侍従の苦悩~お嬢様が自分は悪役令嬢だから家が没落すると大騒ぎして途方に暮れています~

黒夜須(くろやす)

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少年に怒鳴られた女性と少女は震える身体で立ち上がると、逃げた。それを髪のない野盗が追った。すぐさま少年は野盗を追いかけると躊躇することなく、彼を背中に短剣を刺した。
「てめぇ」
野盗は顔を歪ませると、斧を持っていた黒ひげの野盗が少年に向かって振り下ろした。少年は短剣を野盗から抜くと素早く斧を持つ手に刺した。男が悲鳴をあげ、斧を落とした。その斧が少年の太ももをかすめ、服が切れ、血が吹き出た。しかし、彼は声を漏らさない。怪我をする以前と同じ速さでその場を離れると持っていた短剣を黒ひげに投げつけた。
短剣は黒ひげの目に命中した。彼は断末魔の様な悲鳴をあげて目を抑えてふらふらと彷徨い、地面に倒れると動かなくなった。
少年の足からは血が流れ続けているが怪我などしていない動きだ。しかし、疲労が激しいようで肩で息をしている。倒れている数の野盗を見たら当然だ。むしろ、幼い少年がこの数を人で倒している事が異常だ。もっと異常なのは、少年が楽しそうに笑っていることだ。
彼のその姿がエドワードの心を鷲掴みにした。
彼の力がほしい。
末弟の貴族ならば城で雇えば良いが、長子となった場合は問題だ。御三家ならば妹を使い王家に入れることは可能性だが、御三家であの年齢の男子がいる話は聞いていない。いれば既に妹の婚約者と名前が上がっているだろう。
少年は斧を拾うと髪のない野盗の方を向いた。彼は、背中から血を流しながらふらふらと身体を揺らしていた。よく見れば、背中以外にも多くの傷があり立っているのがやっとのようであった。
 反対に少年にはさっきの切り傷以外の外傷が見当たらない。
その時に、転がっていた黒ひげがナイフで少年の足を刺した。
「ん?」
ナイフの刃が足首に刺さっているのに少年は蚊でも止まった様な顔で足元を見た。
「まだ、元気じゃん」
少年はニヤリと笑うと、持っていた斧を振り上げ黒ひげの手の上に落とした。
「うぎゃ――」黒ひげは大きな声を上げた。
斧は錆びているようで、小柄な少年では黒ひげの手を切り落とす事は出来なかった。腕の途中で止まった斧に少年はのり飛び跳ねた。少しずつ嫌な音をたてて斧が進んだ。黒ひげの悲鳴が森中に響いている。
髪のない野盗は彼の異常さに怯えているのか顔を青くして見ていた。
地獄絵図だ。
幼い少年は完全に悪魔だ。
黒ひげの手首が落ちると同時に、髪のない野盗の首がごろりと転がった。
「ん?」少年は落ちる首を見ると嬉しそうに微笑んだ。「アル」
名前を呼ばれたのは、黒いスーツの男だ。
エドワードは彼を知っていた。
何度も通ったシドニー家の使用人アルベルト・ウェバーだ。
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