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揺れ動く心

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 王族の内通者がいるとして、該当者が思い当たらない。ルイも同じよう思っているらしく焼き菓子を口に入れながら頭をかいている。

「内通者いるのかな。大体、今の王族血縁者はフィリップ国王陛下、アーサー法務大臣それと僕らだよ。あり得ないじゃないかな。今は城にいない王族が怪しい。もしくは元王族とか」

「今の健在で城外で生活しているのは叔祖母のグレース殿下だけよね。でも彼女はアーサーの母上だよ。闇市に関わるかな」

 私達の祖母であるイザベル女王の妹で前摂政のグレース・アレクサンダー・エドワードの事を私は叔父の話でしか知らない。その名前がでるとアーサーは必ず苦い顔をするのだ。母上が苦手なのだろうか。
 叔父は叔祖母を心のそこから信頼しているようであり、尊敬している。叔父は摂政になる時にグレース殿下の側で学んでいたから関わりが深いだろう。
 叔父が信頼している方だから闇市に関わっているとは疑いたくはない。

「どうだろうね。叔祖母については記憶があいまいだからどんな人か検討つかないだよね。直接話すのが一番早い方法じゃないかな」

 焼き菓子を口に入れながらルイは返事した。たくさんあった焼き菓子がもう半分以下になっている。確かに初めて発動した時のような食欲はみられないがそれでもたくさん食べていると思う。そんな話をしても仕方ないので視線をお菓子からルイに戻す。

「そうだね。けど……そんなに気軽に行けるかな」

 それでなくても王族の訪問というのは護衛手配など準備に時間が掛かる。前世の様に身一つで出かけられたらどんなに楽かと何度も思った。
 そもそも国王たちに出された課題をこなさなければならないに、ハリー・ナイトについて分からないことばかりだ。
 このままでは裁判なんて絶対にできない。

「そうだ。これから国王陛下にところに行くんだよね。食事にしようか」

 ルイのその言葉に時計を見て焦った。まだ何も決まっていないのに時間だけが過ぎていく。映像魔法陣の方を見るとハリー・ナイトも食事をしていた。「もういいかな」と言いルイは映像魔法陣に触れると画面が消えた。そして魔法陣が書いてある紙に戻った。
 一年前、魔法陣に関心がなかったルイが、今では完璧に使いこなしている。それに比べて私は一年前と大して変わらない気がした。いまだに、魔法陣を発動すればすぐに体力を消耗して眠くなってしまう。剣術だってルイにたまに勝てるくらいだ。今までの提案だってルイがほとんどやってくれて……私は年上の記憶を持つのに何もできない自分が情けなくなった。

「ルカ?どうしたの。顔怖いよ。国王陛下たちから出された課題について心配している。なら大丈夫だよ。きっと彼らはすぐに結論を求めていない」

 心配そうにルイが声を掛けてきた。気づくと怖い顔をしていたようである。私は首を振り「大丈夫」と伝える。今はこんなことを考えている場合ではない。考えなければいけないことがたくさんある。
 ルイの能力に嫉妬している時じゃない。ちゃんと前を向かなくてはならない。

「ルカ。違うよ。僕らは本音で話すだよね」

 私の胸の内を見透かしたように見るルイの瞳は“ごまかしを許さない”と語っている。“本音で話す”は私がルイに言った台詞だ。ここで破るわけにはいかないが、今の気持ちを話すのは恥ずかしく感じて下を向いた。
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