにしてリビングに行こうとした。
「……え?」
自分の目を疑った。
何気なく目をやった玄関。
誰かの気配を感じたわけでもない。
でも、ドアの向こうに人影があった。
……
一瞬、父さんが帰って来たのかと思った。
たまに帰って来る時間が早いことがある。
でも、それは今日ではない。
仕事始めの月曜に早く帰って来ることは稀だ。
それに、予定より早ければ、連絡を入れるはず。
手元にあるスマホを確認する。
「え……」
俺は画面を見て、思わず声を出した。
父さんからの連絡はない。
その代わり、ある人物から無数の不在着信があった。
なんで……
再び玄関の人影に目を向ける。
段々と目が慣れてきたからか、ぼやけていた視界が鮮明になる。
ドアの向こうで小さくうずくまり、寄りかかっている人物。
その姿を認めると、俺は反射的に駆け出していた。
鍵を開け、ドアを開ける。
「……え?」
開けた先には、電話をしてきた相手、安藤がいた。
突然の出来事に、声を上げて動揺している。
それを気にする余裕のなかった俺は、勢いのまま彼女に問う。
「お前、何やってんだよ!」
「何って……」
「こんな時間に外にいたら危ないだろ!」
「そうだけど……」
煮えぎらない態度の安藤。
その態度に苛立ちを隠せずにいたが、顔を上げた途端に俺は焦る。
近所の家から人が出て来た。
「……とにかく上がれよ」
有無を言わさずに、安藤を家に招き入れる。
彼女は何か言いたげだったが、頷いて俺の言葉に従ってくれた。
扉を閉めて玄関に入れる。
「お前、何で家の前にいたんだよ?」
少し冷静になった俺は諭すように聞く。
ただの雑談で来訪するような関係ではない。
このタイミングで来る理由、嫌な予感がした。
「……暗いね」
「え?」
安藤の口から出た突拍子な感想。
身構えていた俺には適切な持ち合わせがなかった。
「廊下しか電気がついてない。どこかに出かけてたの?」
「……そう、出かけてた。今日学校だしさ」
俺は噓をつく。
この時間はいつも部活をしている。
明日から部活動停止期間に入るが、それを安藤が知っているはずがない。
彼女には悪いけど、それを利用させてもらう。
「……嘘つき」
「え?」
でも、その思いとは裏腹に、安藤は突き飛ばすような言葉を発した。
「学校休んだんでしょ? 体調悪いのに学校に行けるはずないし」
「いや、嘘じゃないって___」
「じゃあ何で電話に出ないの?」
「それは……」
画面に映っていた無数の不在着信、それは俺が寝ている間に記録されていた。
急な用事でも、夜遅い時間帯でも、俺は安藤との電話を無下にしたことは無い。
「あとね、私知ってるの、祐介君が学校を休んだこと。今日学校に用事があったから」
「え……?」
「体調不良で休んだことないんでしょ? 普段なら無理してでも登校するんでしょ? だったら、どうして休んだの?」
安藤はそこまで言うと、じっと俺の顔を見つめてきた。
「……」
俺が事実を話してしまえば、安藤は納得してくれるだろうか。
お姉さんの言う通り、俺が安藤と関わったことで不具合が起きている。
そんなはずはないのだと何度も考えた。
もし迷惑ならば、あの日安藤にした提案に乗ってくることは無いだろう。
そう思っていないから、安藤は友達関係を結ぶことを了承してくれた。
だから、そんなはずはない。
けど、お姉さんの言葉は、俺の胸の奥に刺さるように溶け込んで来た。
彼女の事を長く知る人物が直々に伝えに来たのだ。
その意味を理解出来ない自分ではない。
……
言葉で伝えようと、俺は息を吸う。
でも、痛いほどに伝わる動悸がそれを許さない。
それを言葉にしてしまったら、全てが終わってしまうんじゃないか?
これまでずっと楽しいことをしてきた。
初めて会った時から、学校で初めて話した時、自宅に安藤が来た時、駅前のカラオケで作戦会議をしたとき、二人でデート紛いの事をした時、駅からの帰り道を二人で歩いた時。
僅かな時だったが、甘く濃密な時間、そんな思い出がこれから先も続くと思っていた。
でも、今この瞬間、そんな思い出に終わりが訪れようとしている。
結局のところ、俺が一人勝手に楽しんでいただけで、安藤からすれば迷惑でしかないのだ。
だってそうだろう?
初めから安藤は自分のキャリアのために努力を続けていた。
二人で会っていた最中でも、考えていたことは自分の仕事のみ。
偶然俺たちは出会っただけで、本来は雲の上の存在、隣に立つことさえおこがましい。
俺との関係は、彼女にとって汚点だ。
錆びた部品を愛でることは本来必要のないことなのだ。
それが分かっていて、どうしてしがみつこうとするのか。
ただの足枷でしかないのに……
俺は喉奥に突っかかっていた言葉を吐き捨てるように言った。
「……大したことじゃないんだよ、ちょっと学校をさぼりたいなって思っただけ。ちょっと勉強が嫌になってさ、たまにはさぼってもいいかなって。」
言葉を重ねる度に胸が締め付けられる。
俺は学校をさぼりたくないし、勉強だって大事なのも理解してる。
不真面目な生徒を演じ、安藤が俺と距離を置いてくれたら、ただそれだけでいい。
常に全力で前を進む安藤、その隣にいる人物がそんな人間でいいはずがない。
「みんな受験がどうとか部活がどうとか言ってさ、真面目過ぎるんだよ。ちょっとくらいさぼっても問題ないんだから」
幻滅するだろうか。
安藤の事だ、俺のこんな一面を知れば、近寄りがたいと思うだろう。
本気で取り組んでいる自分、その隣で遊び惚けている人間。
安藤はそんな人間を近くに置こうとは思わない。
「だから安藤も俺に構ってないで、さっさと帰った方がいいよ。もう外も暗くなって______」
……え
俺は安藤を帰そうとした。
安藤が暗がりを怖がっていることは知っていたから。
それに、さりげなくこの場を収めることが出来ると思ったから。
そう思っていた。
でも、窓の外を確認しようと視線を向けた時、安藤はこちらをまっすぐ見ていた。
寸分違わずに視線を向ける安藤。
その目を見ただけで、俺は次に言おうとした言葉を噤む。
何も言えなくなってしまった。
「ふざけないでよ」
「……」
突然放たれたその言葉に俺は動揺した。
「何で嘘ばっかりつくの? そんなに自分自身を蔑んでも楽しくないでしょ?」
「う、嘘じゃないよ」
「……じゃあ何で泣いてるの?」
「……?」
指先で自身の顔を愛でる。
人差し指には一粒の涙がついていた。
「何で本当のことを言ってくれないの? そんなに私の事が信用できない?」
安藤は俺の目を見つめる。
視線から逃れようとしたが、真剣な彼女の目を見ると、そんなことは出来なくなっていた。
「お姉ちゃんと会った時に何か言われたんでしょ?」
「なんでそれを……!」
「知らないと思った? 知ってるよ、お姉ちゃんと会ったことも、学校を休んだことも、全部」
「……」
「でも、一つだけ分からない。何で私に本当のことを言ってくれないの? 私の事がそんなに信用できない?」
「違う、そうじゃなくって……」
お前のせいじゃない。
それを言えればどんなに楽か。
でも、それを言ってしまえば、安藤に片隅を担ってもらうことになる。
本来不要な重圧を彼女に担ってもらうんだ。
俺なんかのために貴重な労力を割いてはいけないはずだ。
「……」
俺はその先に続く言葉を押し止めた。
これ以上、先に進むことは出来ない。
だから、これでいい……
「心配したんだから……」
「……え」
目の前の光景に思わず驚嘆を吐露してしまった。
まっすぐ俺を見ていた安藤が、目を潤わせていた。
頬を伝う涙が一線を描きながら零れていく。
それはとても綺麗で、心に棘が刺さるような思いに駆られた。
「お姉ちゃんがあんたと会ったって話を聞いた時からずっと不安だった……。私ともう会わないように言われたんでしょ? すぐに電話をすれば良かったけど、あんたの事だから、私の事を心配させないように嘘をつくと思ったから、直接会おうって思った……」
「……」
「でも、インターフォンを押しても出ないし、電話しても出ないし、何かあったんじゃないかって思うと怖くなって……」
「安藤……」
「家で倒れてるかもと思ったから救急車を呼ぼうとしたけど、本当に出かけてたら迷惑になるし、それで嫌われたらって思ったらもう私、どうすればいいか分かんなくって……!」
「それで玄関に座っていたのか……」
なぜ今日に限って訪問したのか、俺はずっと確信が持てなかった。
でも今日に限ってではなかった。
今日だからこそ、安藤は来てくれたんだ。
「私のせいであんたが酷い目に合うなんて、私には耐えられない……!」
吐き捨てるように心の内を晒す安藤。
視線を逸らし、肩を震わせながら手で涙を拭う。
でも抑えが利かないのか、感情が止めどなく溢れ出る。
俺はその姿から目を逸らせなかった。
……
俺は何をしていたんだ。
お姉さんが関係を切るように言ったから。
安藤のキャリアのために自らを犠牲にしてほしくないから。
安藤の人生を無駄にしてほしくないから。
そんな免罪符の元、俺は嘘をつき続けた。
それが安藤にとって良い選択になると信じて。
でも、それなら何で、どうして、安藤は泣いているんだよ。
この姿を見て、まだ自分が正しいと思えるだろうか。
安藤のためを思って、そんな正義を掲げているだけで結局のところ本当に大切なことが見えていなかった。
本当に見なければいけない部分を、俺は見ないようにしていたんだ……
「……ごめん」
俺は押し止めていた思いを吐露する。
一度言葉にしてしまうと、決壊したように溢れてくる。
「安藤に迷惑をかけたくなかった。これからオーディションも始まるし、俺のことを考える時間が勿体無いと思った。それだけはしちゃいけないって思ったんだ……」
「私、迷惑だなんて一度も……」
「お前がそう思っていても、俺自身がそう思わないんだよ」
もう抑えることは出来なかった。
積もりに積もった感情が押し寄せる。
「お前の努力はすごいよ。この一か月近くで見ていたから分かる。妥協もせずに夢に向かって突き進んで、周りの目も弁えずに貪欲に目の前を向いている。俺とは真逆の人間だ」
「……」
「でも俺はそんな出来た人間じゃない。夢を持たずに日々を過ごして、周りの目を気にして一人落ち込んで、でも今の現状に満足している。俺は空・っ・ぽ・な人間なんだよ」
昔からそうだ。
父子家庭だと思われるのが嫌で、小学生の時は誰とも関わりを結ぼうともしなかった。
親しくなれば、そういった深い部分を根掘り葉掘り聞かれると思ったから。
家庭の事情はそれぞれだ。
周りの人間全てが等しく生きているわけじゃない。
表面上は隠していても、一人抱え込んでいるものの大きさは別々だ。
だから、それを暴かれるのが嫌だった。
離婚届けに判を押す両親、それを偶然見てしまった瞬間から、俺は全てが分からなくなってしまった。
親しい人間でもいつか裏切る時が来るのだと。
深く知ってしまえば、その代償は計り知れない。
ならば最初から隠してしまえばいい、知らなければいい、動かなければいい。
強く望んでしまえば、自分が辛くなるだけなのだから。
「何もない人間なんだよ。他人と関わるのが怖い。矛盾ばっかり抱えて何も行動で示さない。逃げてばっかりなんだよ、俺って奴は」
コンプレックスだった。
何もしていない自分が、努力している人間の隣にいてもいいのか。
初めて会った時から安藤は変わらずに夢を追い続けている。
変わりゆく未来に臆することなく、自らを誇示し続けている。
一方の俺は、怠惰に日々を貪り続けている。
挑戦もしない、ただ不変を求める日常。
そんな人生は、果てしなくも安寧であり、そして退屈であろう。
安藤のいる世界と、俺のいる世界は別なんだ。
別人、他人、向こう側の人間。
そんな考えが染みついている。
そんな人と関わることは、安藤に対してあまりにも失礼だ。
「逃げてばっかりで、後ろしか見ない。お前とは真逆の人間だよ。お前といると、自分が如何に無能かって思い知る。苦しくなるんだよ……!」
俺は全てを吐き捨てた。
建前も余裕もない、ただの心の内。
もう相手の目を見ることは出来なかった。
何を言われるのか、それだけを考えて身構える。
今の俺は醜く、無様だろう。
こんな醜態をさらして、安藤は軽蔑するだろう。
次第に震えを思い出した手足を抑えながら、俺は俯いていた。
「……そんな理由だったんだ」
顔を見れない。
安藤の声は低く、俺に深くのしかかって来た。
一秒一秒が長く感じる。
喉が枯れるが、唾を飲み込む余裕も無い。
何を言われるのか、それしか考えられなかった。
「……」
息を吐く音。
安藤が声を出そうとしている。
だから俺は目を瞑る。
怯えた小鹿のように思われるだろうか。
それでも、俺はもう取り繕うことはできなかった。
「じゃあ何で、何で友達になろうと思ったの?」
安藤は再び俺を見て、そう口にした。
「一緒にいて苦しくなるなら、私と関わらない方がいい。でも、あんたは関わりを保とうとした。無理やりにでも絶つことは出来たのに。それはどうして?」
「それは……」
安藤の質問に俺は答えることが出来なかった。
その動揺を見透かすように、安藤は続ける。
「元々私の事が原因で始まった関係だから、私が言える立場じゃないけど。でも、あんたは私と一緒に色んなことをしてくれた。それはどうしてなの?」
「どうして……」
「全部、私のため?」
安藤のため、それは確かにそうだ。
小説の登場人物の解釈、二人で遊んだこと。
安藤が送りたかったであろう青春、その助けになれたらと思った。
「でもさ、私はそんな関係を望んでいない。そんな一方的な、片割れのための関係なんて。それを分かってくれてると思ってたんだけどなあ?」
安藤は視線を別の場所に移す。
その先を追うと、彼女の手の中にはポーチがあった。
その後ろには、ぶら下がるようにして付いているアクセサリーがある。
犬の形をしたアンティーク調のアクセサリー、以前俺たちが購入したものだ。
「もっとシンプルな関係になろう、あの時のあんたの言葉は嘘だったの?」
「……違う」
あの時の俺はちゃんと分かっていた。
対等になるってことは、互いの悩みを聞き、話し合って、解決する、そんな関係だ。
相手を受け入れて、自分も受け入れてもらう。
なのに俺は、そんな当たり前のことを忘れてしまっていた。
勝手に落ち込んで、一方的に逃げて、自分が最も嫌うことをやっていたのだ。
それが嫌だったから、俺は前を向こうと決めたのに。
「あんたが対等になろうって言ったのに、そのあんたが対等にならないでどうするの? 私の事、そんなに信用できない?」
「違うんだよ」
初めは信用できなかった。
脅し文句を使って脅迫してきた時、その感情はピークに達した。
初めて会った時は不本意ながらに可愛いと思ってしまったのに。
でも、関わりが増えていく中で、安藤の事を知っていく中で、そんな嫌悪感は無くなっていった。
媒介しない、ありのままの彼女に、俺は惹かれていったんだ。
尊敬できる人物、その人物に敬意を払うのは当たり前だ。
「自分に自信がない、安藤と同じ道を進む勇気が俺には無いんだ。逃げてばっかりの自分が対等になれるとは思えないんだよ……!」
「じゃあ、また逃げるの? このまま、楽な方に行って、また後悔するの? 私の事を裏切って、それで満足できるの?
俺が裏切る? 安藤を?
「裏切るなんてそんな______」
「そうじゃない? 私はあんたの事信じてたのに、それを無下にされたら私はどうなるの?」
安藤が俺を信頼してくれている。
なのに、それを裏切る。
それは、俺がされたことと同じ行為。
信じていた人がいなくなってしまう、その事実が俺の人生を変えてしまった。
その傍らに、俺が加担してしまうのか。
……
いや、それだけはしてはいけない。
そんな残酷な行為を、俺が、俺だけはしては駄目なんだ。
「私の信頼を無駄にしてほしくないんだけど?」
安藤が俺を受け入れてくれる。
俺の無様で、卑屈で、弱い部分。
それを知ってもなお、彼女は手を差し伸べてくれる。
「安藤……」
俺は彼女の目を見た。
曇りのない、純粋な瞳で見つめられる。
この瞳を見るたびに、俺は胸を締め付けられる思いに駆られる。
夢を持って前に進む、俺とは別の世界の住人。
そんな人間と俺が関わってはいけない、その思いに責め立てられる。
だから、今までの自分だったら、そんな関わりを隔てようとしていたと思う。
でも、もう知ってしまった。
安藤の思い、そして俺の本心。
交わってはいけない、関わってはいけない。
でも、そんなものは幻想だ。
自分の中でしか、そんな考えは生まれない。
安藤が実際にそう思ったのだろうか、安藤がそう言ったのか。
違う。
俺の卑屈な部分が、俺の大嫌いなもう一人の自分がそう言っているだけなんだ。
この呪縛に従っても、俺の未来は暗いままだ。
……
もう十分だろう、良い子のふりをするのは。
だって、これ以上を望むのは他の誰でもない、俺自身なのだから______
「吹っ切れた?」
安藤は笑顔でそう言ってきた。
目元を伝っていた涙の跡が色濃く強調されている。
それでも、彼女の笑顔は綺麗だった。
「ああ、もう迷わないよ」
救われた、そんな気分だ。
ずっとまとわりついていた淀みが祓われていくようだった。
嘘のように身体が軽い。
もう、俺は戻れないところに来てしまったらしい。
「顔、酷いことになってるね」
「安藤こそ」
でも、後悔はない。
取り返しのつかない選択を誤らなかった、その事実があるから。
……あ
先ほど見ていた夢を思い出す。
消し難い悪夢、そう思っていた。
でも、本当はそんな結末じゃない。
あの夢には続きがある。
一人で公園のブランコに乗っていると、声をかけられるんだ。
声をした先を向くと、一人の女の子が立っている。
差し込む夕日に当てられて、口元に笑みを浮かべながら、その女の子は呟く。
あなたも一人なの?
不思議な少女に話しかけられて、俺は頷く。
それがきっかけで俺と女の子が仲良くなる、そんな物語を______
「……どうしたの?」
安藤に話しかけられて、俺は現実に帰って来る。
頬を上げて、上目遣いをしていた。
……
いや、今はやめておこう。
そんな昔の事を懐かしむ時間ではない。
「いや、何でもない」
何気ない返事をして、俺は安藤に向き合った。
安藤も深く追及するつもりはないらしい。
「もう暗いから、近くまで送るよ」
俺はそう言うと、玄関に向かった。
「え? 体調悪いんじゃないの?」
「もう、大丈夫。それにさ、まだ話してなかっただろ、安藤のお姉さんとの会話」
「そう、それが聞きたかったの。お姉ちゃんが余計なことしたから、こんなことになったんだし」
「じゃあ、歩きながら話そう。気分転換にもなるし」
そこまで言って、俺は靴を履く。
続けて靴を履いた安藤を先導するように、俺は扉を開けた。
外はすっかり暗くなり、涼しい風が時折吹く。
とても心地良い。
外に出て来た安藤と共に、俺たちは前に進む。
「こっちだよな?」
「そう、左」
指示された方に向かって歩き出す。
何度か歩いた道を、今日は二人で歩く。
いつもよりも足取りが軽く感じた。
「……」
今の自分はどう見えているのだろうか。
涙を流し、心の内を晒して、随分と哀れな姿なのだろうか。
でも、それでも構わないと思った。
誰にどう思われようが関係ない。
だって、目の前の彼女は、笑っているのだから。
だから、俺は安藤の隣を歩いていられる。
金縛りから解放されたように椅子から立ち上がり、皆がそれぞれの放課後の予定を執り行っていた。
「……」
しかし、騒ぎ出す級友達に目もくれず、俺は一人で教室を出る。
視線を感じるが、俺は気にしないようにしていた。
振り向けばいいことが起こるのだろうか、そんな淡い期待をする自分はもういない。
俺は一人で別の場所に向かう。
長く続く一本道を抜けて、暗く細い路地を進む。
日が落ちると建物の陰に入ってしまい、視界が暗くなるのだ。
さらに時折聞こえる烏の鳴き声が、その不気味さを助長させている。
恐怖を振り払い、俺はさらに奥に進む。
段々と視界が開けてくると、目の前に目的地がある。
「着いた」
たどり着いた先は、古びた団地のある一角に置かれた公園。
塗装が剥げ、表面の錆びが露わになったポール。
風に揺られてギシギシと音を立てるブランコ。
時代のあおりを受けて廃れてしまった今の団地を象徴しているかのようだった。
その地に足を踏み入れる。
地面にはわずかな砂が現存しており、コンクリートがむき出しになっていた。
地面を蹴るように進み、奥に設置されたブランコに着く。
そして、ランドセルを地面に投げてブランコに座ると、俺は一人漕ぎだす。
今にも千切れそうなほどに不安定な状態。
それに構わずに加速させていく。
「______」
この瞬間だけは無心になれる。
何も考えずにただ漕いでいればいい。
しかし、次第に疲れが見えてくると、振り子が弱まっていく。
必死にもがくが、それをあざ笑うかのように振りは弱まり、最後は足を着いてしまった。
「はあ……はあ……」
呼吸を乱し、必死になって頭に酸素を取り込む。
だけど、取り込まれた酸素は、思考を鮮明にしてしまう。
クリアになった脳内には、考えたくもなかった思い出が映ってしまう。
「やめてよ……」
内から言葉が溢れる。
一度こぼれてしまうと、決壊したように次から次へと出てくる。
これ以上自分を律することはもう出来なかった。
家に帰れば、俺にはつらい現実が待っている。
大好きだった人、今までも、これからも、ずっと一緒だと思っていた。
抱きしめられた感触も今でも鮮明に覚えている。
冷たい手で頬に触れられる。
冷たい、俺がそう言うと、あの人は照れながら笑ってくれる。
それを見ると、自分が笑顔にしたんだという思いが溢れる。
笑ってくれる、その事実がただただ嬉しかった。
嬉しかったはずなのに……
ーーー
閉め切ったカーテンの隙間から光が差し込んでくる。
その射光に釣られて、目を覚ましてしまった。
ちらりと時計を見る。
時刻は五時を指しており、かなり寝込んでいたことが分かる。
「……」
嫌な夢を見た。
幼少期の自分が一人で遊んでいる夢。
いや、あれは遊んでいたのだろうか。
とても心地いい夢とは言い難い。
だからだろうか、すぐに身体を起こそうという気にはなれなかった。
布団が心地良い。
包まっていると安らかな気持ちになる。
……
家に帰ってきてから身体がだるい。
都内から自宅に戻り助手席から降り立つと、すぐに自らの異変に気がついた。
小刻みに手が震え、動悸が激しくなる。
呼吸は乱れ、視界が揺らいだ。
それでも、不審に思う父さんに悟られないよう、俺は何とかして平然を装った。
玄関でも、夕飯でも、家事をする時も、俺は自分を騙し続けた。
だけど、俺はそこまで強くない。
化かし続けた俺は、部屋に戻るとすぐに倒れ込んでしまった。
安息の場所に足を踏み入れたからだろうか、緊張の糸が切れてしまった。
すぐに身体を起こそうとしたが、俺の身体は俺の言う事を一切聞いてくれない。
立ち上がることすら出来ない、初めての経験。
俺は畏怖した。
その恐怖心を認めた途端に全身が震える。
伝播する痙攣、絞り出すことすら出来ない声。
もう自分を騙し続けることは出来なかった。
結局今日の授業は休むことにした。
朝になると症状が和らいだが、部屋から出るまでは出来なかった。
父さんに心配されたが、熱も出ていなかったので問題ないとだけ伝えた。
父さんにだけは心配されたくなかった。
「……初めて休んだな」
誰もいない部屋で、一人ぼそっと呟く。
今まで学校を休んだことは無かった。
無遅刻無欠席を維持していたため、その記録が途切れてしまう。
でも、そんなものを意識したことは無かった。
ただ、父さんに心配してほしくなったから、それが理由だった。
心配され、憐みの目を向けられる、それが嫌だった。
それを向けられるたび、どうしても目の前の父さんよりも、いなくなってしまったあの人が脳裏に浮かぶ。
あの人を思い出すから、俺は風邪をひいた時でも無理して学校に行った。
……
でも、今日はそれを考える余裕さえ無い。
実際に母さんに会ったからだろうか。
確かにそれもあるだろう。
しかし、それ以上に自分に向けられた憎悪の眼差しが最もな原因だ。
安藤の姉を名乗る人物、新藤理沙から直接発せられた言葉。
自分がいない方が物事が円滑に進む、それに気づかされてしまった。
自分の存在が余計な関係性を生み出している。
自分がいなければ、父さんは心置きなく母さんと接することが出来る。
自分がいなければ、安藤が困ることもない。
自分がいなければ……
「______」
俺は顔を枕に埋める。
こんな事ばっか考えてしまう自分が嫌いになる。
もうこれ以上、自分を嫌いになりたくなかったのに。
昨日から思考が悪循環して頭から離れない。
良くないと分かっていても、止めることは出来なかった。
突きつけられた事実が、心を蝕む。
「……」
でも、このままではいけないのもまた事実だった。
気分転換をするため、俺は無理やり布団を投げて部屋から出る。
閉め切っていた部屋を開けると、どんよりとした空気が薄れていくのを感じる。
階段をゆっくりと降りる。
しかし、ずっと寝込んでいたからか、一階に辿り着くと足が縺れた。
「……!」
一瞬冷や汗をかいたが、階段の手すりを掴んでいたため、事なきを得た。
すぐに立とうと思ったが、足に力が入らない。
そのまま階段の段差を椅子代わりにして座った。
「何やってんだ、俺」
誰もいない空間、俺の声がいつもより響く。
こだまする自分の声は塵となって消えていった。
やることが全て空回りしている気分になる。
ただ辛い。
だったら、もう動かなくてもいいじゃないか。
動かなければ、これ以上悪い方へと進む必要もない。
変わろうともがく必要もない。
俺は下を向いた。
まるで目の前の事実から目を逸らすように。
……
差し込んでいた夕日は雲に隠れてしまったのか、その姿を消してしまった。
明かりをつけていない廊下は、視界を遮るように薄暗い。
自分の影は、もう見えなくなってしまう。
ただ、リビングから時計の針が動く音が聞こえてくるだけだ。
でも、その音も次第に溶けてなくなっていく。
何もかもが消えていく。
それから先の記憶はない。
ただ時間が過ぎていくのを傍観していたと思う。
朦朧としていた意識がはっきりし始めた頃、俺は今の時刻を確認する。
既に廊下は暗闇に包まれており、手探りで明かりをつける。
壁に取り付けられた電源を入れると、目が眩んだ。
暗闇に慣れた目に温もりのある光は合わない。
目を細め、逃げるようにしてリビングに行こうとした。
「……え?」
自分の目を疑った。
何気なく目をやった玄関。
誰かの気配を感じたわけでもない。
でも、ドアの向こうに人影があった。
……
一瞬、父さんが帰って来たのかと思った。
たまに帰って来る時間が早いことがある。
でも、それは今日ではない。
仕事始めの月曜に早く帰って来ることは稀だ。
それに、予定より早ければ、連絡を入れるはず。
手元にあるスマホを確認する。
「え……」
俺は画面を見て、思わず声を出した。
父さんからの連絡はない。
その代わり、ある人物から無数の不在着信があった。
なんで……
再び玄関の人影に目を向ける。
段々と目が慣れてきたからか、ぼやけていた視界が鮮明になる。
ドアの向こうで小さくうずくまり、寄りかかっている人物。
その姿を認めると、俺は反射的に駆け出していた。
鍵を開け、ドアを開ける。
「……え?」
開けた先には、電話をしてきた相手、安藤がいた。
突然の出来事に、声を上げて動揺している。
それを気にする余裕のなかった俺は、勢いのまま彼女に問う。
「お前、何やってんだよ!」
「何って……」
「こんな時間に外にいたら危ないだろ!」
「そうだけど……」
煮えぎらない態度の安藤。
その態度に苛立ちを隠せずにいたが、顔を上げた途端に俺は焦る。
近所の家から人が出て来た。
「……とにかく上がれよ」
有無を言わさずに、安藤を家に招き入れる。
彼女は何か言いたげだったが、頷いて俺の言葉に従ってくれた。
扉を閉めて玄関に入れる。
「お前、何で家の前にいたんだよ?」
少し冷静になった俺は諭すように聞く。
ただの雑談で来訪するような関係ではない。
このタイミングで来る理由、嫌な予感がした。
「……暗いね」
「え?」
安藤の口から出た突拍子な感想。
身構えていた俺には適切な持ち合わせがなかった。
「廊下しか電気がついてない。どこかに出かけてたの?」
「……そう、出かけてた。今日学校だしさ」
俺は噓をつく。
この時間はいつも部活をしている。
明日から部活動停止期間に入るが、それを安藤が知っているはずがない。
彼女には悪いけど、それを利用させてもらう。
「……嘘つき」
「え?」
でも、その思いとは裏腹に、安藤は突き飛ばすような言葉を発した。
「学校休んだんでしょ? 体調悪いのに学校に行けるはずないし」
「いや、嘘じゃないって___」
「じゃあ何で電話に出ないの?」
「それは……」
画面に映っていた無数の不在着信、それは俺が寝ている間に記録されていた。
急な用事でも、夜遅い時間帯でも、俺は安藤との電話を無下にしたことは無い。
「あとね、私知ってるの、祐介君が学校を休んだこと。今日学校に用事があったから」
「え……?」
「体調不良で休んだことないんでしょ? 普段なら無理してでも登校するんでしょ? だったら、どうして休んだの?」
安藤はそこまで言うと、じっと俺の顔を見つめてきた。
「……」
俺が事実を話してしまえば、安藤は納得してくれるだろうか。
お姉さんの言う通り、俺が安藤と関わったことで不具合が起きている。
そんなはずはないのだと何度も考えた。
もし迷惑ならば、あの日安藤にした提案に乗ってくることは無いだろう。
そう思っていないから、安藤は友達関係を結ぶことを了承してくれた。
だから、そんなはずはない。
けど、お姉さんの言葉は、俺の胸の奥に刺さるように溶け込んで来た。
彼女の事を長く知る人物が直々に伝えに来たのだ。
その意味を理解出来ない自分ではない。
……
言葉で伝えようと、俺は息を吸う。
でも、痛いほどに伝わる動悸がそれを許さない。
それを言葉にしてしまったら、全てが終わってしまうんじゃないか?
これまでずっと楽しいことをしてきた。
初めて会った時から、学校で初めて話した時、自宅に安藤が来た時、駅前のカラオケで作戦会議をしたとき、二人でデート紛いの事をした時、駅からの帰り道を二人で歩いた時。
僅かな時だったが、甘く濃密な時間、そんな思い出がこれから先も続くと思っていた。
でも、今この瞬間、そんな思い出に終わりが訪れようとしている。
結局のところ、俺が一人勝手に楽しんでいただけで、安藤からすれば迷惑でしかないのだ。
だってそうだろう?
初めから安藤は自分のキャリアのために努力を続けていた。
二人で会っていた最中でも、考えていたことは自分の仕事のみ。
偶然俺たちは出会っただけで、本来は雲の上の存在、隣に立つことさえおこがましい。
俺との関係は、彼女にとって汚点だ。
錆びた部品を愛でることは本来必要のないことなのだ。
それが分かっていて、どうしてしがみつこうとするのか。
ただの足枷でしかないのに……
俺は喉奥に突っかかっていた言葉を吐き捨てるように言った。
「……大したことじゃないんだよ、ちょっと学校をさぼりたいなって思っただけ。ちょっと勉強が嫌になってさ、たまにはさぼってもいいかなって。」
言葉を重ねる度に胸が締め付けられる。
俺は学校をさぼりたくないし、勉強だって大事なのも理解してる。
不真面目な生徒を演じ、安藤が俺と距離を置いてくれたら、ただそれだけでいい。
常に全力で前を進む安藤、その隣にいる人物がそんな人間でいいはずがない。
「みんな受験がどうとか部活がどうとか言ってさ、真面目過ぎるんだよ。ちょっとくらいさぼっても問題ないんだから」
幻滅するだろうか。
安藤の事だ、俺のこんな一面を知れば、近寄りがたいと思うだろう。
本気で取り組んでいる自分、その隣で遊び惚けている人間。
安藤はそんな人間を近くに置こうとは思わない。
「だから安藤も俺に構ってないで、さっさと帰った方がいいよ。もう外も暗くなって______」
……え
俺は安藤を帰そうとした。
安藤が暗がりを怖がっていることは知っていたから。
それに、さりげなくこの場を収めることが出来ると思ったから。
そう思っていた。
でも、窓の外を確認しようと視線を向けた時、安藤はこちらをまっすぐ見ていた。
寸分違わずに視線を向ける安藤。
その目を見ただけで、俺は次に言おうとした言葉を噤む。
何も言えなくなってしまった。
「ふざけないでよ」
「……」
突然放たれたその言葉に俺は動揺した。
「何で嘘ばっかりつくの? そんなに自分自身を蔑んでも楽しくないでしょ?」
「う、嘘じゃないよ」
「……じゃあ何で泣いてるの?」
「……?」
指先で自身の顔を愛でる。
人差し指には一粒の涙がついていた。
「何で本当のことを言ってくれないの? そんなに私の事が信用できない?」
安藤は俺の目を見つめる。
視線から逃れようとしたが、真剣な彼女の目を見ると、そんなことは出来なくなっていた。
「お姉ちゃんと会った時に何か言われたんでしょ?」
「なんでそれを……!」
「知らないと思った? 知ってるよ、お姉ちゃんと会ったことも、学校を休んだことも、全部」
「……」
「でも、一つだけ分からない。何で私に本当のことを言ってくれないの? 私の事がそんなに信用できない?」
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お前のせいじゃない。
それを言えればどんなに楽か。
でも、それを言ってしまえば、安藤に片隅を担ってもらうことになる。
本来不要な重圧を彼女に担ってもらうんだ。
俺なんかのために貴重な労力を割いてはいけないはずだ。
「……」
俺はその先に続く言葉を押し止めた。
これ以上、先に進むことは出来ない。
だから、これでいい……
「心配したんだから……」
「……え」
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……
俺は何をしていたんだ。
お姉さんが関係を切るように言ったから。
安藤のキャリアのために自らを犠牲にしてほしくないから。
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「……」
「でも俺はそんな出来た人間じゃない。夢を持たずに日々を過ごして、周りの目を気にして一人落ち込んで、でも今の現状に満足している。俺は空・っ・ぽ・な人間なんだよ」
昔からそうだ。
父子家庭だと思われるのが嫌で、小学生の時は誰とも関わりを結ぼうともしなかった。
親しくなれば、そういった深い部分を根掘り葉掘り聞かれると思ったから。
家庭の事情はそれぞれだ。
周りの人間全てが等しく生きているわけじゃない。
表面上は隠していても、一人抱え込んでいるものの大きさは別々だ。
だから、それを暴かれるのが嫌だった。
離婚届けに判を押す両親、それを偶然見てしまった瞬間から、俺は全てが分からなくなってしまった。
親しい人間でもいつか裏切る時が来るのだと。
深く知ってしまえば、その代償は計り知れない。
ならば最初から隠してしまえばいい、知らなければいい、動かなければいい。
強く望んでしまえば、自分が辛くなるだけなのだから。
「何もない人間なんだよ。他人と関わるのが怖い。矛盾ばっかり抱えて何も行動で示さない。逃げてばっかりなんだよ、俺って奴は」
コンプレックスだった。
何もしていない自分が、努力している人間の隣にいてもいいのか。
初めて会った時から安藤は変わらずに夢を追い続けている。
変わりゆく未来に臆することなく、自らを誇示し続けている。
一方の俺は、怠惰に日々を貪り続けている。
挑戦もしない、ただ不変を求める日常。
そんな人生は、果てしなくも安寧であり、そして退屈であろう。
安藤のいる世界と、俺のいる世界は別なんだ。
別人、他人、向こう側の人間。
そんな考えが染みついている。
そんな人と関わることは、安藤に対してあまりにも失礼だ。
「逃げてばっかりで、後ろしか見ない。お前とは真逆の人間だよ。お前といると、自分が如何に無能かって思い知る。苦しくなるんだよ……!」
俺は全てを吐き捨てた。
建前も余裕もない、ただの心の内。
もう相手の目を見ることは出来なかった。
何を言われるのか、それだけを考えて身構える。
今の俺は醜く、無様だろう。
こんな醜態をさらして、安藤は軽蔑するだろう。
次第に震えを思い出した手足を抑えながら、俺は俯いていた。
「……そんな理由だったんだ」
顔を見れない。
安藤の声は低く、俺に深くのしかかって来た。
一秒一秒が長く感じる。
喉が枯れるが、唾を飲み込む余裕も無い。
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「……」
息を吐く音。
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だから俺は目を瞑る。
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「じゃあ何で、何で友達になろうと思ったの?」
安藤は再び俺を見て、そう口にした。
「一緒にいて苦しくなるなら、私と関わらない方がいい。でも、あんたは関わりを保とうとした。無理やりにでも絶つことは出来たのに。それはどうして?」
「それは……」
安藤の質問に俺は答えることが出来なかった。
その動揺を見透かすように、安藤は続ける。
「元々私の事が原因で始まった関係だから、私が言える立場じゃないけど。でも、あんたは私と一緒に色んなことをしてくれた。それはどうしてなの?」
「どうして……」
「全部、私のため?」
安藤のため、それは確かにそうだ。
小説の登場人物の解釈、二人で遊んだこと。
安藤が送りたかったであろう青春、その助けになれたらと思った。
「でもさ、私はそんな関係を望んでいない。そんな一方的な、片割れのための関係なんて。それを分かってくれてると思ってたんだけどなあ?」
安藤は視線を別の場所に移す。
その先を追うと、彼女の手の中にはポーチがあった。
その後ろには、ぶら下がるようにして付いているアクセサリーがある。
犬の形をしたアンティーク調のアクセサリー、以前俺たちが購入したものだ。
「もっとシンプルな関係になろう、あの時のあんたの言葉は嘘だったの?」
「……違う」
あの時の俺はちゃんと分かっていた。
対等になるってことは、互いの悩みを聞き、話し合って、解決する、そんな関係だ。
相手を受け入れて、自分も受け入れてもらう。
なのに俺は、そんな当たり前のことを忘れてしまっていた。
勝手に落ち込んで、一方的に逃げて、自分が最も嫌うことをやっていたのだ。
それが嫌だったから、俺は前を向こうと決めたのに。
「あんたが対等になろうって言ったのに、そのあんたが対等にならないでどうするの? 私の事、そんなに信用できない?」
「違うんだよ」
初めは信用できなかった。
脅し文句を使って脅迫してきた時、その感情はピークに達した。
初めて会った時は不本意ながらに可愛いと思ってしまったのに。
でも、関わりが増えていく中で、安藤の事を知っていく中で、そんな嫌悪感は無くなっていった。
媒介しない、ありのままの彼女に、俺は惹かれていったんだ。
尊敬できる人物、その人物に敬意を払うのは当たり前だ。
「自分に自信がない、安藤と同じ道を進む勇気が俺には無いんだ。逃げてばっかりの自分が対等になれるとは思えないんだよ……!」
「じゃあ、また逃げるの? このまま、楽な方に行って、また後悔するの? 私の事を裏切って、それで満足できるの?
俺が裏切る? 安藤を?
「裏切るなんてそんな______」
「そうじゃない? 私はあんたの事信じてたのに、それを無下にされたら私はどうなるの?」
安藤が俺を信頼してくれている。
なのに、それを裏切る。
それは、俺がされたことと同じ行為。
信じていた人がいなくなってしまう、その事実が俺の人生を変えてしまった。
その傍らに、俺が加担してしまうのか。
……
いや、それだけはしてはいけない。
そんな残酷な行為を、俺が、俺だけはしては駄目なんだ。
「私の信頼を無駄にしてほしくないんだけど?」
安藤が俺を受け入れてくれる。
俺の無様で、卑屈で、弱い部分。
それを知ってもなお、彼女は手を差し伸べてくれる。
「安藤……」
俺は彼女の目を見た。
曇りのない、純粋な瞳で見つめられる。
この瞳を見るたびに、俺は胸を締め付けられる思いに駆られる。
夢を持って前に進む、俺とは別の世界の住人。
そんな人間と俺が関わってはいけない、その思いに責め立てられる。
だから、今までの自分だったら、そんな関わりを隔てようとしていたと思う。
でも、もう知ってしまった。
安藤の思い、そして俺の本心。
交わってはいけない、関わってはいけない。
でも、そんなものは幻想だ。
自分の中でしか、そんな考えは生まれない。
安藤が実際にそう思ったのだろうか、安藤がそう言ったのか。
違う。
俺の卑屈な部分が、俺の大嫌いなもう一人の自分がそう言っているだけなんだ。
この呪縛に従っても、俺の未来は暗いままだ。
……
もう十分だろう、良い子のふりをするのは。
だって、これ以上を望むのは他の誰でもない、俺自身なのだから______
「吹っ切れた?」
安藤は笑顔でそう言ってきた。
目元を伝っていた涙の跡が色濃く強調されている。
それでも、彼女の笑顔は綺麗だった。
「ああ、もう迷わないよ」
救われた、そんな気分だ。
ずっとまとわりついていた淀みが祓われていくようだった。
嘘のように身体が軽い。
もう、俺は戻れないところに来てしまったらしい。
「顔、酷いことになってるね」
「安藤こそ」
でも、後悔はない。
取り返しのつかない選択を誤らなかった、その事実があるから。
……あ
先ほど見ていた夢を思い出す。
消し難い悪夢、そう思っていた。
でも、本当はそんな結末じゃない。
あの夢には続きがある。
一人で公園のブランコに乗っていると、声をかけられるんだ。
声をした先を向くと、一人の女の子が立っている。
差し込む夕日に当てられて、口元に笑みを浮かべながら、その女の子は呟く。
あなたも一人なの?
不思議な少女に話しかけられて、俺は頷く。
それがきっかけで俺と女の子が仲良くなる、そんな物語を______
「……どうしたの?」
安藤に話しかけられて、俺は現実に帰って来る。
頬を上げて、上目遣いをしていた。
……
いや、今はやめておこう。
そんな昔の事を懐かしむ時間ではない。
「いや、何でもない」
何気ない返事をして、俺は安藤に向き合った。
安藤も深く追及するつもりはないらしい。
「もう暗いから、近くまで送るよ」
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