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社長命令1

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 秘書室の自分の席に案内された佳織は、鞄をデスクに置いて、社長室に向かった。もちろん社長に挨拶するためだ。

(緊張するなー……社長と話をしたのは、転職活動の時よね。落ち着いて……)

 異動について、佳織は疑問を抱いていた。

(そもそも何で私が社長秘書に? 秘書室のメンバーとしてなら理解できなくもないけど──)

 社長室では、社長の氷室礼司とその右腕である専務の早乙女南斗みなとが佳織を待っていた。

「総務部から異動になりました。二宮佳織です。よろしくお願いします」

「うん。二宮さんとは、中途採用の面接以来だね。よろしく」

 明るく優しく微笑む氷室に、佳織はほっと安堵する。一方で早乙女は、氷室とは対照的だった。相手を射抜くような、鋭い眼光を佳織に向けている。

(うっ……早乙女専務──総務部でも怖い厳しいと噂には聞いていたけど、上手くやっていけるかしら……)

「二宮」

 早乙女に声をかけられ「はい!」と勢いよく返事をする。

「秘書室のメンバーにお前を紹介する」

「……はい」

 社長室を出る際に佳織は、氷室をちらりと見遣って軽くお辞儀をした。氷室はにこにこ微笑んでいた。

(社長は紳士的だわ……)

 佳織の紹介が終わると、早乙女からは部内の資料を確認して、トーシスの秘書としての業務を覚えるように指示があっただけだった。早乙女は社長の氷室と打ち合わせのため、席を外した。

「佳織さん、これから同じ秘書室の一員としてよろしくお願いします!」

 隣の新田にった菜々子が元気よく佳織に声をかける。ミルクティーブラウンのゆる巻きヘアに丸い両目、可愛い雰囲気が漂う菜々子は、佳織よりも歳下だが、トーシスでは先輩に当たる。

「それにしてもやっぱり佳織さんは、凄い人です」

「え?」

 菜々子はふと過去のことを話した。

「私が困っていた時に──」

「あー……」

 菜々子は若さ故か、おっちょこちょいな所がある。佳織が総務部だった頃に重大なミスという程では無かったが、佳織が菜々子のフォローをしたことが何回かあったのだ。

「佳織さんは、いくつも私の窮地を救った恩人なんです。社長も佳織さんを秘書に抜擢しても不自然じゃないんですよ」

「そ、そうかなー」

 佳織にとっては、同じ会社の同僚が困っていたから助けただけだった。それは仕事として当然のこと──自分が社長の秘書に抜擢されるのは違うんじゃないかと悶々とする。
 

(覚えること多すぎ……初日からきっつ……)

 定時が過ぎ、秘書室の社員は帰り支度をしている。菜々子が疲れを見せない表情で「お先に失礼します」と退社する。

「二宮」

 と、そこへ早乙女がやって来た。

「はい!」

「資料の確認はできたか? 進捗は?」

「はい、終わっています。社長と専務に報告メールも送って……それから──」

 早乙女は一瞬驚いた表情を見せた。

「あ、あの……?」

「否──総務部に居た頃から業務は的確で速いと評判だったが、秘書室でも……しかも初日からここまで進めているとは思っていなかった。助かる」

「ありがとうございます」

 間を置いて早乙女が訊ねた。

「今日、残業はできるか?」

「はい。できます」

「では、社長秘書としての特別な業務を教える。第六会議室に来てくれ」

「分かりました」


 特別な業務と言われたが、佳織は何も疑いもしなかった。

(残業かー……ま、いっか)

 早乙女の後ろについて、エレベーターに乗り第六会議室に着いた。扉の前で何かを考えている早乙女──「専務?」佳織が訝しげに様子を伺うと、早乙女は佳織の目を見据えて低音で言った。

「社長に献身しろ」

 佳織は「はい……」と小さく答えた。「入れ」と早乙女に促されると、会議室に社長の氷室が座っていた。佳織を見て穏和な笑みを向ける。

「やあ。お疲れ様」

「あ……お、お疲れ様です」

 何で社長がここに──? 心臓が嫌な音を立てた。

 バタンと会議室のドアが閉まる音が響く。

 そして早乙女が告げる。

「身体検査をする」

「は、はい?」

 予期せぬことに声が裏返る。

「あ、あの……専務。言っていることがよく分からないのですが」

 会議室の出入り口前には長身の早乙女が立っている。

「二宮さん。着ている服を全部脱いで」

普段は穏和な氷室の声が低くなり、佳織はびくりと体を震わせた。針を刺すような視線が恐ろしくて、顔を俯ける。

「社長命令だ」

「そんな……」

「早乙女」

氷室が早乙女に目で合図を送る。早乙女は分かっていますと言うように、佳織を羽交い絞めにした。

「せ、専務!?」

「大人しく言う事をきかないからだ」

ゆっくりと氷室が椅子から立ち上がり、佳織に近づいてブラウスのボタンを一つ一つ外していく。

(や、やだっ!)

 ブラジャーが見えたところで、氷室の手が止まった。

「下も僕に脱がされたいの?」

「…っ、自分で脱ぎます」

 そう言うと、早乙女は佳織を開放した。言われたままにスカートのホックを外したが、どうしてもスカートを下げられない。本当に下げないといけないのか──?

(何でこんなこと……)

 戸惑っていると、氷室の手が佳織の長いダークブラウンの髪に触れていた。

「ああっ……」

 後ろ髪を鷲掴みにされて乱暴に下に引っ張られ、無理やり顔を上げさせられた。怒りを秘めた冷たい瞳で睨まれ、声も出ない。

「しゃ、ちょ……」

「言われた通りに着ている服を全部脱ぐんだ」

「ッ、うぅ…」

「本当に僕が君の服を全部脱がせるよ」

 社長に脱がされるより、自分で脱いだ方がマシだ。佳織はまずは、下着姿になった。

「あの……せめてこのままで」

「ダメだ。下着も全部脱ぐんだ」

 氷室が苛立つ。

「そ、そんなっ……下着脱いだら、裸になってしまいます……」

 声を荒げているが、語尾が弱くなっている。

「裸になれと言っている」

 氷室はまるで別人のようだった。朝挨拶した時は、明るくて優しそうだったのに。二重人格と言われても納得してしまいそうだ。佳織は恐怖に怯える。

(どう考えても普通じゃない。とりあえず、ここは言われた通りにして、それから……)

 仕方なく佳織は、下着も脱いで洋服と下着を会議机の上に置いた。右手で胸を、左手で秘部を隠す。

「これでいいですか……?」

「ああ」

 氷室は立ったまま腕を組んで短く答えた。裸になった佳織をほんの数秒だけ目で確認すると、窓の外の夜景に視線を移す。

(何なの!? 失礼にも程があるわ)
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