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侵入者再び

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 転送魔法の石板がある部屋の前には本来衛兵がいるが襲撃事件で騎士が減ってしまったため衛兵は騎士の補佐に駆り出されているためここにいない。
 そのため自分で部屋の扉をあけて中に入った。
 部屋の中にある石板魔法陣の前に、ルイが立っていた。その横に浮遊魔法を解かれた自分の足で立つおじさんいた。
 ルイは転送魔法陣の石板の前で何かの魔法陣を発動していた。彼は魔法陣の紙を胸ホケットに入れたまま発動するため魔法陣が見えないので発動している魔法陣の内容がよくわからない。
 私は魔法陣発動の邪魔にならないように静かに近づいた。そしてルイを見て眉を寄せてしまった。
 転送魔法陣の石板の前で青ざめているルイ。
 その様子から大変なことがおこっていることは理解できるが、それがなんであるか分からない。
 ルイは何も言わずに何十枚もの紙を胸から出して床に広げた。私には真っ白に見えるが恐らく魔法陣だろう。しかもわざわざ胸ポケットから出して発動するということは映像魔法を使うつもりだ。
 ルイもおじさんものすごく焦っているようにみえる。
 ルイが魔法陣発動をすると床にちらばった全ての紙に映像が映った。映像は全て城の内部である。

 まるで監視カメラだ。
 これを普段みていたから様々な事を知っていのだ。

 ルイはしゃがみこんで映像1つ1つを確認している。誰かを探しているようであった。

「あのさ、頭悪いみたいで……状況がつかめないだよね」

 ルイと同じ様にしゃがん映像を見ているおじさんの横に座ると、声をかけた。流石に必死に映像を確認しているルイには声をかける事ができない。
 おじさんは映像から目を離さずに答えた。

「国王陛下の弟君アンドレーの能力を知っていますか?」

 私は首をふった。アンドレーが名乗っていた別名ジャスパーの事は多少知っている。闇市の元締めであり主人公アイラに倒される。今思えば自害だったのかもしれない。どうやって倒したとかそういった描写はなく、アイラが闇市奴隷を解放したとなっていた。

「本編ではアンドレーと言う名は出てきません。ジャスパーとして主人公アイラに倒されます。しかし、あれは目的を果たしたため自害したのです。別の番外編に載っています」

 おじさんの説明に頷いた。やっぱりアレは自害だったのか。
 私はアンドレーの強さを体験している。あそこまで強い人間が魔法も使えない小娘アイラに倒される訳がない。

「目的は先ほども言いましたが国王陛下及びパレス王国の破滅です。本編はソーワ王国のアイラを主人公としていますから、彼女がパレス王国を悪政から救ったように見えます」

 そうそう。確かに我が国は王族、特に国王は悪魔のように描かれていた。
 私はその本編とトーマス騎士団長が出ていた番外編しか見ていないから分からない事が多い。

「時間がないので漫画の詳しい話は生き残れたら話します」

 おじさんは不吉なことを言った。"生き残れたら"とはどういう意味であろうか。
 おじさんは目の前の転送魔法陣の石板を見たので、私もつられて石板を見た。いつもと変わらない石板魔法陣である。

「おそらくここからアンドレーが侵入してきました。目的は国王陛下暗殺かと」

 私は言葉を失った。確かにアンドレーは王族だから魔法が使える。私ですら転送魔法ができるのだからアンドレーには容易なことだ。
 そのことはアーサーだってわかっていたはずだ。それなのに石板転送魔法陣を封印するなり壊すなりしない理由がよく分からない。

「多分すべて計画されていた事だと思います。そもそも、襲撃の時もこの転送魔法陣を使えばもっと手際よくハリーを奪還できたと思いますがそれをせず、正面から派手に攻撃を仕掛けてきました。そのためそれに応戦した騎士が大きな被害を受けました。この目的はなんだと思いますか?」

「転送魔法を使えることを隠すためでしょうか?でも、それはおかしいです。アンドレーもハリーも去る時に消えているのです。だから転送魔法陣使っていると思います」

「そうなのですよ。しかし、石板魔法陣を封印しなかった」

 なんだか、おじさんの言いたいことが分かってきた気がした。

「上層部はアンドレーが転送魔法陣を使えないと思っている。つまり最後に消えたのは転送魔法陣ではないということです。だから石板転送魔法陣はそのままであった」

 おじさんが私のセリフに頷いた。
 アンドレーが今日、石板転送魔法陣を使用して城に侵入するため、前回の襲撃では一切転送魔法陣を使わなかった。幼い頃からアンドレーを知っているものは皆、彼の能力が以前のままであると考えた。

 そして、国王暗殺は前回では達成できないが今日だと達成できるのはなぜだ。そもそも、前回の襲撃で国王暗殺ができない理由はなんだ。

 もしかして……国王も能力である魅了魔法?

 しかし、そんなものは解除魔法が扱えるのであれば問題にならないはずである……解除魔法が使えないのか?
 でもアンドレーは過去に兄である現在の国王暗殺未遂をしている。
 魅了されてしまっては暗殺などでいないはずだ。もしかして、私と同じ様に魔法に対して反応する体質であったのかもしれない。すると国王演説の時の私のように魅了も中途半端にかかるため国王の魅了魔法の存在には気づくはずである。

「お……オリビア嬢」

 私がまた間違え“おじさん”と言いそうになったことに気付いたらしく眉をひそめた。しかし、聞かなかったことにしたらしく眉を元の位置に戻し「なんてじょうか」と返事をした。

「過去にアンドレーが現在の国王陛下暗殺未遂を起こした理由の本編で明かされていないのですがなんでしょうか」

「ある意味彼もパレス王国を愛していたのですよ。当時フィリップ第一王子殿下の能力に気付いている者は弟君のみでした。彼は魅了魔法の恐ろしさに気付きフィリップ第一王子殿下を王にするのは国の崩壊につながると考えられたようですね。なんども現国王の即位反対を上層部に伝えています」

 アンドレーの考えは外れてはいない。王都を少しでも離れると生活が苦しい者が多いようである。これはグレース殿下に屋敷に向かう途中に嫌というほど目にした。きっと民の不満はすごいのだろう。しかしそれをすべて国王の魔法で抑えているのだ。魔法があるから国王がどんな政策をしても不満は上がらない。

「では、アンドレーが国の崩壊を望むのは民を解放したいからでしょうか?」

 おじさんは静かに頷いた。
 なんだかやるせない気持ちになった。
 本編では主人公アイラが闇市を解放してその奴隷と共に革命を起こし王族は滅びる。多分、アンドレーはアイラと関わり、彼女が民を解放してくれると分かったからアイラに後を任せてアンドレーは闇市の元締め、ジャスパーして死んだのだ。

「国王陛下の魅了魔法は無制限に発動できるわけではないのですよ。今回の演説のように広範囲で使った場合しばらく使用ができなくなるのです。ですからアンドレーはそこを狙ったのだと思います」

「ルカ」

 今まで必死で映像を見ていたルイが私の名前を呼んだ。それからポケットから出した焼き菓子を口にいれた。
 映像魔法陣を見て、これだけの魔法を使っているから相当体力を消耗しているはずだと思った。

「僕はアンドレーが国王陛下暗殺をしようとしていると考え、それを阻止するために動いている」

 ルイは顔を上げ、私の瞳をみてゆっくりと頷いた。

「今、アンドレーの考えを聞いてルカは何を思った? 」

 ルイの問いにすぐに答えられなかった。正直迷っている。
 国王の魅了魔法があれば、今までと同じ生活ができる。しかし、民は……。民を解放すべきだと思っている。しかし、解放すれば今までの不満が爆発して暴動がおきるかもしれない。

 それを抑えることができるのか。

 いや、“抑える”なんて考えている時点で違う。抑えてはいけないものだ。

「私は自国の民を解放すべきだと思う」
「僕は、民は解放したい」

 ルイと私が同時に言った。

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