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重症

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 騎士館へ行くとそこは静まり返っていた。ひたすら騎士を探したが全く会うことができない。私は焦って走り回ったがいない。

 トーマス騎士団長……。

 彼の事を思うと涙がでてきた。顔をぬぐった。すると、拭いた腕真っ赤になっていることに驚いた。

 ハリー・ナイトの血だ。
 自分の姿を見ると所々赤い。

 しかし、今はそんな事を気にしている場合ではない。どうしても騎士が見つからないため転送魔法陣を書いて石板の部屋に戻った。
 すると、目に入った光景に驚いた。トーマス騎士団長のところに騎士がおり手当を行っているのだ。そしてその横にはおじさんがいた。

「おじさ……オリビア嬢」

 意外すぎる人がいて思わず、いつも心で呼んでいる呼び方をしてしまった。

「戻られましたか」

 おじさん呼びに対して何も言われず、笑顔で対応してくれた事に安心した。しかし、なぜ彼がいるのだろう。これだけ騎士がやられているのだから安全な場所に保護されていると思っていた。彼自身の逃亡もそうだが緊急事態の時も考え護衛騎士を側に置いているのだ。

「なんで?」

「窓からルカ第二王子殿下が戦われている姿が見えました」

「いえ、そうではなく何故、避難しなかったのでしょうか。騎士に言われませんでしたか」

 私の言葉に暗い顔して下を向いた。そして小さな声で何かを言った。私は聞き取れずに聞き返す。

「隠れていました。次々騎士が倒れ怖くなりました。護衛の方も動くと見つかるかもしれないと……」

 そこまで言ってからおじさんは顔あげた。そして眉を下げて謝罪した。
 その謝罪の意味が私には分からなかった。魔法陣を使う侵入者が現れたら避難するのは当たり前だ。落ち込むような事ではない。
 トーマス騎士団長を助けてもらった。礼を言うのは私の方だ。

「私は初めて殿下にお会いした時、中身が女性だからと女性らしさを求めました。その件について謝罪をしましたが本気で悪いとは思っていませんでした」

 だろうね。ルイに“謝罪しろ”言われた事は明らかであったしね。その事についてもうどうこう言うつもりもない。

「数時間前突然の爆発音がしたのです。そこへ騎士たちが向かったのですが爆発の犯人をとめる事ができずに……。私は騎士に守られて逃げましたが、見つかる可能があると一緒にいた騎士が判断したため隠れました。男の私は逃げたり隠れたりしたのに殿下は立ち向かいました。殿下に女を求めましたのに私は男として……」

 爆発の犯人?

 おじさんがたくさん言葉を並べていたが“爆発の犯人”という言葉が引っかかり、それ以外の話が頭に入ってこなかった。
 確か、アーサーはあの時"侵入者"と言っていた。投獄されていたハリー・ナイトは侵入者ではない。外にいたから脱獄犯だ。彼はその爆破によって牢獄をでたのだろうか。

「爆破の犯人って?」

 様々な言葉を並べているおじさんに声をかけると「え」っと言って言葉をとめた。一刻も早く"爆破の犯人"について知りたかった私はおじさんの肩に両手をのせ話の続きを急かした。その手に力が入ってしまったようでおじさんは顔を歪めた。

「いっ」

 私は慌てて手を離した。そして謝罪をしようとするとおじさんは人差し指を立てて私の口元に持ってきた。“あやまるな”ということだろう。この世界のルールを学んだおじさんが助け舟をだしてくれた。
 王族めんどうくさい

「爆破の犯人ですよね。えっと……私はよく……」

 彼の話の途中で大きな音がした。
 私は慌てて窓から外を見るとまた音がした。おじさんも同じ様窓の外を見ている。
 その音は王族が生活している棟からであった。すぐに棟に向かおうとすると服を引かれ後ろに下がった。服を引いたのはおじさんである。

「私は急いでいる」

「危険ですよ。騎士たちがなんとかしてくれます」

 魔法陣を使う相手に騎士が勝てるはずがない。私とハリー・ナイトの戦闘を見ていただろう。彼に普通の剣はまったく効かなかった。だから騎士団長ですら重症を負わされてしまったのだ。しかし、魔法陣を使える私ならば抑えるくらいはできるかもしれない。
 そんな説明をする時間も惜しかったため「離して」と言ったが服を離してくれない。

「爆破の犯人は1人で大勢の騎士を倒したのですよ。殿下が死ぬかもしれません」

「構わない」

 魔法陣を使い、ハリー・ナイトを助け王族の生活棟を狙う人物なんて一人しか心当たりがない。アーサーが向かうと言っていたが彼は魔法陣を使うと疲れるようある。だから応援に行かなくてはならない。
 そんな私も結構魔法陣を使っているからいつ倒れてもおかしくはないと思う。
 戦いに参加したら死ぬかもしれないが、参加せずアーサーが負け城を乗っ取られたら王子の私は殺されるだろう。

 どう転んでも死ぬのならば全力を尽くす。
 だいたい戦って散る方がカッコいいよね。


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