【完結】腐女子が王子~独身中年女性が異世界王子に転生、ヲタクの知識と魔法と剣術で推しメンの危機を守ります~

黒夜須(くろやす)

文字の大きさ
上 下
10 / 146

この世界で生きている

しおりを挟む
 ルカはこの国では特殊な育児方法で育った。前世の記憶を取り戻した私からすると普通の育児だと思う。そのせいかわかないがルカは人見知りである。

 あの緊張状態がこの人見知りと繋がっているのかもしれないが、 国王との会話も大丈夫であったし深刻に考える必要はないと思った。

 そういえば、幼い頃茶会で出会った令嬢がルカに好意を持ち近づいた。当時ルカは令嬢の思いが分からずただ怖くて避けてしまいそれを同行した摂政に説教された出来事を思い出した。
 そう言う対応はルイがとても上手である。相手を不愉快にさせないが本気にもさせない距離を上手にとる。

 すごいなと思う。ほんと。前世の記憶を取り戻した私でも自信ない。

 感心してルイの方を見ると彼はニヤニヤと笑っている。楽しそうにしていると悪いなと思いながら、一番大切なことを伝えた。

「そうだ、もうひとつ。我が国が崩壊するんだよ」

 ルイの顔が固まった。
 そして、ルイの目が段々鋭くなっていく。
 それから、口に手をあて眉を寄せたルイは私を見て”国の崩壊理由”について尋ねた。

「原因はエマ第二王妃と騎士団員ハリー・ナイトの不倫だと思う。そこから国王がおかしくなる」

 ルイは私の話を素直に頷いて聞いている。ルイが第二王妃の不倫をすんなり受けいれられた事に驚いた。
 漫画では凄く不倫を否定していた。王妃を信じていると優しく笑っていた。この笑っていた。

「それはいつ」

「2年後かな」

 ルイは手で口覆ったまま一定のリズムで眉間を叩く。

 彼が私の話を全て真実である前提で動こうとしていることに驚いた。
 勿論、嘘はついていないがウソみたいな話であるし第二王妃を侮辱しているのも同然だ。

 大体本当にその通りになるかなんてわからないし……。

「ウソじゃないだけど根拠ないよ。なんでそんなに簡単に信じられるの」

「ルカは僕が好き?」

 突然の確認に動けなくなる。好きって、そりゃ兄弟だし嫌いじゃない。

「そりゃ、まぁ。うん。」

 恋愛的な意味は全くない“好き”であるが、言葉にするのが恥ずかしくて曖昧な返事になる。自分の顔がほんのり赤くなるのが分かると余計恥ずかしい。そんな私をルイはにこにこして見ている。

「なんとなく僕わかったんだ。色々とね。ルカは今好きって言えなくて照れてるでしょ」

 図星を当てられて何も言えなくなる。昨日までは丁寧であったが遠慮がちに私に接していたのにこの急変はなんなんだ。

「僕はルカを信じるよ。そして、不安や疑問は口に出して行く。本音がいいんでしょ」

 目の前で 美しい顔が優しく微笑む。自分の顔が真っ赤になるのを感じた。美形が自信満々に私を信じるって言われたらどうしていいか分からない。

「好きだよ」

 言わないのは負けな気がして嫌だったから投げやりに小さな声でつぶやいた。聞こえなくても構わないと思ったがニヤリと笑い私の顔を見ている。

 絶対聞こえた。

 ため息をつくとルイはいきなり話題を変えてきた。さっきから変えすぎだと思う。

「そうだ、ルカ以外の記憶があると言ったがその女性はなぜ未来が分かるんだい?」

 ルイの質問になんて答えていいか迷った。この世界に漫画という文化はない。物語はあるがそれは全て文章で書かれている。それはそれで面白いのだが漫画好きとしては恋しくなる時がある。

「彼女の世界には漫画という絵を繋げて物語を作る文化があるんだ。この世界はその漫画の内容そのものなんだよね」

 なるべくわかりやすい言葉を使い丁寧に伝えるが私のイメージが共有できているかは不明である。実物がないのが本当に残念だ。

「作り物なのかい?」

 ルイが不安そうに聞いてきたから、慌てて手を振った。私もルイもこの世界で生きている。
 作り物ではないから漫画通りに不幸になんてなりたくないし、したくはない。アレはあくまでも読み物である。

「漫画は作り物だけど別に私たちが作り物じゃないよ。もし、その漫画がここにあったら未来予想の書物になるのかな」

 現実とは違うと強く訴えた。ルイもそれを分かってくれたようで頷いている。

 ルイの私への信頼があつい。

 信じてもらえるというのは嬉しい。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。 自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。 魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」 ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。 社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。 そんな彼がある日、突然異世界に転生した。 ――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。 目覚めた先は、王都のスラム街。 財布なし、金なし、スキルなし。 詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。 「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」 試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。 経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。 しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、 王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。 「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」 国王に乞われ、王国財務顧問に就任。 貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、 そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。 ――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。 異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...