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当日、ふたを開けてみれば彼は来ていなかった。河沼一香とその彼氏しかいない状況に複雑な気持ちになった。しかし、『帰る』とは言えずに同行した。
向かったのはおしゃれな居酒屋であった。本来は正樹がいたのだと思うと気持ちが落ちた。
虎司は河沼一香を手に入れる豪語していが、彼女は終始彼氏とイチャついていた。
馬鹿らしくなった。
必死な虎司が滑稽であった。
しかし、虎司と約束していたためトレイに立った木山恵の後を追い、声を掛けた。
「今日は来てくれてありがとうね」
微笑んだが、彼の表情を動かない。小さく頷いただけであった。
「君、かっこいいなと思ってさ。ずっと知り合いたいと思っていたんだよ」
思ってもいない事を口にしている自分がむなしくなった。やめる訳にも行かず、髪をかき上げて、首を傾げて木山恵の顔を覗き込んだ。大抵の男性はこれで赤面するが木山恵の表情に変化はなかった。
ただ、頷くだけで言葉を発しない。
照れているのかと思い、更に言葉を掛けようと口を開いた時寒気がした。
木山恵はのすごい顔で睨んできた。
「……足止めか」木山恵は低い声で言った。「あの男、イチ狙ってるんだよな」
全身から怒りを感じた。それは殺気に近かった。
そんな木山恵を見て、河沼一香を羨ましく思った。
「そうだよ。邪魔しにきた」
そう言った瞬間、木山恵の拳が飛んできた。殴られると目を閉じて身体に力をいれたが痛みはなかった。
恐る恐る、目を開ける顔の拳が止まっていた。
「……なんで、避けない? お前、何か格闘技やっているだろ。身体見ればわかる」
拳を下した木山恵の殺気は薄れていた。
「……殴れられるような事をしたから」
 頼まれた事であったが罪悪感があった。
「虎司と河沼さんが近づくの協力したの。貴方には悪い事をしたわ」
「……なに?」
「ん?」
「奴に協力するメリット」
悠よりも少し身長が高く整った顔立ちの彼と騒いだためか、周囲の視線を感じた。彼は気にしていないようであるが悠は気になった。
「アイツがイチ目当てなら、お前は僕を狙いかと思ったがそんな様子はない。興味ないだろ」
その通りだが、すぐに肯定するのは失礼に感じ言葉に詰まった。
「気合いを恰好をしている。まるで楽しみにしていたみたいだ。なぜだ?」
無表情の木山恵の瞳は全てを見透かしているようで居心地が悪かった。嘘や誤魔化しきかないようと思ったが、素直に話す気にもなれなかった。
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