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真実を知る
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佳織は何故か氷室が憎めなかった。
「僕の気持ちを掻き乱したのは君だ」
氷室は佳織に全てを打ち明けた。
あの雨の日から氷室礼司は密かに佳織に想いを寄せていたのだ。しかし、大人になるまで佳織と再会することはなかった。
子供の頃は居場所のなかった氷室だが、高校と大学では環境が変わった。元々地頭の良い氷室は、高校では進学校に在籍し常に学年トップの成績を収めた。大学でもその頭脳と、外見で男女問わず人を魅了した。魅了したために、氷室は苦悩する羽目になった。
氷室に彼女ができた。同じ大学でずっと氷室を狙っていた。氷室は佳織ほどその彼女に魅力は感じていなかった。何となく付き合ってみただけ。何となく男女の関係を持ってしまった。それが今になれば良くなかったのだろう。当時の彼女に「セックスが下手」と言われた。それ以降、氷室はセックスに対してトラウマになっていた。
月日は流れて、単なる偶然か運命の悪戯か──
その日も乗り気ではない大学の仲間達との飲み会に参加していた。居酒屋には大学生が大勢いた。他の大学の人達も多いな、と氷室が店内を眺めていたら──佳織、と声が聞こえた。
「ちょっと大丈夫?」
「二宮さん飲み過ぎだよ」
「佳織ちゃん。はい、お水」
氷室は信じられなかった。ずっと会いたかった佳織が同じ空間にいる。佳織の姿を目にした瞬間、あの雨の日の思い出が蘇った。
ずっと君に会いたかった。
しかし、氷室の想いは打ち砕かれる。
「それじゃあ、俺が佳織ちゃんを連れて帰るね」
同じ大学の友人だろうか、男が佳織の腰を支えて居酒屋を出て行った。氷室は居ても立っても居られず、大学の仲間達に先に帰ることを伝えて、佳織と男の後を尾行した。
「ねえ、佳織ちゃん」
「なーにー?」
「このままホテル行かない?」
「いいよおー」
二人はラブホテルに入って行った。氷室は頭を思いっきり殴られたような感覚がして、しばらくの間、その場で立ち尽くしていた。
佳織は大学時代に酔った勢いで身体の関係を持った男がいて、ラブホテルに入る所を氷室に見られていたのだ。
裏切られた──ずっと君を思っていたのに。いや……君にしてみれば僕はもう過去の人間に過ぎない。
会社を立ち上げてからは仕事にのめり込んでいった。もう佳織のことは忘れていた。それなのに、佳織が転職で氷室の会社に来たのだ。
運命の悪戯とはこういうことを言うのかもしれない。
その頃、氷室は会社の取引先から接待の話を聞かされていた。利用できるなら利用してしまえばいい。二宮佳織──お前は男にたくさん喘がされて乱れろ。
「どうだ?僕は酷い男だろう?」
今目の前の佳織に訊いた。
「ええ。最初は何て酷い男なんだろうと思いました。でも、今はそんなこと思っていません」
「──っ!?」
「私はあなたが好きです」
佳織は氷室の目を真っ直ぐに見つめて、今の自分の想いを告白した。
「はは、こんなに嬉しいことは本当に久しぶりだ」
氷室は小さく笑みをこぼした。そして、二人は口づけを交わす。
「僕の気持ちを掻き乱したのは君だ」
氷室は佳織に全てを打ち明けた。
あの雨の日から氷室礼司は密かに佳織に想いを寄せていたのだ。しかし、大人になるまで佳織と再会することはなかった。
子供の頃は居場所のなかった氷室だが、高校と大学では環境が変わった。元々地頭の良い氷室は、高校では進学校に在籍し常に学年トップの成績を収めた。大学でもその頭脳と、外見で男女問わず人を魅了した。魅了したために、氷室は苦悩する羽目になった。
氷室に彼女ができた。同じ大学でずっと氷室を狙っていた。氷室は佳織ほどその彼女に魅力は感じていなかった。何となく付き合ってみただけ。何となく男女の関係を持ってしまった。それが今になれば良くなかったのだろう。当時の彼女に「セックスが下手」と言われた。それ以降、氷室はセックスに対してトラウマになっていた。
月日は流れて、単なる偶然か運命の悪戯か──
その日も乗り気ではない大学の仲間達との飲み会に参加していた。居酒屋には大学生が大勢いた。他の大学の人達も多いな、と氷室が店内を眺めていたら──佳織、と声が聞こえた。
「ちょっと大丈夫?」
「二宮さん飲み過ぎだよ」
「佳織ちゃん。はい、お水」
氷室は信じられなかった。ずっと会いたかった佳織が同じ空間にいる。佳織の姿を目にした瞬間、あの雨の日の思い出が蘇った。
ずっと君に会いたかった。
しかし、氷室の想いは打ち砕かれる。
「それじゃあ、俺が佳織ちゃんを連れて帰るね」
同じ大学の友人だろうか、男が佳織の腰を支えて居酒屋を出て行った。氷室は居ても立っても居られず、大学の仲間達に先に帰ることを伝えて、佳織と男の後を尾行した。
「ねえ、佳織ちゃん」
「なーにー?」
「このままホテル行かない?」
「いいよおー」
二人はラブホテルに入って行った。氷室は頭を思いっきり殴られたような感覚がして、しばらくの間、その場で立ち尽くしていた。
佳織は大学時代に酔った勢いで身体の関係を持った男がいて、ラブホテルに入る所を氷室に見られていたのだ。
裏切られた──ずっと君を思っていたのに。いや……君にしてみれば僕はもう過去の人間に過ぎない。
会社を立ち上げてからは仕事にのめり込んでいった。もう佳織のことは忘れていた。それなのに、佳織が転職で氷室の会社に来たのだ。
運命の悪戯とはこういうことを言うのかもしれない。
その頃、氷室は会社の取引先から接待の話を聞かされていた。利用できるなら利用してしまえばいい。二宮佳織──お前は男にたくさん喘がされて乱れろ。
「どうだ?僕は酷い男だろう?」
今目の前の佳織に訊いた。
「ええ。最初は何て酷い男なんだろうと思いました。でも、今はそんなこと思っていません」
「──っ!?」
「私はあなたが好きです」
佳織は氷室の目を真っ直ぐに見つめて、今の自分の想いを告白した。
「はは、こんなに嬉しいことは本当に久しぶりだ」
氷室は小さく笑みをこぼした。そして、二人は口づけを交わす。
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