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用意された食事は好意であり金貨の対価ではない。金貨の対価は服だ。イズクがただ飯というのは正しい。それはわかるが、料理が口に合わない。悪態をついたわけでも料理を無駄にした訳でもないのに、親の仇でも見るような目はやめてほしい。
「カズ、やりすぎだよ」
やり過ぎもなにも攻撃的な事は一切行っていない。マズイ食事を頑張って食べた事を評価してほしい。
「こんなに、素晴らしい料理の何が気に入らないんだ」
味だが、それを賛美している状況で口に出すことは出来ない。
「そうやって、立場が悪くなると黙り込む」イズクは大きなため息をついた。「ウメさん、申しわけありません」
「いえ……、私が……」
「そんな事をありません」イズクは落ち込む母親の手を取り、視線を合わせると微笑んだ。すると、母親の頬が微かに赤く染まった。
「君もごめんね」頭を撫ぜられた少年は嬉しそうに笑った。「美味しい料理をありがとうございます。それでは御暇させて頂きます」
イズクは2人に微笑むと、呆然と座っているカズマの腕を引き外へと出た。
街頭がないため、月の光を強く感じた。涼しい夜風で髪なびいた。その中でイズクが文句を言っていた。内容は母親に対しての態度だ。カズマとしては嫌な態度をしたわけではない。
「料理があまり……」
「そんなわけないでしょ」イズクは大きな声を出した。「アレがマズイだって? 我儘すぎでしょ」
「別に……」感情的になるイズクとの会話が面倒くさくなった。
「普段、お前何食べているんだ。いつもの酒場より……」そこまで言ってイズクは言葉を止めた。「そうだ、あいつらどこいったんだ? 酒場かな」
イズクは当たりを見回した。
「酒場はどこ?」
建物は殆ど同じ形をしているため見分けがつかず、イズクかイライラし始めた。
すると、遠くの方から大きな人影が近づいていた。
「アンギ」大きな声は静かな村に響いた。「来てくれたの?」
イズクが嬉しそうに駆け寄ると、アンギ小さく頷いた。彼の後ろに小さい影が見えた。
「リュウマも来てくれたの。嬉しいよ」
「僕がいないと、イズクさんたちの居場所分りませんから」
「リリは?」
「戦闘で疲れて寝ていますよ。早くお戻り下さい。勇者様」
リュウマの声は相変わらず、感情がのらない。その上、全身を隠すようにローブを着ているため、見えるのは口のみであるため彼が考えている事が分からない。
魔力探知の能力があるようで、常に周囲の人間や魔物位置を把握しているみたいだ。
アンギはその反対で隠しているのは下半身のみ、上半身は鍛えられた肉体を常に見せつけるようにピッタリとした袖のない布を巻いている。素手で戦うため常に手袋は外さない。
「ごめんね。村の人にご馳走になってて」
「……そうですか」リュウマはチラリとカズマの方を見た。「あなたも?」
「俺は別に……」
「そうなんだよ。コイツ、折角村の人が作ってくれたのに。手を付けないの。俺が言ってやって葉を一枚食べたんだよ。失礼だよね」
「本当にそうね」
気づくと、真後ろにリリがいた。全く気配を感じず心臓が大きく動いた。
「リリ」イズクが嬉しそうに声を上げ近づくと、リュウマの身体が少し動いた様に見えた。
「遅いので心配したのよ」
イズクの目の前リリの大きな胸が来ると、彼はだらしなく顔を緩ませ「ごめんね」と胸から視線をそらさずに謝った。
「そこは顔じゃないわ」と、頬を押されたがイズクはそれも嬉しいそうであった。
外見はさっきあった少年と同じように見えるが中身は完全におっさんだ。
「それより、勇者様はあの人の事気に入らないのよね」
「え?」
イズクはリリの視線を負い、カズマの方を見た。
カズマは4人に注目されて、なんとも言えない気持ちになった。
「戦闘中も、ずっと後にいるし。姿を見せない時もあるし」
「それは……」イズクは頬をかきながら困った顔をしてカズマを見た。
彼の瞳はカズマに能力公開の許可を求めている目だ。しかし、それは承諾出来ない。カズマはゆっくりと首を振った。
「今も村の人に迷惑をかけていたのよね? 私たちは勇者パーティーよ。守らなくてはいけない立場の村人と対立するなんてありえないわ」
「そうだね……」リリの圧に負け、イズクは蚊の鳴くような声で言った。
「リュウマだって、カズマに批判的だったでしょ」
「批判的と言うわけじゃないよ」
「なにそれ」リリは金切り声を上げた。「さっき、いらないって言ったじゃない」
「それはそう」リュウマは大きく頷いた。
「なら、ねぇ」
リリの視線にイズクは眉を潜めた。
勇者パーティーは国王公認であるため、容易にメンバーを変更する事は出来ない。
「リリ」アンギが重い口を開けた。「安易に決められない」
「知っているわよ。でも申請はできる」尚も食い下がる。
勇者パーティーでいる事に未練はないが、イズクを手放したくはない。あれほどのモノを再度探すのは手間だ。
いや……。
魔王討伐にはイズクが必要だっただけで、その任から解放されるならいらない。ギルドから適当な依頼を受けて暮らすのも悪くはない。その程度なら、イズクほどの器でなくてもいいわけだ。
「リリ、戦闘で疲れて寝ていたんじゃないのか」アンギが心配そうに興奮した彼女に近寄った。
「疲れたわよ。だけど、リュウマがいなくなるから……」
「あっ」
悲鳴のような声を上げるリリに、リュウマは慌てて近づいた。
「ごめん」
リリに寄り添ったリュウマは口を屁の字に曲げアンギに何かを言うとリリを抱えその場を去った。
リュウマの慌てる姿を始めてみた。彼はリリに対してだけは感情が動くことがある。彼らの関係は知らないし興味もない。追い出されるなら気にする必要ない。
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