上 下
16 / 23
メイド長と御曹司 編

メイド長から私へ

しおりを挟む
11月が終わりを迎える。

木々から落ちた枯れ葉が地面を覆い、遠い空から月光に当てられて存在感を放つ。

既に役割を終えたはずなのに、それでも夜風に晒されて舞い散っていく姿はまるで生き晒し。

ビルがひしめくオフィス街にぽっかりと空いた公園がひとつ、その中に設置されたベンチに座る私は物思う。

厚手のコートを身に纏い、中身のないキャリーケースを大事に置き、ビル群の窓から少しずつ光が消えていくのを眺め続け、進みゆく時の流れに身を任せて。

そんな無限に思える時間をただ無駄に消費している私は果たして何をしているのだろうか。



「寒い……」



かじかむ手に息を吐いて、少しでも暖を取る。

しかし、そんな私をあざ笑うように、時折迫ってくる北風が体温を取り上げて去って行く。

余計に寒さが全身に覆いかぶさり、震えが止まらなくなる。



「…………」



辛うじて持ち合わせていたマフラーを深く被り、少しでも保温に勤しむ。

静かな公園のベンチに一人、誰もいない世界に迷い込んでしまったみたいで心細い。

次第に思い出してしまう気持ちを抑え、前向きさを保とうとしたけど、どうしても思い出してしまうのはあの出来事で。

天涯孤独の私が人生の拠り所としていた場所を捨て、こうして路頭に迷っている現状がとてつもなく愚かで。

なんだか、私が馬鹿に見えてきて、



「どうして、こうなっちゃったのかなぁ……」



咳をしても一人、とはよくいったものだと思う。

誰かに助けてほしいのに、手を差し伸べてほしいのに、誰も私を見向きせずにすれ違っていく。

誰も知らない場所に迷い込んで初めて分かる自らの愚行の数々。

同じ給仕者に私たちの関係がバレてしまったのも、そのせいであの家を出て行くことになったのも、そしてあの人の隣にいるのが怖くなったのも、全部全部私が悪いことをしたから。

今更後悔してももう遅いのに、どうして私は事が過ぎてからしか気づくことができないのだろうか。



あの人と対等になることを恐れ、こうして逃げ出してしまった私のことをもう一度好きだと言ってくれないだろう。

永遠に締め付けられる心臓が苦しそうに悶えているのに、私が許しを請うのは間違っている。

全て自業自得なのだから、私には泣く資格も持たない。

もう私が泣くことは許されないのだと、そう思っていた――――――





しかし現実は奇妙な出来事の連続。

叶わないと思っていた再会を経て、司の言葉を聞いて、もう一度だけ隣にいたいと思った。

彼の声が鼓膜を喜ばせ、彼の姿が愛おしく目に焼き付いて、いつまでも傍にいたいと思い出してしまった。



また一緒にいられる、そう思うと嬉しかった。

嬉しくて嬉しくて、でも苦しい。

どうして苦しくなるのか分からなくて、ずっと自問自答を繰り返して。

そして、ようやく分かった。



私は守られてばかりで何も成していない。

司に守ってもらうだけでは、私はいつまでも弱い私のままだ。

司の隣に居させてもらうのではなく、私が胸を張って司の隣に居られるように。

誰にも文句を言わせないように、私が私を好きでいられるように。







――――――私は久遠澄花なんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

さくらと遥香(ショートストーリー)

youmery
恋愛
「さくらと遥香」46時間TV編で両想いになり、周りには内緒で付き合い始めたさくちゃんとかっきー。 その後のメインストーリーとはあまり関係してこない、単発で読めるショートストーリー集です。 ※さくちゃん目線です。 ※さくちゃんとかっきーは周りに内緒で付き合っています。メンバーにも事務所にも秘密にしています。 ※メインストーリーの長編「さくらと遥香」を未読でも楽しめますが、46時間TV編だけでも読んでからお読みいただくことをおすすめします。 ※ショートストーリーはpixivでもほぼ同内容で公開中です。

竜の都に迷い込んだ女の子のお話

山法師
恋愛
 惑いの森に捨てられた少女アイリスは、そこで偶然出会った男、ヘイルに拾われる。アイリスは森の奥の都で生活を送るが、そこは幻の存在と言われる竜が住む都だった。加えてヘイルも竜であり、ここに人間はアイリス一人だけだという。突如始まった竜(ヘイル)と人間(アイリス)の交流は、アイリスに何をもたらすか。 〔不定期更新です〕

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...