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永久不滅のリボ払い生活 25歳無職の僕でもクレカが作れるなんて!ちょっと怖いけどこんな綺麗なお姉さんが僕を騙すはずがないよね?

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僕の名前は金銭借利留きんせんかりる、どこにでもいる普通の25歳無職だ。と言ってもただの無職ではない。

プリペイドカード裏側の番号を送信するように頼まれたこともあるし、お金が必要だから振り込んでほしいと実家のお母さんから電話で頼られたり。そう、僕はよく人から頼られるのだ。

困った人がいれば助けてあげる。その信条のため、今まで何度も人助けをしてきた。



そんな僕の最近の趣味は町に繰り出して困っている人を助けること。よし、今日もいっぱい人助けをするぞ!



「いたた……」



あ、早速目の前にお婆さんが。横断歩道の真ん中で腰を痛めて身動きがとれないみたいだ。



「お婆さん、大丈夫!?」



「すまないね……ちょっと向かいの路地に行きたいんだけど腰が痛くてね……」



「そっか、なら僕が連れてってあげるよ!」



お婆さんが抱えていた大きな風呂敷を受け取り、お婆さんと一緒に手を繋いで渡る。横断歩道なのに両方の手が塞がってるせいで手を挙げられないのが残念だ。



「あーありがとうね、お兄さんのおかげで助かったよ」



向こう側の路地に着くと、お婆さんが僕にお礼した。うん、お婆さんが喜んでくれてよかった。



「ところでこの風呂敷に入ってる壺なんだけど……お兄さんがよければ受け取ってくれるかい? これを持って家に帰るとなるとまた腰を痛めてしまうかも……あ、また腰が……!」



それは大変だ、お婆さんが腰を痛めてしまう。



「うん、僕がちゃんと持って帰るよ!」



「ああ、それは良かった。それじゃあここにあるパイプ椅子に座って。それとこれが書類とペンね」



促されるまま、路地裏に設置されていた椅子に座る。貰った紙にはびっしりと文字が書かれていた。



「ああ、そこに書いてあるもんは気にしなくていいからね。ここにサインを書けばいいだけだから」



そっか。難しくてよく分からないけど、お婆さんがそう言うなら大丈夫だ。



「って、これって金額? ねえお婆さん、この5000円って僕が払うの?」



「あーそれはね……私が一時的に預かるだけなんだよ。だからなんにも気にしなくて大丈夫だからね」



「でも僕お金ないし……。クレジットカードも止められてるから払えないよ……」



どうしよう。このままじゃお婆さんが悲しんじゃうよ……







「……そこのお兄さん、何かお困りですか?」



振り向くと、そこには凄く綺麗なお姉さんがいた。その稀代なルックスに思わず「(綺麗だ……)」と感じてしまうほど。



「少し紙を拝借しますね。ふむふむなるほど……、借利留さんは壺を買いたいけど現金もその他の支払い手段も持ち合わせていない、と」



すぐ横にお姉さんの顔が。ち、近い……



「借利留さんはこの御老母にお力添えをしたいのですよね? ならば良い方法が一つだけあります。お聞きになりたいですか?」



「え!? あるの!?」



「はい御座いますよ……私達ならすぐにクレカが作れます。ご自身への負担も実質ゼロ、さてどうしますか?」



そんな良いこと尽くしな方法があるなんて。これならお婆さんが喜んでくれる。



「うん! だったらお姉さんにお願いするよ!」



「ふふっ、かしこまりました。ではご案内しますね」



お姉さんはそう笑うと、お婆さんに会釈をして握手を交わしていた。その後、手を開いたお婆さんの目が見開いて喜んでいた。良かった、お婆さんが喜んでくれている。



「では借利留さん、こちらに」



「あ、はい……って、えぇ―――!?」



お姉さんが僕の右手を掴んできた。思わず声が出てしまう。



「(わあ……こんな綺麗なお姉さんと手を握れるなんて幸せだ……!)」



そんなふわふわとした気持ちの抱え、僕はお姉さんに連れられて路地奥の扉へと案内された。







ーーー







「では、こちらで少々お待ちください。すぐに手続きの準備を致しますね」



「うん、分かった」



ふかふかなソファに案内され、僕は部屋を見渡してみる。

入り口のドアにはスーツを着た屈強な男性、お姉さんが今いる場所の奥の方には数えきれないほどの植物。なんだか凄いところに来ちゃったな……



「借利留さん、お待たせしました。それではまずこちらを」



すぐにお姉さんが戻ってきた。髪が揺れる度にお花の匂いが広がって、なんだか緊張してきた。



「あ、あの……お姉さんの名前って?」



「名前ですか? ああ、自己紹介が遅れてしまいましたね。私、こういう者です」



そう言い、お姉さんから受け取った名刺を受け取る。



「えっと……株式会社AZUKAYの……代表さん……?」



「はい、代表を務めております、金融闇子きんゆうやみこと申します」



「へー、なんだか優しそうな名前だね。綺麗なお姉さんにはぴったりだ」



「御褒めに預かり光栄です。では気を取り直してこちらの用紙に借利留さんのお名前を」



なんか急かされている気が。もっと闇子さんとゆっくり話したいのに。



「あ、でも僕支払い能力がないからってクレジットカード作るの止められてるんだった……闇子さんどうしよう……」



そうだった。無職で収入がゼロの僕にはクレカは作れない。



闇子さんは問題ないと言ってくれたけど、本当に大丈夫なのかな……?



「……大丈夫ですよ」



闇子さんに優しい声で耳元に囁かれる。動揺したのもつかの間、するりと手が伸びたかと思うと今度は腕を組まれてしまった。



「えぇ!? ちょっと闇子さん!?」



豊満で柔らかいなにかが僕の左腕に当たっている。押し付けられているのに圧迫感のない、こんな感触初めてだ。



「借利留さん、私のことそんなに信用できませんか……?」



そして上目遣いでこちらを覗いてくる闇子さん。そんな目をされたら、僕は……



「……ううん、できるよ。闇子さんなら信じられる!」



そうだ。闇子さんは人を騙すような人には見えないじゃないか。人を疑うなんて失礼だ。



「ふふっ、良かった。それではこちらの空欄にチェックを」



「うん、ここだね」



闇子さんの言う通りに、僕はチェックリストに記入をしていく。



「ねえ、このリボルビング払いってなんなの? 一括払いとかなら聞いたことあるけど」



「リボ払いの名称ですね。具体的に説明しますと、分割払いとは異なり、ひと月にどれ程購入しても一定額支払うだけで済む方法です。毎月支払う金額を固定することで借利留さんのお財布事情にも最適なんですよ」



「うーん、難しくてよく分からないな」



「……分かりやすく嚙み砕いて言うのであれば、今回借利留さんがご購入される予定の壺、あれは5000円でしたよね?」



「うん」



「あれを5000回払いでご購入するとなると、リボ払いではひと月に借利留さんが支払う額は1円、言うなれば実質タダなんです」



「え、タダ!?」



リボ払いってすごい……! 



「この方法を知っているのは借利留さん、貴方しかいないんですよ」



「僕だけ……それってつまり僕だけが社会の抜け道を知っちゃったってこと……?」



「ようやく分かりましたか? そうです、貴方は選ばれたんですよ」



そっか、僕は選ばれたのか……!



「では、こちらにサインを。記入を終えたらすぐに手続きを始めますので」



「うん! ありがとう闇子さん!」



僕はなんて良い人と出会えたんだろう。ああ、この用紙が婚姻届だったら良かったのになぁ……



そんな想いを胸に、僕は丁寧に自身の名前を書き留めた。







ーーー







「――――――おぉいごらあッ!! さっさと開けろやぁッ!!」



「な、なんだ……!?」



ドンドンとドアを叩く音に思わず目が覚める。

でもこれは目覚めのアラームではない。飛び上がり玄関を覗き込むと、薄いドアが今にも破られそうになっていた。



「新聞かな……でも定期購読はしてないし……」



おんぼろなアパートに住むのでさえ財布が切迫しているというのに、わざわざ新聞をとる余裕なんてない。



「あの、新聞ならまた今度に……って、うわ!」



鍵を開けてその人物に面会する。すると想像通り怖そうな大柄の男性が目の前に立っていた。



「おう、借利留さん。いるならすぐに出てこないと……相手に失礼だぜ?」



はち切れんばかりの筋肉がスーツ越しでも伝わってくる。というよりも、あれ? この人って確か……



「この間、入口に立ってた人?」



「なんだ覚えてたんかい。なら話は早いな。ほら、出すもん出しな」



そう言ってその男の人は手を出してきた。何の合図だろうか。



「えっと……はい」



「お手、じゃねえよッ! 金出せっつってんだよッ!」



怒られてしまった。そうか違ったのか。



「てめえの支払い期限が過ぎてっからわざわざ足を運んだんだろうがッ!」



「支払いって一体なんの? 僕なにも買ってないのに……」



困惑しながら尋ねると、その男の人はニヤリと笑って一枚の紙を差し出してきた。



「えっと……元金に上乗せされた手数料の請求? なにこれ?」



「てめえ、この前壺買ったろ? その手数料だとよ」



手数料? え、でもあれは実質タダって……



「手数料込みで1万だ。さっさと出しな」



「え、1万円!?」



嘘だろ……!? 壺の二倍じゃないか……!?



「払えねえってんなら、ちょいとばかし付き合ってもらうぜ?」



後ろに停まっていた黒い車両からスーツ姿の男が数人現れる。呆気に取られていると、あっという間に拘束。そのままトランクに投げ入れられてしまった。



「もごごッ!?」



口にはガムテープを張られ、腕と足はロープで固く縛られている。完全に身動きが取れない。



「せいぜい最後のドライブを楽しみな」



そう言い残すと、男の人はトランクを閉めてしまった。



「(な、何が起こってるんだ……!?)」



暗闇で揺られながら、僕はいつまでも困惑し続けていた。







ーーー







「ほら、着いたぜ」



その言葉と共に開かれるトランク。一斉に光が差し込んできて眩しい。



「おっと、このままじゃマズイか」



そう言うと、今度は目隠しをされる。強く締め付けられて眼球が痛い。



「むぐぅッ!?」



「おいおい暴れんなよ。てめえを運ぶ俺の気持ちにもなってみろや」



ふわりと体重が軽くなったと思った途端、次は腹部に圧迫感が。肩に乗せられている?

太い腕に拘束されて、どこかに連れて行かれているみたいだ。



「(何なんだよ、これ……!?)」



意味が分からない。どこへ行くのかも、なにが待ち受けているのかも、なにもかも分からなかった。

だがそんな僕の不安などお構いなしに何度も扉を開き、カツカツと音を立てながら歩く人達。僕は静かに揺られていることしかできなかった。



「失礼します! 目的の男を連れてきました!」



コンコンとノックし、僕を担いでいる男が扉が開く。どうやらここが目的地らしい。



「わぷぅッ!?」



地面に転がされ、堪らず声が出る。



「ほら、張本人とのご対面だ」



叩きつけられた痛みに悶えていると、担いでいた男が目隠しと口元のガムテープを取ってくれた。



「いてて、今度はなにを……って、あれ?」



顔を見上げると、僕は思わず呆気にとられる。知らない部屋で知らない人達に囲まれていたからではない。目の前に立っている人物に見覚えがあったから。



「闇子さん……!」



その人物の名を呼ぶ。相変わらず綺麗だ。



「あら、名前を憶えてくれていたのね。嬉しいわ……ねえ借利留さん?」



「よかった……! 分からないことばかりで不安だったけど、闇子さんがいるなら安心だよ! あのさ、悪いんだけどこの縄解いてくれないかな? 結構痛くってさ……」



僕がそう言うと、闇子さんはこちらに近づいてきた。

膝を付いてこちらに手を伸ばすと、そのまま胴体を縛る紐へと―――



が、その手は止まり、僕の顔へと伸ばされた。顎をくいっと上げ、僕は彼女と目が合う。



「……ふふっ、このままで良いんじゃない? 芋虫みたいで可愛いわよ?」



「え、どうしたの闇子さん? なんだか雰囲気が……」



そう問いかけると、闇子さんは一瞬呆ける。と思いきやすぐに笑い出した。



「あはははははッ!! まだ分からないの!? ほんとに馬鹿ね、貴方!」



「? えっと……」



「貴方は騙されたのよ! 壺を売りつけられて、下らない謳い文句に誘われて、契約書にサインをして、こうして私達の養分になってくれたんだからねえ!」



騙された? え、僕が?



「ほんとなんでもかんでも馬鹿正直に信じちゃってさあ……! ここまではっきり馬鹿だと、むしろ笑えるわね!」



「闇子さん……」



「身体を見せつけただけで犬みたいに尻尾振っちゃって、なんとまあ可愛らしいことよ。憲法? 法律? そんなもの……貴方にあるわけないでしょう?」



顎肉を握られながら、さらに顔を上げさせられる。じっと睨むような目つきのまま、闇子さんは最後にこう言った。



「このまま一生、私の飼い犬にしてあげる……!」



その言葉を皮切りに、周りにいた人達がゲラゲラと笑い出す。額に手を当てながら、両手で腹を抑えながら、指を差しながら、皆が笑っていた。



「悔しいわよねぇ……? 信じてた人に裏切られて、今では人生のどん底。いや、無職なら元々底辺かしらねぇ!」



「え、じゃあ、あのお婆さんは…………」



「そんなもの演技に決まってるでしょう!? 貴方みたいな馬鹿を釣るために用意したんだからねえ!」



初めからお婆さんは困っていなかったってこと……?



「そんなことも分からなかったの? ほんとに馬鹿ね、貴方。あーもうほんと可笑しい……」



「…………」



横断歩道で止まっていたのは演技。腰痛も演技。

と言うことはつまり、全部僕の勘違いなのか。



「そっか、なら良かった……」





「……貴方、なんで笑ってんのよ?」



「だってさ、お婆さん困ってなかったんでしょ? なら安心だよ」



もしあのまま腰痛が悪化していたら、きっとあのお婆さんは帰ることができなかったと思う。別れた後がどうしても気がかりだったから安心した。



「……はぁ? なにを馬鹿なことを。一方的に騙されてたのになにが安心よ?」



「えへへ、良かったあ」



「……!?」



闇子さんは突然手を離して立ち上がった。なにかに怯えているような表情に見える。



「何なの貴方!? この状況なら普通笑わないわよ!?」



「え、そうかな? でも困ってる人がいないって良いことでしょ?」



人助けは好きだ。皆が笑顔になってくれるから。

でもそれ以上に、困っている人がいない世界の方がより楽しいに決まってる。



「僕、闇子さんにも笑っててほしい。そんな怖い顔だとせっかくの美人が台無しだよ」



「!? なにをいきなり……」



「僕が飼い犬になったら闇子さんも笑ってくれるのかな。闇子さん可愛いからずっと笑顔でいてほしいな」



「か、可愛い……? この私が……?」



一歩一歩と後退る闇子さん。それを追いかけるように、僕は芋虫のように這って近づく。



「ね、姐さんそいつから離れてくださいッ! くそッ、こいつやべぇッ! 明らかに異常者だッ!」



数人に取り押さえられる。既に紐で胴体を縛られているのに、僕は磔のように立たされてしまった。

身動きが取れない。でも、僕は意に介さなかった。

目の前に立っている闇子さんへ、僕は秘めた想いを伝える。



「闇子さん! 初めて見た時から僕は貴方に惹かれてしまいました! リボ払いなんて関係ない! 貴方と一緒にいられるなら、僕は犬でも芋虫でもなります!」



「え―――……!?」



「貴方が笑顔になれるお手伝いを僕にさせてください! お願いします!」



そう言い切った直後、再び取り押さえられて身動きを封じられてしまった。

抵抗するが、圧倒的に数的不利だった。



「姐さんッ! ようやく取り押さえましたッ! 無礼を働いたこいつはどうしますかッ!?」



「私、ヤクザの家系だから、一度も可愛いなんて言われたことなかったのに…………」



「可愛いですかッ! よし、分かりましたッ! ……って、え? 姐さん?」



闇子さんはゆっくりとこちらに近づいてきた。潤んだ瞳で見つめられ、思わず照れてしまう。



「貴方と同じように騙された人達は皆、私を恨むように泣き叫ぶわ。人生を滅茶苦茶にされたんだもの、当然のことね」



一瞬目を逸らすが、すぐに闇子さんは目を合わせた。



「なのに貴方だけは私を恨まない……。もしろ何事もなくて良かったと安堵し、それどころか私を好きだと言ってくれた……」



恥ずかしそうに身体をくねらせ、もじもじとしている闇子さん。

その仕草に感情が溢れ出しそうになる。



「そんなこと言われたら……私……私……!」



そう言い出すと同時、身体に強い衝撃が走る。すぐ目の前にいた闇子さんはもう目と鼻の先、理解が追い付く頃には既に唇を奪われていた。



「―――ッはぁ…、はぁ…!」



「や、闇子さん………」



柔らかな感触が離れてしまった。その名残惜しさに思わず彼女の名を呼んでしまう。



「……好き」



「え」



「だ、だから……その……好きだって言ったの……! 今、貴方に恋しちゃったの……! 悪い……!?」



それってつまり、両想いってことなのだろうか。



「そ、そうなんだ……嬉しいな……」



闇子さんと両想い。なんて良い響きなんだ。



「あ、あの、姐さん……ここで接吻というのは流石にちょっと……」



「ああ、うるさいッ! さっさと部屋から出てけぇッ!」



「は、はいぃッ!」



慌ただしく部屋から逃げ出すスーツの男達。この部屋には完全に二人だけだ。



「し、静かになったね……」



あまりに緊張して、皆が出て行ってしまったドアをじっと見ていた。

すると、闇子さんの両腕がするりと伸びてきた。首に手を回し、そのままハグするように顔を近づけてくる。



「ねえ、私だけを見ててよ……私が好きならもっと証明してよ……?」



ここから見ても分かるくらい赤面している闇子さん。恥ずかしいのは彼女も同じなんだ。



「……うん、分かった」



何度繰り返したか分からない目合わせ。だんだんと近づき、そして目を閉じる。

甘美な感触が全体に広がっていく。その行為を何度も重ねる。

何度目か分からないほど繰り返し、そして僕らは互いを確かめ合う。

互いを求め合い、何度も何度も確かめる。

この想いが嘘ではないことを。







ーーー







怒涛の日々からひと月が経ち、僕は再びあの場所を訪れた。初めて来た時に闇子さんに案内された事務所だ。

扉を開くと、右手にあるソファに彼女は座っている。だから、僕は驚かせないよう呼びかけた。



「闇子さん、また来たよ」



「借利留さん、また来たんですか? 契約ならとっくに消滅したはずなのに……」



結局、僕が契約したものは闇子さんによって取り消しになった。

僕が購入した壺は元々闇子さんが所有していたらしく、契約主である僕が了承すれば、契約自体を無効にできるという。だから、僕は手数料を払う義務もなくなったというわけだ。

でも、それでも僕は闇子さんがいる事務所に足を運んでいた。



「まあ、その……愛を確かめ合った人とはひと時も離れたくないなと思って……」



「! そ、そうですか……」



とは言っても、いざ顔を合わせると恥ずかしさがこみ上げてくる。目が合う度に胸が高鳴る。

だから隣に座って目を合わせないようにする。どうしても近くにいたいと思ったから。



「……でも、恥ずかしいな」



自然と手が重なり、余計に緊張する。目が合わなくとも結果は変わらなかったみたいだ。



「あの……借利留さん。一つだけお願いが……」



「お願い? えっと……なんだろう?」



闇子さんが腕組みをしてくる。以前とは違い、恥ずかしそうにしながら。



「その……もう一度だけ、私と契約してみませんか……? といっても今度は私が契約主ですが……」



「うーん、闇子さんがそう言うなら良いけど……なにを契約するの?」



闇子さんが僕を騙そうとすることは絶対有り得ない。けど、一体何を契約するのだろうか。



「少しだけ……目を閉じてください」



「え? うん」



促されるまま目を瞑る。すると、唇に懐かしい感触がした。



「……手数料です。私が借利留さんと付き合うための」



唇を離し、闇子さんは悶えながら説明をしてくれる。

僕と付き合う元金に加え、手数料としてキスをしてくれたらしい。



「それってつまり、リボ払いってことだよね……」



リボ払いの仕組みは嫌というほど理解していた。元金が無くならない限り、手数料を永遠に支払う必要があることも。



「駄目、ですか……?」



上目遣いで懇願する闇子さんに、僕は一瞬気持ちが傾きそうになる。

でも、これでは駄目だ。



「うん、駄目だよ。これだと一方的だから」



「……そうですか。ごめんなさい無理を言ってしまって」



「だからさ……僕も払うよ」



「え……って、ちょっと―――!?」



今度は僕から求める。彼女ごとこちらに引き寄せ、熱い抱擁を交わした。

そのまま唇を重ね、舌を潜り込ませる。



「…………んっ」



強張っていた身体から次第に力が抜け、闇子さんも受け入れ始める。

太ももを擦り合わせ、だんだんと彼女からもアプローチを仕掛けてきた。

このままずっとそばに、そんな想いを押し付け合いながら。



「ッはぁ……はぁ……ちょっと、激しすぎ……」



ようやく離れ、酸素を必死に貪る闇子さん。僕も息を整えると、改まって先程の続きを伝える。



「僕も闇子さんとずっと一緒にいたい。闇子さんが喜んでくれるなら、僕はもっと頑張れると思うから」



「……ほんとそーゆーのズルい。はぁ……またしたくなる……」



そう言いながら嫌そうに溜息を吐くが、袖を握る指に力が入っている。闇子さんの本音が伝わってくる。

僕は彼女と向き合い、ゆっくりと近づく。



「闇子さん、好きです」



「……私も」



恥ずかしがる彼女へ、僕は何度も求める。きっとこの先もずっと、僕は彼女を求める。



このリボ払いは永久に終わりそうにない。
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