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 街からかなり離れた森の奥深く。巨大な魔物が立ちはだかっていた。先頭に立つイズクは顔を真っ青にして手にしていた剣を震わせていた。リリとアンギは巨大な魔物から目を離さない。しかし、今までの戦いで多くの体力を消耗したようで立っているのが限界に見えた。一番後ろにいるリュウマだけが魔物だけでなく周囲を経過している。
「――ッ」
一瞬彼と目があったような気がした。あの巨大な魔物相手に随分と余裕な態度だと感心した。
カズマは小さく呼吸をすると、唇を最小限に動かした。すると、さっきまで唸りを上げていた魔物が膝をついた。その時、さっきまで怯えていたイズクが飛び上がり、魔物に剣を振り下ろした。魔物の手が落ちると同時に血が噴き出した。あたり一面が緑なった。
魔物は逃げようとするが、イズクがそれを許さない。胴体を真っ二つにした。
動かなくなった魔物に切った張本人が安堵した表情をしていた。後ろにいたリリの強張った顔が緩んだ。アンギの表情も微かに揺らいだがリュウマだけカズマを睨みつけていた。
「そんな顔してんじゃないわよ」
リリがリュウマの肩に手を掛けて引き寄せた。身長差があるためリュウマの顔がリリの大きな胸に沈んだ。それに、リュウマは少し顔を赤くした。
「あいつが何もしないなんていつもの事じゃない」
「いや……、その……」
「本当に洗濯くらいしか能がないじゃない。いつもいつも後ろに立ってるだけでさ」
悪態をつくリリにリュウマは困った顔して口をあけ何かを言おうとしたがリリの「いらないんじゃない?」という大きな言葉に掻き消された。
「それはそう」リュウマが頷いた。
「でしょ」
リュウマが同意した事でリリは更に声を張り上げた。
「簡単に口にする事ではない」
ずっと黙っていたアンギが低い声でいった。二メートルの身長と強靭な肉体を持つ彼の言葉は重みがあった。
「だってさ。役立たずじゃん。リューマもそう思うでしょう」
「いや……、役立たずというか……」
「無能じゃん」
「無能というか……」
「なによ」煮え切らない反応のリュウマにリリはイラだったようだ。「さっき、いらないに同意したじゃん」
「それは否定しない」そういった彼の緑色の瞳がカズマをとらえた。それがひどく気持ち悪く感じた。
「そう」リュウマの瞳に気付いていないリリは安心した笑顔を見せた。「なら、いきましょう。あっ」
リリの真っ青な瞳と目があった。
「イズクの介抱しときなさいよ。それくらいしか能力ないんだから」
リュウマとアンギはリリに手を引かれ、その場を去って行った。彼ら見えなくなるのを待ってからカズマはイズクの方へ向かった。
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