上 下
125 / 146

アンドレーの強さ

しおりを挟む
 王族の私室に向かいながらルイに焼き菓子を持っているかルイに確認したらちゃんと準備していた。流石だ。それがあればルイの空腹を気にせずに魔法陣発動ができる。
 私自分の髪に触れ、血を手につけた。その血でルイと私の服に魔法陣を書いた。
ルイには特に許可をとらなかったが何も言わずに見ていた。

「緊急事態になったら発動よろしくね」

 そう言って書いた魔法陣を1つ1つ説明した。ルイが頷きながらその魔法陣を確認した。血で書いた魔法陣であるが書き終わりしばらく立つととすっと消えてしまった。

「書いた魔法陣がきえたよね」

 以前、紙に書いてあった魔法陣は消えなかったはずだけど……。でもあれは、書いてすぐにルイに渡してしまった。時間が経過したあとを確認していない。

「消えてないよ。血文字の魔法陣があるよ」

 ルイはいつもと変わらない様子で答えた。魔法陣が見えるルイに聞いても消えたかどうかなんてわかるわけがない。
実験として、私は自分の手に魔法陣を1つ書いた。その魔法陣には魔法陣が見えるという設定を加えた。すると、魔法陣は私の手に書かれたまま消えない。
ルイに確認すると私が見ない魔法陣と同様に見えるというのだ。
 なるほど、基本は消えるが消えない設定もできるということか。そしてルイの目が特殊なのであろう。

 王族の生活棟に向かう途中に多くの騎士が倒れていた。息ある者もいたため助けたかったがアーサーに加勢しなくてはいけないと思い目をつぶって進んだ。
 王族の生活棟に入ると私たちは言葉を失った。本来、この棟は長い廊下がありそこにいくつかの部屋の扉がある。しかし、今目の前には廊下はあるものの部屋の扉がない。部屋もない。柱もない。
 ただの大きな広間となっていた。部屋の壁だったものが瓦礫となってきた。
奥でまた大きな音がしたため、足を進めるとそこには2人の人影があった。一人はアーサーだ。頭を切ったようで金色の髪が赤くまだら模様になっている。
 アーサーは手を広げ、そこから氷の塊をだすともう一つの影に向かって打った。しかし、影は気にせずに剣をアーサーに向け、突き進む。塊は影を前にして砕け落ちた。
 アーサーは影の剣を手から出現させた氷の剣で受ける。受けたところが欠けて氷が飛び散った。
 
「アーサーの氷が砕けたのは防御壁の魔法陣? でも魔法陣書いてないよね」

「魔法陣なしで発動した」

ルイは眉を寄せ、口を強く噛んでいる。焦っているようにも感じた。
私たちはアーサーと影の戦いを目で追うのがやっとであり加勢ができず、立ち尽くし見ていることしかできない。
 ルイはそれが悔しかったようで拳をにぎりしめていた。私だって同じ気持ちだ。同等に戦えると思っていた。

アーサーと影の場所が入れ替わり、影の容姿が見えた。金色の髪に青い瞳。国王陛下とそっくりだった。しかし、目つきは鋭く怖さを感じる。予想していたのもあり、すぐに誰だかわかった。

あれが国王の弟、アンドレー……。

「貴様」

突然、アンドレーが私の目の前に現れた。さっきまでアーサーと戦っていたはずなのに、今は触れられる距離にいる。アーサーが遠くで固まっているのが見える。
アンドレーは剣を腰に収めると私に手を伸ばした。自分よりも遥かに大きな人間に睨まれ身体が硬直した。自分の手が震えているのが分かる。

 ルイは危険を感じたようですぐに私の服に書いた防御魔法陣発動した。しかし、アンドレーが手で触れると防壁は簡単に壊れた。

「―ッ」

 アンドレーに圧倒的な差を感じた。絶対に勝てないと思ったがさっきの移動速度を見たら逃げきれるわけがない。
 アンドレーは眉を寄せて私を見ている。手も防壁を壊したところで止まっている。何かを考えているようだ。
 私は震える手を叩き剣を抜いた。そのままアンドレーの腹部に向かって切り込んだが腹部に到達する前に片手で止められ、剣はびくともしない。

「ウッ」

 全力で動かすが微動だにせず、剣はお菓子のようにポキリと折れた。
 いや、アンドレーが折ったのだ。

「この程度か」

 アンドレーはあきれた顔をした時、彼の背後からルイの姿が見えた。彼は剣を振りかざしアンドレーを切りつけようとした。しかし……。

「ゔっ」

アンドレーに触れることはできず何かに弾かれたように、勢いよくアーサーの方に飛んで行った。

「あぁぁぁ」

 ルイの叫び声と大きな音がした。ルイが壁に衝突したのだ。そして、壁にぶつかった衝撃で、床に頭から落ちた。それから動く様子はない。
 アーサーが慌てて、ルイに駆け寄る。
アンドレーは私の方を見たまま「ガキが」と言って鼻をならし、私の胸ぐらをつかみアンドレーの顔まで持ち上げた。

 首がしまる……。

 足をバタバタと動かしあばれるがびくともしない。

「この血はなんだ」

 アンドレーが眉を寄せ、私の服を掴んでいない方手で髪を引っ張る。私はその痛みで眉を寄せた。

「この髪の血はなんだと聞いている。ハリーを殺したのか」

 アンドレーは大きな声で怒鳴り、私をアーサー達とは逆の方向に投げつけた。抵抗も受け身もする事ができず、背中から壁にぶつかった。髪を引っ張られた痛みとは比べようのない殆どの激痛が全身に走った。そのまま、頭から床に落ちると動くと事が出来なくなった。
 
「う……」

 意識はあるが身体に力が入らない。
 無理やり顔あげると、アーサーが氷の剣を持ちアンドレーに切りかかっていた。それをアンドレーは剣で受け止めている。

ガッ

 アーサーは後ろに下がり剣をアンドレーに向かって突き刺す。アンドレーは避けた様に見えたが頬にあたり、血が流れていた。

 アーサーもアンドレーも私が瞬きする間に広間の端から端までを移動することができるようだ。
 
 魔法陣?

 彼らは魔法陣を発動している様子がない。以前私がやったように魔法陣を書かずに発動しているのか。もしくは私が見えないだけなのだろうか。
 ルイならわかると思うが、倒れたままピクリとも動かない。

「いっ」

 アーサーの氷の剣が、私の真横を通り壁に刺さった。余りの驚きに声が出てしまった。声を出したことで胸が痛んだ。どうやらアバラがダメらしい。
氷の剣はアンドレーに弾かれたようだ。一瞬目を離しただけで戦況がどんどん変わっていく。アーサーはいつも見えないほど細い目をずっと開いてアンドレーを見ている。
 どうやらやばいらしい。
 すこしでもアンドレーの注意を引ければと思い、必死に口を開いた。
「ハリーは……」

 言葉を出すだけで胸に激痛が走る。すこしでもアーサーの力になれらばいいと思い必死に口を動かした。
 予想通り、私の言葉にアンドレー反応した。青い目を大きく開き私を見るとその顔に恐怖を感じた。
 
だけど、臆するわけにいかない。

アーサーが再度氷の剣を出してアンドレーに振りかざすと、私を見たままアーサーの剣を避ける。そして、私から目を離さず滑るように近づいてきた。

「ハリーの……う、うでを……おとして、それ……から彼は消えた……」

 私の言葉が終わらないうちにアンドレー消えた。アンドレーがどんな表情をしていたが見えなかったが、ハリー・ナイトを心配して向かったのだろう。

 よく分からないが助かったようだ……。
 安心すると、眠気が襲ってきた。アーサーが何か言う声が聞こえたが、睡魔に負け目を閉じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...