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迷子の王子
しおりを挟む騎士館で迷子になった。
右も左もよく分からず冷や汗がでてくる。
気持ちを落ち着かせるために廊下の壁に寄りかかりながら騎士団長と副団長のことを思い出す。二人には悪いことをしてしまった。特に騎士団長にはハリー・ナイトを探す様に依頼したのに、副団長が手伝うと言ってくれた時断った。
この後、ハリー・ナイトを連れてこられたらどうしよう。そもそも、私のこの行動が叔父に報告されるかもしれない。
叔父であるオリバー摂政の事を思い出した。彼はルカのことをよく気にしてくれるが、礼に厳しい。
事前連絡もなく騎士館にいったとなれば大目玉だ。
自分で招いた状況であるが、色々嫌になっていた。皆が幸せになって欲しいのだがどう行動していいかよくわからない。前世に戻りたい。
なんで私はここにいるのだろう。
気持ちが落ちる。前世で美人になりたいとは思った事があったが違う人物になりたいなんて思ったことない。きっと、これは夢だ。もうすぐに携帯のアラームがなり目が覚める。仕事いかなくちゃ。
それで、この夢の話をヲタク友達にして笑われるのだ。
「ルカ第二王子殿下、ここにいらっしゃいましたか」
トーマス騎士団長の声が頭の上の方で聞こえた。彼の存在はここが現実だと言っているようである。今はときめきではなくため息しかでない。
座り込む私に、膝をつけて視線を合わせてくれるが私は顔を隠すように下向いているため彼の表情はわからない。きっと迷惑だと思われている。
目だけでトーマス騎士団長の方を見る。
トーマス騎士団長は迷惑な顔などしておらず、優しく微笑んでいる。
騎士団長素敵だなぁ。
下を向いて黙っていたため体調を気にしてくれたのだろう。「大丈夫ですか」と聞いてくれる。私は、顔を上げながら返事した。
ここでこの世界を否定していても仕方ない。覚悟を決める必要がある。
事件まであと2年ある。この世界で頑張ろう。
今すぐハリー・ナイトにあっても私は何もできない。私がやるべき事は体力と知識をつける事だと思う。そもそも城の内部を把握していない時点で勉学をサボりすぎである。
「トーマス騎士団長、私を探してくれたですね。ありがとうございます。それと、ハリー・ナイトの事は探さなくて大丈夫です」
立ち上がり、騎士団長に笑顔で答える。そして、彼を連れてこられては困るので念を押す。私が立ち上がったことで膝をついているトーマス騎士団長の目線の高さが同じになった。トーマス騎士団長の顔はこうしてじっくりと見ると本当に整った顔していると思う。
実写化するとこうなるのか。
刈り上げられている質の良い金髪。綺麗な青い瞳は外国のアクション映画俳優そのものである。騎士団長であるからアクション映画俳優よりもハードな動きが可能なのであろう。
あまり私が見入ってしまったせいか次第に騎士団長の顔が赤くなる。もしかして、睨んでいるように思われたか。
「そうですか。それではお部屋までお送りいたします」
頭を下げていると立ち上がる。
私が頷くと“向かいます“と優しい笑顔を向けてくれた。心臓が早くなる。彼の笑顔は破壊的である。
私の歩く速さに合わせるように騎士団長は進む。後ろ姿も素敵すぎると見惚れながら私は騎士団長の後を追った。
トーマス騎士団長を近くで見ることができた。心が満たされている。
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