【完結】腐女子が王子~独身中年女性が異世界王子に転生、ヲタクの知識と魔法と剣術で推しメンの危機を守ります~

黒夜須(くろやす)

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仕方ない

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 アンドレーが手伝うと言っていた目的とは国王暗殺のことだ。それとハリー・ナイトの仇として私を殺そうとしていたようである。しかし、国王を殺せば死よりつらいものが待ち受けていると判断して生かすことにいたようだ。

 やっぱり誰が見ても今の国の状況で国王の魅了魔法がなくなるのはやばいってことだ。気が重い。

 私は自分の手の平をみた。いつもと変わらない小さな手であるが、どんどん血に染まっている。殺すつもりはなかったが結果的になくなったハリー・ナイト。そして、今父殺しをしようとしている。

 仕方がないことだ。そう、それしか方法がないのだ。

 やっていることは間違っているとは思わないが、正しいとも思えないのだ。だから理由をつけて必死に正当化するしかなかった。じゃないと立つことができなくなる。

「ルカ」

 名前を呼ばれて頭をあげるとルイが近くにいた。そして、抱きしめられた。その勢いで後ろに倒れそうになるのを身体に力を入れて防いだ。すると「よかった」とルイはつぶやいた。

「ルカが殺されるかと思った。ハリー・ナイトの腕を切り落とした聞いた時から、もしかしたら復讐にくるかもしれないと思っていたのだよ」

 ルイの声は震えているように聞こえた。もしかしたら涙ぐんでいるのかもしれない。
 心配をかけてしまった。

「じゃ、炎の魔法は私を守るために放ったの? 反撃されて殺させるかもしれないのに?」

「もちろんだよ。あの時ルカに復讐しにきたと思ったから」

「勝てないってわかっていたよね」

「うん。でもルカを亡くすくらいなら……」

 ルイの愛を感じた。
 私を抱きしめる彼の身体をとても温かい。私は自分の手を上げてルイを抱きしめ返した。すると、ルイの腕の力が強まった。

「あの……」

 おじさんのちいさな声が聞こえた。私はおじさんの存在を思い出して慌てて、ルイを押しのける。

 なんてこった。

 強敵が去った後、女の子を放置して男同士で抱き合ってしまった。いや、おじさんは腐男子だから“美味しかった”のかもしれない……って、そんな余裕はきっとない。おじさんは終始震えていた。

「なんです?」

 私に引きはがされたルイは不機嫌そうに答えていたが、ちゃんとおじさんの方を向くところが真面目だと思う。
 私はおじさんが声をかけてくれてよかったと思った。今は二人の世界を作っている場合ではない。アンドレーはきっと国王の元へ行った。

「ふと、思ったのですが、もしルカ第二王子殿下が今の国王陛下のように魅了魔法を使い彼と同じ様な立場にいたらどうしますか? 」

 それは、私が国王で民のたいして魅了魔法を使っていたらということ?

 今、その例えば話をする意味がよく理解できない。ルイは次期国王として民を助けると決めたのだ。当然、今の行動も変わらないはずだ。

「現状維持です。僕はルカを支えますよ」

 う?

 ルイの返事は私が想像していたものと違った。
 そして、おじさんは「やっぱり」と言って頭に手をやり、首を振っていた。
 私は理解が追い付かず、ルイの方を見た。ルイは当たり前の事を言っているという顔をしている。

「民を助けないの?」

「民はルカに魅了させているでしょ。なら反乱もおきないし大丈夫でしょ」

 私は何度も瞬きをしてしまった。
 国王の時とルイの意見は真逆である。つまり、ルイは今回、民の解放の本気で望んでいるわけではない。そのままにすれば最後国が崩壊するのが分かっているのに私が国王であったら民を助けないらしい。
 おじさんの方を見ると、彼は私の顔を見て頷いた。そして「漫画のルイを思い出して下さい」と言った。ルイはその意味が分からないようで「漫画の僕?」と首を傾げていた。

 漫画のルイ。幼い頃の彼は国王に言いなりで自分の意見を持たなかったが、次期国王として振る舞いは完璧であり周囲からの信頼も厚かった。
 しかし、ハリー・ナイトと第二王妃に不倫疑惑事件から少しずつ変わり始める。多分この事件で国王の魅了魔法が不安定になったのだろう。
 そして主人公アイラに会い大きく変化する。行動がすべて彼女のためになるのだ。

 そう、忘れていた。アレクサンダー王家の特徴は魔法能力ともう一つ依存度の高さだ。
 私は目を大きく開き、ルイの方を向いた。そして自分を落ち着かせてゆっくりと彼に質問した。

「なんで、民の解放を望んだの?」

「ルカが望んでいると思ったらから」

「じゃ、もし私が国を捨てて平和に暮らしたいと言ったら」

「もちろん構わないよ。一緒に国を出よう」

 ルイはニコリと笑って答えた。
 彼が私に依存しているではないかという事は薄々分かってはいた。私を独占しようとしたり監視しようとしたりしたのである。気づかない方がおかしい。だが、なるべく触れないようにしていたのも事実だ。

 これでは私が王になるようなものじゃないか。

 しかし、ここでルイを拒否すればこの国の崩壊は目に見える。
 大体、アンドレーは私の政に関わり、民の気持ちを受け止めるという地獄へ向かうから殺さなかったのである。国から出れば別の方法で私を追い込むだろう。

 選択肢などない。

「殿下」

 私が覚悟を決めなきゃと思っている時におじさんが一つの映像を指さして声をあげた。
 私は今考えていた事を後回しにして映像の方に身体ごとむけた。ルイも同じように映像を覗き込んでいる。

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