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保育園に一番に登園した日。
誰もいなかったから、フリルのブラウスに袖を通しスカートを履いてみた。鏡にうった自分を見て幸せだった。その時、正樹が登園してきた。
悠を見た正樹の母は目を大きくした後、苦笑した。彼女の態度に悪い事をしている感覚に襲われた。恥ずかしくなり脱ごうとすると正樹に両手を優しく握られた。
「え?」
「ゆうちゃん可愛いから、可愛い物似合うな」
正樹のその言葉に、心が暖かくなった。それから、正樹と二人の時間ドレスやスカートを履いて彼に見せた。正樹が「可愛い」と毎回褒めてくれたため浮かれていた。そんな楽しい時間も長くは続かなかった。正樹が転園してしまったのだ。
褒めてくれる正樹はいなくなってしまったのはとても悲しかった。しかし、彼に褒められた事で自分は可愛いと思い込んでいた。
調子にのっていた。
「なにそれ」
女の子がドレスをきた悠を笑った。悠の姿を見た母は鬼のような形相をしていた。その顔を今もはっきりと覚えている。
病院に連れて行かれた。医療関係者に様々な質問をされたが当時はそれが何を意図しているのか分からなかった。そのうちいくつもの格闘技をやらされた。その時期から身長が伸び、男らしい体つきになった。
鏡を見るのが嫌になった。
カッコいいと言われるたびに死にたくなった。けど、周囲はそれを喜んだ。だから、笑った。
空手で優勝するようになると、女の子からモテ始めた。彼女ができると母は喜んだ。
自分よりも小さく可愛らしい彼女。
自分の着られないフリルのスカートがよく似合った。
可愛らしい服を着てそれを自慢する彼女が次第に疎ましくなった。『お前には似合わない』と見下されているように感じた。
ある日、部屋から出られなくなった。部屋の扉に手を掛けると吐き気がした。
母や彼女が扉を叩いた。開ける事を求められるたびに、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
毎日、扉を叩かれて、耐えきれなくなり窓から部屋を飛び出した。逃げるように走り、気付けばしらない街にいた。
どのくらい走ったか分からないが足は棒の様になり、疲れていた。近くの公園に入ると、ベンチに座った。
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