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大きな足音とも共に「おーい」という少年の声が聞こえた。
その後ろから、日に焼けた女性が出て来た。少年の姉かと思うほど若い。
「こんばんは、旅の方」
「お初にお目にかかります。私、イズクと言います」
イズクは爽やかな笑顔を女性に向け、普段使わない言葉で丁寧に挨拶をした。
「あらあら、お若いのにずいぶんと丁寧にありがとうございます。私はイチの母でウメと申します」
ゆっくりと頭を下げながらカズマの方を見た。得体の知れない人間に名乗る名はない。
「どうも」
なるべく口角を上げて話すとクスリと笑われた。
「すいませんね。これでも、コイツの精一杯の笑顔なんです。悪気はないんですよ」
「……」
笑顔が不得意である事は認める。しかし、初めてあった人間それを馬鹿にされる言われはない。まして幼い頃からの知り合いに追い打ちをかけれる意味も分からない。
イズクに頭をぐちゃぐちゃとなぜながら無理矢理、下げられるのも不満であった。
ド田舎の村人に媚びを売る必要せいはない。礼儀としても頭を下げるほどの事はない。
ヘラヘラと笑いながら、見下したような目で見るイズクの顔を殴りたかった。
「気にしないでください。人それぞれですよね」
「お優しい方で安心しました」
一人だけ別世界にいるように感じた。同じ言語で話しているはずなのに彼らの言葉が耳に入ってこない。
食卓に案内され、食事が始まった。
「こんなにたくさんいいの?」少年がテーブルを見て驚いていた。
少年親子と自分ら2人分ならけして多い量とはいえない。内容も質素に感じたが村や家の様子を見れば裕福でないことはよく分かる。今、自宅にある食べ物を全て提供したのだろう。村の立地条件から考えて食料調達も困難だろう。
イズクは料理一つ一つを褒めながら、心底美味しそうに食べていた。それは少年親子も同様であるが、カズマの食が進まなかった。出された肉は恐らく魔物だ。
魔物を食する事を否定するわけではない。実際、料理として提供する店もある。飼われ調整された魔物ならまだしも野生はマズイ。魔力のせいか肉は黒く食欲がわかない。
「あら、お気に召しませんでしたか?」
母親が心配そうに声をかけてきた。
「コイツは、好き嫌い我儘なので気にしないでください」
「そうですか……」
注目をあび、仕方なく近くにあった葉を口した。
「ーーッ」
原型がなくてわからなかったが、葉は薬草。薬として加工するものであり直接、口するシロモノではない。
食べ慣れている親子はともかくイズクが平気なのか分からない。
なんとか口から出さずにすんだ。
「カズ、その態度は失礼だよ」
親子に悪意があったとは思わない。彼らにとって普通の食事なのだろう。
文化が違う。
「いや……、これは……」
「あぁ」母親は涙目になった。「大金を下さった方のお口に合うものが用意出来ず申しわけ御座いません」
「母さん」
泣き崩れる母親に少年は寄り添い、カズマを睨みつけた。イズクも冷たい目でみている。
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