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黒髪のホワイト兄弟

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 アーサーが部屋を出てからすぐにフィリップがテーブルに頭をつけた。安心したようで「良かった」とつぶやいた。

 「何も変わってないわよ」

 安易な考えのフィリップにため息がでる。現実は何も変わっていなく、ただアーサーに諭されただけだ。
 フィリップは、教えられば問題には満点の成績を取ることができる優秀な生徒だ。ただ、それだけと言えばそれだけ。答えがない問題にはとても弱く最終的には現実逃避をしてすべてを捨てようとする。更に、彼の一番危険なことは依存性の高さだ。姉の死んだときのことを事を思い出すだけでも背筋が凍る。

 今は私は心を許してくれたようで安定している。
 この依存性についてはアーサーを見ているとアレクサンダー家に共通するものだと思う。
 
 「でも、アーサーがなんとかしてくれるよ」

 そりゃするでしょうね。フィリップはわかっていなかった様ですが私もお願いしましたから。
 アーサーは頭の回転がよく武術にもたけている。フィリップは幼いことから彼に対して絶対の信頼があるようだ。

 「だから安心してね」

 私の手を取り微笑むフィリップに私の頬が赤く染まる。フィリップは年を重ねても可愛いままである。そして重ねるごとに魅力的になっている。アレクサンダー家の容姿で魅力されない人はいないのではないかと感じる。我が娘も私の黒髪に黒目を引き継いでいるが顔の作りはフィリップそっくりであり可愛い。
 
 「あまり、彼を呼び出さない方いいと思うわ。さっきも不機嫌でしたわ」

 「しかし、アーサーに……」

 最後の方は声が小さくなり聞こえない。
 フィリップは昔からアーサーに頼っていたらしい。アーサーはフィリップの事をよく面倒くさいと言っていた。
 私がフィリップと出会ったのは成人してからだが、アーサーとは幼い頃に出会っている。今でこそ頼りにしているが当時は嫌っていた。

 アーサーが現れたのは私が学生だったころだ。
 
 私と弟の母はこの国の出身ではない、だから私はあの国特有の黒い髪に黒い瞳を持つ。弟にもその特徴が現れていた。
 この国は身分制度がなく努力すれば大統領になれ怠れば浮浪者に落ちる国であるが平等ではない。身分がないだけで貧富の差や差別はある。富がなければ働かなくてはならず、学びにかける時間が減ってしまう。
 
 元大統領の娘として産まれた私は恵まれている方であった。
 この容姿は差別の対象となると共に希望にもなると父と母に何度も言われた。
 父はある程度のことは自分で対処できるようにと、私と弟に第一夫人の子ども同様、剣術や体術を学べる環境を作り学習面に置いては家庭教師を準備してくれた。
 しばらくは家庭教師から学んでいたが、私はこの容姿で生きていく以上家族以外に私を認めさせなければならないと感じていたため、十歳になった年に第一夫人の子どもと同じ学校へ通わせて貰う事になった。

 私の家族は本当に良い人ばかりで第一夫人もその子どもも私を心配してくれた。特に義姉であるエマは通学当初は授業以外殆どそばにいてくれた。義兄レオンも入学して1年間は送迎をしてくれた。そのおかげで直接何かされる事はなかったが同級生との距離はあった。
 
 好奇の視線。
 
 わざと聞こえるように話す噂。

 私が触れた物に触れようとしない者。

 同学年の保護者が私の通学を反対して学校に抗議したこともあったが、私がこの国の人間である以上学ぶ権利がある。
 学校側は私も含め生徒に学ぶ場を与えるが人間関係については関与しない。だから、学校で差別や攻撃を受ける受ける者いる。しかし、我が国は年齢が低いからと言って法を逃れる事はできない。暴言をはけば名誉毀損であるし暴力をふるえば傷害罪である。被害者が届けをだせば警察が捜査し裁判になる。
 
 裁判までいけば新聞に実名が載る事となる。

 家から出るということはかなりの自己責任を求められる。そのため責任がとれると判断された子どもが学校に行くので自然と年齢の高い子どもが集まる。大抵十歳から十二歳ごろに入学するのが一般的である。費用がかからなく入学条件が我が国の二十歳までの子どもであるため、通学する子どもの家庭状況には差があった。
 この学校は我が国らしく年齢でクラスを分けずにテスト結果で一学年から十学年まで分ける。毎月のテストで学年が入れ変わり、更に一週間に一回のテストで学年の中で組み分けされる。人数制限はないのだが最も難易度の高い十学年の十組はいつも全員の5%程度しか在籍していない。なかには一学年のまま二十歳を迎え卒業する子どももいる。

 二十歳の時に在籍していたクラスにより就職が大きく変わるのだ。
 この容姿で周囲に認められるのはそこで最高学年になる必要がある。

 通学して家庭教師との差に驚いた。教師は学生の理解度に合わせることなくその学年にあった難易度で授業を進めていく。課題も出るが提出義務はなく教師が確認することはないが課題以上のことをこなしていかなくては次の授業についていくことができない。授業は月末までに次の学年に内容につながるようになっているため段々高度になっていくのだ。だから、月末テストで理解できないと判断されれば同じ学年もしくは学年が落ちる。

 本当に容赦がない。

 近いうちに弟が入学予定であるがあまりやる気がないのが心配である。入学テストで高得点をとることができればいいが上手くいかずに一学年にはいった場合悲惨である。私の通学抗議があったのは一学年の時である。しかし、ここで騒ぎを起こし学業以外のことに時間を取られてしまうのがいやで我慢した。
 
 学力の低さは知性の低さと比例するのだと思った。

 五学年になってからは友人ができないまでも誰もが普通に会話をしてくれた。五学年にいる私年齢は少ないため一目置かれ始めたのが要因である。

 「オリバー勉強好きじゃないしね」

 私は嫌いではないがテストというのが初めてで上手くいかずに入学当初一学年になってしまった。もし弟が学業に興味が持てないのであれば通学せずに家庭教師でもいいと思ったが、それだと学歴がないため就職に影響する。

 考え事をしていたせいか気づくと自宅の前にいた。

 いつもは静かな自宅であったが花壇の方に人影があり話し声が聞こえた。来客とは珍しいと思いながら花壇に近づくと言葉を失った。弟が花壇に押し寄せられ、至近距離にいるのは見たこともない金髪の少年。

 恐喝されている。

 考えるよりも体が先に動いた。落ちていた枝を拾い少年に投げつける。枝はすごいすごいスピードで飛んでいき少年のほほを掠めた。驚きで動けなくなっているのを好機と思い、助走をつけて飛び上がると少年の顔目掛けて飛び込むように蹴りをいれる。しかし、それは寸前のところでかわされてしまう。

 「なん!!」

 少年は声を上げるが特に気にせずに、着地した足を軸に体を回転させてながらしゃがみこんで少年の臑を蹴る。それにバランスを崩し声を上げながら少年が倒れるとそのまま少年に馬乗りになり両手を抑える。少年が抵抗をするのをやめたことを確認すると「誰?」と問う。
 
 睨みつけると少年は何が何だか理解できないようで目を大きくしてキョロキョロしている。金色の髪に青い目。この国の人間の特徴を持っているが顔が整いすぎている。
 
 あまりに綺麗な顔に自分の顔が赤くなるのを感じた。

 これは敵、敵なのよ。

 頭をふるい、気持ちを落ち着かせる。

 「大丈夫?」

 心配して弟の方を見ると固まって動かいない。

 「オリバー?」
 「え?あ…姉さん?」
 
 私の声に瞬きをして、意識を取り戻す。私の下で少年が助けを求めるようにオリバーを見ている。

 「あー、姉さん。“それ”知り合い」
 
 私が敵だと思って攻撃したことを察したようでどこか呆れたように話す。
 
 「はなしてもらってもいいですか」
 
 私に抑えられている少年は眉を下げて懇願する。早とちりしてしまったことに対して恥ずかしくなり顔を赤くして少年の上から降りると自分のスカートを払った。

 私は背筋を伸ばし、両手でスカートを整える。そして深呼吸をしてから私が押し倒したままになっている少年をみた。本当に悪いことをしてしまったと思い眉を下げる。

 「失礼いたしました。私はオリバーの姉である、エマ・ホワイトです」

 気持ちを切り替えて、貴族ではないが元大統領家らしくスカートの裾を両手で持ちおじぎをするが相手の反応はいまいちである。いきなり攻撃を仕掛けてきたやつが丁寧に挨拶しても今更だと思われているのだろう。仕方ないことだが気持ちが沈む。

 「・・・」

 沈黙。

 弟は何も言わずに私を見つめている。すこしくらい姉を助けてくれてもいいと思うがそんな様子は全
くない。少年は立ち上がり、服を叩いてこちらを見ている。私がその場にいるにはどうにも気まずくなっていると少年は目を細めてニコリと笑顔を見せてくれた。

 「アーサーです」
 
 反応があったは嬉しいが、彼は名前しか名乗らないことが不思議であった。身なりは我が国の平均的な家庭の服装をしている。だから家名があってもいいと思った。我が国は貧富の差が多少あるが両親がいない子どもは施設での生活支援がある。そこで名前や家名となるものをもらうことができるはずである。

 素性を隠したいのか。

 珍しい容姿をしているしており元大統領の息子という肩書を持つ弟はよく父の知り合いから声を掛けられていた。適当に相手をすればいいがそれができない弟は次第にあまり人と会わないようにしていた。そんな弟が知り合いだと紹介したのだ。

 私の知らない知り合いがいる時点で驚愕であるがその相手の容姿があまりに整いすぎてるのだ。まるで隣国の王族のようである。あの国の王族は我が国の国民と同じ金髪碧眼であるが他の目を惹く容姿をしているらしい。隣国の文化を否定する我が国の国民であるが王族の容姿を一目見たいと思っている者も多い。それほどまでに有名なのだ。

 私は女王の絵姿しか見たことがない。美しすぎているためが、実際は別人を描いているのではないかと疑っている。しかし、目の前にいるアーサーという少年は面影がなくはない。

 「姉さん、見すぎ」

 あまりにアーサーの顔をじっくりと見てしまったため、弟にため息をつかれる。アーサーも困ったように眉を下げている。先ほど大きく開かれていた目は今は細くなりほとんど青い瞳が見えない。さっきから私はもしかしなくても恥ずかしい女なっていたようで穴があったら入りたいを通り越して埋まりたい。
 アーサーは目が細くなったことで隣国の女王とは違う印象になる。

 気のせいだわ。

 「失礼いたしました。お美しいお顔が隣国の女王に似ていたため見入ってしていまいました」

 実際入れる穴はないため、丁寧にお辞儀をして謝罪した。変に言い訳をして誤解を生んでしまうのは誰にも得はない。素性はこれから確認する必要があるが弟と良好な関係であるならば関係を壊す原因になりたくはない。しかし、謝罪をしても返答がない。私は怒らせてしまったかと慌てて頭を上げる。
 そこには言葉を失い、私をじっと見る二人の姿があった。彼らの表情は怒っているというよりも困惑しているようであった。

「どうなされたのでしょうか」

 私になにか不備があったのかと思いアーサーに確認する。アーサーは申し訳なさそうな顔してして弟、そして私を順にみる。弟が唸りながら、アーサーを見ている。
 何か言いづらい事があるのかと思い私は「その事を秘密にする」と伝えると弟は身を乗り出して私に聞いてきた。

 「え、じゃ、もしもだよ。隣国の魔法陣が使えて秘密を話したら死ぬみたいな魔法をかけていいの?」

 現実的な弟がもしもの話しをするのは珍しく目を見張る。しかも魔法陣ときた。確かに隣国の魔法陣は有名であるがあれは隣国でも王族しか使えない。そう使えない。なんとなく弟の言わんとすることが分かったような気がした。

 「いいわ。可愛い弟のためになるならね」

 私の言葉にオリバーはアーサーを見る。すると彼は頷き、地面に手をかざす。すると大きな円の中にびっしりと文字が書かれたものが浮かび上がった。

 これが魔法陣なのかしら。

 私が驚き動けずにいると弟が私の手を引き魔法陣に載せる。アーサーは私と弟が魔法陣に乗ったの確認すると今度は人差し指を自分の前に持ってきて私には読めない文字を書き丸で囲む。するとそれが光り魔法陣となる。

 「これから僕が見せる事及び話す事を誰かに話そうとしたり、伝えようとしたりする行為があった場合エマ・ホワイト殿、貴女の声と視界を頂きます。承諾するなら魔法陣に触れて下さい」

 命ではないのね。まぁそれくらいならいいわ。

 躊躇することなく、魔法陣に触れる私にアーサーは一瞬青い瞳を見せた。驚いているようだった。何に驚いているのか不明だった。契約承諾は発動前に彼に伝えていたことである。それを間際になって反故にするような人間に見えたのなら侵害だと思った。
 
 「契約終了」

 アーサーは魔法陣をおすような動作をするとそれはゆっくりと移動して、私の中に入っていくのが見えたが特に痛みや違和感を感じる事はなかった。まるで煙の中を通ったような不思議の感覚があった。手や足を動かして身体に異常を確認するが問題はないようである。本当に今の物の私の視界や声を奪う力があるのか疑問の思う。

 「改めてまして、僕はアーサー・アレクサンダー・グレースです。隣国の摂政の息子で、女王の甥です」

 私の動きを気にすることなく、姿勢を正して丁寧に挨拶をする改めて名乗られて本物なのだと思ったがあまり実感がなかった。確かに綺麗な顔で魔法陣をつかうが平民も服を着ている。王族っていうのはもっと遠い存在であると思ったがアーサーは普通の少年に見えなくもない。

 「今、のっています魔法陣で私たちの姿も声も外には聞こえません。契約して頂きましたのでなんでもお答えします」

 「アーサー王子殿下、その前にまず敬語をやめて頂けますか。私の事はエマとお呼び下さい。私は平民です」

 王族、貴族制度のない我が国の民は全員平民である。しかし、私が王子様に敬語を使われる身分ではない。

「オリバーのお姉さんだね。面白い。じゃ僕にも敬語はやめてね。そしてアーサーと呼んでほしい。オリバーもそうしてるんだ」

 王子様に敬語なしで呼び捨てなんてそんなことはとてもできない。オリバーはなぜ承諾しているのか分からない。「僕も平民だよ」と軽く王子様は言う。なんていうか彼は軽いのだ。彼の才能とか実力とかというより彼自身から発せられる雰囲気が軽い。だからつい”本当に?”と思ってしまう。
 彼のが自分の平民という意味は、身分を隠して我が国入国しているという事だろうか。それならば、弟が敬語を使わないのも納得できた。しかし、入国理由が気になる。

 「貴方は我が国の民ではありません。しかし、私が敬語を使う事で貴方が王子様だと周囲にバレる可能性がありますので受けれます」
 
 私が話し終わらないうちに王子様はお腹を押さえて笑いだす。なぜか弟に視線を向ける。弟はばつが悪そうに私を見ている事から笑っている理由を察することができた。これはよく身内に言われる言葉でもある。その都度、弟は不愉快になっていた。同じ環境で育ったのだから仕方がないと思う。
 
 「あーオリバーと同じ台詞を知ったのかしら」

 「流石に兄弟だね。台詞だけではなく言葉と視界を失うというのに躊躇なく魔法陣に触れたのも同じだよ」

 視界や言葉がなくともいくらでも学ぶ方法はあるし、政に関わるのは今より困難になるが不可能ではい。そんなに問題視することではない。その考え方も弟と同じであったのかと思うと父に関心した。私たちの原点は父である。兄弟が同じ考え方をしているのであればそれは父の思考かなと思う。

 「絶対に話して欲しくない事について説明するね。きちんと話した事柄の方がより強い契約になるから」
 
 アーサーの言葉に頷きながらオリバーの方をチラリと見ると私の気持ちを察し口を開いた。

 「私も契約しているよ。そして知ってる話」

 相変わらず、表情をうごかさずに答えた。幼い頃はよく笑う子どもだったが他者を避けるようになってから顔の筋肉を動かさなくなった。自分の感情を他人に知られたくないようだ。家族は良いと思うがここ数年あの顔しか見ていない。それに対してアーサーのずっと笑顔だ。

 「魔法陣ってのは我が国の王族なら大抵発動できる。けど、僕がやったみたいに魔法陣を出現させたり作ったりすることのできる人間は限られているかなぁ。契約魔法陣は僕の創作なんだ。それができる人間を僕は他に知らない」

 なんでもないように軽く話しているが王子様って凄い人なのかと思う。そして自分の能力が一番に伝えるということは一番知られたく事なんだろうと思う。

 「ちなみに僕が創作魔法ができる事はここにいる人しか知らないよ」
 
 知ってる人間が少ないだろうとは思ったが自国の身内も知らないと言うことに驚いた。自分の手の内を開かすことを躊躇させる隣国の王族は大変だなと同情する。それにアーサーの言葉から察するに魔法陣の研究が行われていないように感じた。自国独特の文化を研究しない国などあり得ないとすぐに考えを変えた。
 
 「我が国は産まれた瞬間に人生が殆ど決まるからね。不満に思って行動を起こす人がいるよ」
 
 つまり信頼できる人間が作りづらい環境とだと納得した。きっと何か辛い事が起きたのだと彼の言葉尻から想像できる。身内が信じられない場所で生きてるのは大変だと同情する。
 
 「そうだ、なんで王子様がオリバーといるの?」
 
 「王子様ね。まぁいいけど。オリバーといるのは好きだからだよ」

 暗い雰囲気を変えようと別の話題をふったら予期せぬ答えたに面食らった。オリバーを見ると珍しい事に顔が赤くなっている。「だから、オリバーを愛しているだよ」と私に聞き間違いがないかどうかを確かめること言ってきた。
 聞き間違えはしていない。聞こえてもいるだだ理解が追い付かないだけである。
 
 更に赤くなり下を向く弟をアーサーが抱き寄せると「やめろ」と怒ってアーサーの手を叩いていた。
 
 「オリバー、貴方表情だせるじゃない」

 私の言葉にアーサーが「最初から表情豊かだよ」と答えながら嫌がる弟の頭をニヤニヤしながなぜている。何を見せられているのかしらという気持ちになる。兄弟の逢瀬に興味はない。大きなため息をつき二人を見る。

 「睦み合うのは二人の時間にして欲しいわ」

 「違う。そんなんじゃないよ」

 真っ赤な顔のオリバーに睨まれても全く迫力がない。いつもの無表情の方が威圧的で凄みがある。
 
 「えー違うの?もう半年も毎日会いに来てるのに」

 「半年?毎日?暇なのね」

 隣国の王族は大変なのだろ思ったがどうやらそうでもないらしい。毎日我が国に遊びにきても生活に困ることはないのだろう。さすが王族だと思う。さっきの同情する気持ちを返してほしい。

 「いやー半年間忙しかったよ。王位継承者の弟が王位が欲しくて兄の暗殺未遂。城の雰囲気悪いのなんのって。あー、この二人は僕のいとこね」

 相変わらず世間話をするようにヘラヘラと笑いながら話すその内容に驚愕した。更に従兄弟が暗殺事件にあっているのに気にする様子がない王子様に呆れる。事件後すぐにしかも弟に会いにくるとか本当に王子様の神経を疑う。
 自分はこの11年間親しい友人をつくる事なく走り続けてきた。それなのにこの男は暗殺事件があり自国が大変な時期に弟が好きだと毎日遊びにきてるようだ。
 彼は恵まれ容姿、恵まれた能力、恵まれた環境それらに胡座かいて努力をしない。何もしなくても将来路頭に迷う事はないのだ。

 私の中をザラザラしたものが通っていき、気持ちが悪くなった。

 「話は分かったわ。私はもう戻る。それでは。オリバー、貴方も友人は選びなさい」

 “王子様”という言葉に力をいれて挨拶した。睨むつもりはなかったが眉間にシワがよってしまったためそう見えたかもしれない。隣国の王族になんと思われようと構わない。

 弟も隣国の王族なんかに近づいて欲しくなかったが、それは私が口を出していいことではない。例え弟であっても私は考えを押し付けるわけにはいかないのだ。学校へ入学するのだから、彼は自分で決めた事の責任をとっていかなくてはならないのだから。


 ただ、私は王族にもう会いたくない。



 夕食が終わり自室に戻ると部屋の前に弟が立っていた。

 庭でわかれてから夕食も含め弟とは口を聞いていない。なんとなく気まずかった。弟は口数が少ないから一回も会話しない日なんてよくある事だが、今回は私が意識して話をしなかった。
 
 「入れて」

 表情を動かさなずに私の部屋を指差し要求だけ突きつけてくる。王子様と一緒の時とは大違いだ。

 私が頷くと部屋を開け、入っていった。私が入室するとすでに椅子に座っている。ため息をつきながら私もテーブルを挟み弟の目の前に座る。
 
 「そのため息の意味は?」
 
 「え?あーさっきの事話したいのかなって思ったら気が重くなったのよ。」

 私ははっきり言ってあの国の王族に良い印象は持っていないし、さっきあった王子様に対しても良い感情は抱く事ができなかった。

 「良い奴だよ。」
 「そう」

 別に良くても悪くても構わないし、弟の交友関係に口を出す気ない。契約をしているから聞いた話は墓場まで持って行く予定だ。

 アーサーが弟を好きだと愛しているだと言っていた事が気にならなくはなかったが相手は王族。そもそも隣国と我が国は同盟国であるが友好的ではない。

 子どもの戯れ言のね。


 「………」


 弟が私の台詞から十数分以上何も話さない。

 ただ、じっと表情を動かさず私を見ている。本物はこれ以上王子様の話はしたくないのだが可愛い弟のためだから仕方なく口を開く。

 「私はこれ以上彼と関わる気はないわよ。だけど、貴方が関わる分には何も言わないし、契約も守るわ。」

 私の言葉に頷くとまた沈黙だ。思わずため息がでる。弟と会話をするのは本当に難しい。

 言いたい事があるのだろうが、全て目で訴えようとするのだ。その証拠に椅子に座ってから一度も視線を外さない。
 あの男が弟と半年程度関わっただけで、弟の表情や言葉を引き出していた点は凄いと思う。

 「あ、もしかしてオリバー、あの王子様に魔法陣で何かされたの?」

 「え?」

 目を大きくした。今度は表情を動かすほど驚いたらしい。
この弟と仲良くなれるなんて魔法陣で何かしたのかも知れないわ。

 「姉さんと同じ契約だけだよ。」

 「そんなの分からないじゃない。秘密保持契約といってオリバーの心を虜にするような契約したのかも知れないわ。」


 その瞬間弟の顔が真っ赤なり、バタン音を立ててテーブルに顔をつける。頭から煙が煙が出ているようだ。

 やはり、何か魔法をかけられたのかしら。魔法陣は構造がいまいち分からないのよね。だから嫌だわ。
 
 「虜なったのは魔法陣じゃなくて顔のせいだよ。」
 
 「あ~」

 魔法陣で何かされた可能性よりも納得してしまった。

 隣国では分からないが我が国であんなに整った顔は見た事がない。人間見た目はなく中身だとは思うし、父や母からと言われるが規格外ってのは存在する。

 王族である上にあの顔で魔法陣も扱えるとなれば苦労知らずの人生なんだと思い、また腹が立ってきた。だから、暗殺事件も平然と他国の人間に話せるのだ。

 やっぱり、王子様は嫌いだ。

 「王子様とオリバーがお互い思いあっても他国の人間よ。だいたいあっちは王族よ。」

 「王族…なるほど。」

 何か気づきたように真剣な顔をして頷いている。王族だから一緒にいることができないと諦めたのではなく王族であるから方法があると考えたようである。

 あまりいい予感がしないわ。

 聞きたくないので話を変えることにした。
 
 「だいたい好みなのか顔だけなんでしょ。」

 「え…いや、最初は確かにそうだが…その…」

 そんなわけないわね。

 顔だけの相手に弟が一緒にいたいと思うわけがない。他に彼にとって魅力的な何があるのだろう。それは身分が高いからとか魔法陣の使えるからではないのだろう。

 利益目的での付き合いならば弟の真っ赤な顔を見ることはできない。

 「私には王子様の魅力はわからないわ。」
 「私が知っていればいい。」

 ご馳走様です。

 「で、私の何か言いたいことがあるの?惚気にきたの?」
 
 雰囲気が柔らかくなったところで本題を聞く。本当に手間のかかる弟である。

 「いや、大丈夫。姉さんが姉さんでよかった。」

 さっきと辛気臭い雰囲気は消えつきものが落ちたような顔をしてる。どうせ、王子様と会うことを反対するとか自分を避けるじゃないかと暗いことを考えていたのだろ。

 「私は王子様が嫌い。それは変わらないわ。でもどんなオリバーも好きよ。貴方が過ちを犯しても嫌うことはないわ。」


 表情を動かさずに頷いていたが、なんだか弟の後ろにお花畑が見た。

 翌年、我が弟は私と同じ6学年に入学してきたのだ。

 彼の1年間の努力を見ていたら。嫉妬する気持ちはなく純粋にうれしかった。
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