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桜吹雪が頬をかすめた高校最後日。
近藤正樹(こんどうまさき)はセーラー服を着る長身の黒髪美人に手を引かれていた。向かうは体育館裏。普通なら甘い期待を抱くだろうが正樹は面倒くさく感じていた。
「また?」
正樹は頭をかきながら聞くと手を引いている友人の木山恵(きやまめぐみ)は自分の口元に手を当て「静かに」と言って正樹の後ろに隠れた。恵の方が高いため、正樹の頭の上に顔が乗っていた。
体育館裏には二つの人影があった。一人は正樹の友人の一人である可沼一香(かぬまいちか)だ。もう一人の学ランを着た人物を見たことはあるが名前までは分からない。
「一香先輩。あの……」
「あたしは君と付き合う気はないよ」
きっぱりと一香が言うと、相手は苦い顔した。
正樹の真上では歯ぎしりが聞こえた。
「あたしは付き合ってる奴がいるの」
「木山先輩ですよね。だってあの人は……」
「あたしはそういう方が好みなのよ」
一香の言葉を学ランは信じてないようであった。それに一香は面倒くさそうな顔をした。
「ほら、迎えが来た」
正樹の方を一香は指を指した。頭の上で大きな歯ぎしりの音がするため、気づかれない訳がない。
「近藤先輩……」学ランつぶやいた。
正樹は真後ろにいる恵に背中を押された。首をふるが、勘弁してもらえない。
大きなため息をついてから、仕方なく正樹は学ランの方を見た。
「彼女に用?」
学ランは驚いたように目を大きくした。が一香は『またか』と言う顔をしている。
「先輩どうこうですか? 近藤先輩と付き合っているのですか?」
学ランは声を震わせた。
「付き合いはあるよ」と一香は言った。
嘘は言っていない。後は相手の取り方の問題だが正樹からした迷惑な話だ。
「そんな……」学ランは真っ青な顔をした。「ちゃんとした相手がいるなんて」そう言うと学ランは肩を落としてその場を去った。
『ちゃんとした』とはカンに触る言い方だ。
「俺は一香の恋人じゃねぇよ」
正樹がぼやくと、一香は鼻で笑った。
「友だち付き合いがあるって言っただけ」
「友だちを略しただろ」
「アンタだって。『彼女』って使ったでしょ」
お互い様だ。言い合っていておかしくなりどちらともなく笑った。
「問題はあんたよ」
一香は正樹の後ろに隠れている恵を引っ張り出した。恵は一香に前に座り込んだ。三人の中で一番大きい人間が一番小さく見えた。反対に女性の平均身長に達していない一香が大きく感じた。
「正樹に頼らないでくれる?」
「だって、私じゃ……」
恵は泣きそうな声を上げた。黙って立っていれば強そうに見える外見とは逆の性格だ。
「あ、そうだ。高校は制服なくなるし私服で学校行くよな。これからは『俺』って言えよ」
そういう正樹に、恵は首を傾げた。すると一香はすぐに納得したようで何度も頷いた。
「恵、『僕』がいいわ。その方が可愛い」
一香に頬を触られると恵はその手に触れて嬉しそうに目を瞑った。
恵はゆっくりと立ち上がると、一香の瞳を真っ直ぐに見た。「一香が僕の物になるなら」
恵の言葉に一香は真っ赤になり固まった。セーラー服を着ているが男前だった。
「元々、恵のよ」
一香は恵の胸に頭をつけた。すると恵は心底嬉しそう彼女を抱きしめた。
二人が自分たちの世界を作っているが、正樹は遠慮する事なく「家の準備できたか?」と恵に話しかけた。
「あぁ」恵は正樹の態度に気分を害する事なく答えた。「けどなんで二部屋も抑えるんだよ」
恵は不思議そうに首を傾げた。
「ちょっと考えがあってさ」
「ふーん」恵は興味なさそうな返事をした。
近藤正樹(こんどうまさき)はセーラー服を着る長身の黒髪美人に手を引かれていた。向かうは体育館裏。普通なら甘い期待を抱くだろうが正樹は面倒くさく感じていた。
「また?」
正樹は頭をかきながら聞くと手を引いている友人の木山恵(きやまめぐみ)は自分の口元に手を当て「静かに」と言って正樹の後ろに隠れた。恵の方が高いため、正樹の頭の上に顔が乗っていた。
体育館裏には二つの人影があった。一人は正樹の友人の一人である可沼一香(かぬまいちか)だ。もう一人の学ランを着た人物を見たことはあるが名前までは分からない。
「一香先輩。あの……」
「あたしは君と付き合う気はないよ」
きっぱりと一香が言うと、相手は苦い顔した。
正樹の真上では歯ぎしりが聞こえた。
「あたしは付き合ってる奴がいるの」
「木山先輩ですよね。だってあの人は……」
「あたしはそういう方が好みなのよ」
一香の言葉を学ランは信じてないようであった。それに一香は面倒くさそうな顔をした。
「ほら、迎えが来た」
正樹の方を一香は指を指した。頭の上で大きな歯ぎしりの音がするため、気づかれない訳がない。
「近藤先輩……」学ランつぶやいた。
正樹は真後ろにいる恵に背中を押された。首をふるが、勘弁してもらえない。
大きなため息をついてから、仕方なく正樹は学ランの方を見た。
「彼女に用?」
学ランは驚いたように目を大きくした。が一香は『またか』と言う顔をしている。
「先輩どうこうですか? 近藤先輩と付き合っているのですか?」
学ランは声を震わせた。
「付き合いはあるよ」と一香は言った。
嘘は言っていない。後は相手の取り方の問題だが正樹からした迷惑な話だ。
「そんな……」学ランは真っ青な顔をした。「ちゃんとした相手がいるなんて」そう言うと学ランは肩を落としてその場を去った。
『ちゃんとした』とはカンに触る言い方だ。
「俺は一香の恋人じゃねぇよ」
正樹がぼやくと、一香は鼻で笑った。
「友だち付き合いがあるって言っただけ」
「友だちを略しただろ」
「アンタだって。『彼女』って使ったでしょ」
お互い様だ。言い合っていておかしくなりどちらともなく笑った。
「問題はあんたよ」
一香は正樹の後ろに隠れている恵を引っ張り出した。恵は一香に前に座り込んだ。三人の中で一番大きい人間が一番小さく見えた。反対に女性の平均身長に達していない一香が大きく感じた。
「正樹に頼らないでくれる?」
「だって、私じゃ……」
恵は泣きそうな声を上げた。黙って立っていれば強そうに見える外見とは逆の性格だ。
「あ、そうだ。高校は制服なくなるし私服で学校行くよな。これからは『俺』って言えよ」
そういう正樹に、恵は首を傾げた。すると一香はすぐに納得したようで何度も頷いた。
「恵、『僕』がいいわ。その方が可愛い」
一香に頬を触られると恵はその手に触れて嬉しそうに目を瞑った。
恵はゆっくりと立ち上がると、一香の瞳を真っ直ぐに見た。「一香が僕の物になるなら」
恵の言葉に一香は真っ赤になり固まった。セーラー服を着ているが男前だった。
「元々、恵のよ」
一香は恵の胸に頭をつけた。すると恵は心底嬉しそう彼女を抱きしめた。
二人が自分たちの世界を作っているが、正樹は遠慮する事なく「家の準備できたか?」と恵に話しかけた。
「あぁ」恵は正樹の態度に気分を害する事なく答えた。「けどなんで二部屋も抑えるんだよ」
恵は不思議そうに首を傾げた。
「ちょっと考えがあってさ」
「ふーん」恵は興味なさそうな返事をした。
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