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第68話 経験から学ばないとわからない
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連敗が続いて和也の心が折れそうになっていた。千葉日と蓮中の合格があるから、進学の不安はない。しかし、どうしても受かりたい。
2月3日
本日がラストチャンス。
和也は受験校の前に立ち見上げた。
3日間連続でこの学校に来て、4回も試験を受けている。本日5回目だ。
「こんなに通ってんだから、合格くれよ」
ぼそりとつぶやくと、門にいた守衛に「頑張って」と応援された。不安の方が強く、返事に力が入らなかった。それではダメだと気合を入れなおして、母と共に学校に入った。
以前はある日を境に勉強についてギャーギャー言わなくなった。
受験が始まると、母も父も聞けば答えてくれるがそれ以上に何も指示してくれなくなった。
母は最近“合格あるからいいでしょ”と思っているようなところもあった。
同じ屋根の下にいる憲貞とは食事ですれ違う程度だ。
彼に構っている余裕はない。
試験会場の教室に入ると空気が張り詰めていた。いつもこの空気に飲まれそうになる。
席に着くと頬を叩いて気合をいれた。
今まで一番できたと思った。
発表は今日の17時。もう自分にできることは何もない。
帰路で母が何か言っていたが頭に入らなかった。
帰宅し自室の入ると糸が切れたようにベッドに倒れこんだ。そして、そのまま入眠した。
目が覚めると、外が明るかった。
まだ、回路がつながっていない頭を持ち上げて、時計を見ると7時を指していた。学校に間に合う時間であったが行く気にはなれなかった。
「そうだ、結果出てるんだ」力なくつぶやいた。
結果は母が知っていると思ったが聞く気になれなった。
何度も見た“不合格”の文字がフラッシュバックして怖かった。合格を持っているのに不安でたまらなかった。
ベッドの上でグタグタしているうちに8時30分になっていた。もう学校は遅刻だ。
母は確か10日まで休みであったはずなのに、扉が動く気配がしない。母が家にいるときは7時すぎには起こされた。
「動かないとな」
重い体をゆっくりと起こし、ベッドに座ると当たりを見まわした。ローテーブルには過去問のプリントが山のようになっており今にも崩れそうであった。
よく頑張ったな。しみじみ思った。
呼吸を整えて身支度をしてリビングに行くと、ノートパソコンの前にいた母に手招きをされた。
もしかしたらと期待してしまう。
その期待は何度も砕かれているので、“ダメかも、落ちてるかも”ネガティブな言葉を頭中で唱え続けた。
「顔色悪いよ」
思い詰めすぎて、暗い顔をしていたらしく母に引かれた。
「いや……」
歯切れ悪く答えると母は黙ってノートパソコンの画面を見せた。
「……」
言葉にならなかった。
自然と涙が出た。
母は何も言わずにノートパソコンを閉じると「食事の用意する」と言ってキッチンへ行った。
「なんで……。あんなに頑張ったのに」
何も食べたくなかった。
手に震えて力が入らない。
「ご、ごはんいらね」と力なく言うと幽霊のように立ち上がり自室に向かった。部屋に入るとそのままベッドに倒れ枕に顔をうずめた。
悔しくて、悔しくて涙が止まらなかった。
「5回も受けたのに……」
必死に勉強した日々を思い出した。過去問で7割以上とれた時は、喜び自信になった。
ふと勉強していたローテーブルを見るとその奥には勉強をサボってよく読んでいた漫画があった。それを見た瞬間立ち上がり、漫画を手に取ると乱暴にゴミ箱に捨てた。ゴミ箱はその衝撃で左右に大きく揺れて倒れた。中に入っていた紙くずと投げ入れた漫画が散らばった。
「してねぇ。“何が勉強したのに”だ。してねぇーよ。漫画読んでたじゃねぇか」
勉強しなかったことを後悔した。
悔やんでも悔やみきれなかった。
過去に戻りたいと思った。
その時、母が“勉強しろ”と怒ったのを思い出した。それに自分は悪態をついて逃げた。
愚かだ。
「母さん、ごめん。ありがとう」
バタリと仰向けにベッドの上に倒れた。いつもと変わらない天井があった。
気づいたら眠っていた。手に冷たい物があたり確認すると顔をうずめていた枕がびっしょりと濡れていた。濡れたカバーを剥がすとそれを持って部屋を出て洗面所に行った。
洗濯機にカバーを入れると、顔を洗った。タオルで拭きながら、鏡に映った自分を見ると目が真っ赤に腫れていた。
深呼吸をして、笑った。しかし、ぎこちない笑顔であった。
洗面所を出ると、憲貞に会った。彼もまた目を赤くして頬には涙の後があった。
「アハハ……のりちゃん」と自分と似たような顔に思わず笑ってしまった。
笑った後、不味いと思い口を抑えた。すると、自分のではない笑い声がした。目の前にいる憲貞も口を抑えながら笑っていた。
「なぁ、これから貴也のところに行く。合格祝いだ」
「アイツの決まったのか?」
「あぁ、幕中、快晴中、桜華中のすべて合格だ。桜華中は特待Sを取っている」
それを聞いてモヤモヤした気持ちになった。自分が落ちているに全部受かっている貴也にいい感情を持てなかった。
「いや……」このまま行ったら悪態をつきそうだから断ろうとした。
「ダメだ。行く。見舞いでもある」
はっきりと言った。ここまで真剣な顔をして他者の言葉を否定する憲貞を始めてみた。その迫力に圧倒されて頷いてしまった。
“見舞い”と言った憲貞の言葉が気になり詳しく聞いたが彼は困った顔をするだけであった。行けばわかるかと思いそれ以上追及しなかった。
2月3日
本日がラストチャンス。
和也は受験校の前に立ち見上げた。
3日間連続でこの学校に来て、4回も試験を受けている。本日5回目だ。
「こんなに通ってんだから、合格くれよ」
ぼそりとつぶやくと、門にいた守衛に「頑張って」と応援された。不安の方が強く、返事に力が入らなかった。それではダメだと気合を入れなおして、母と共に学校に入った。
以前はある日を境に勉強についてギャーギャー言わなくなった。
受験が始まると、母も父も聞けば答えてくれるがそれ以上に何も指示してくれなくなった。
母は最近“合格あるからいいでしょ”と思っているようなところもあった。
同じ屋根の下にいる憲貞とは食事ですれ違う程度だ。
彼に構っている余裕はない。
試験会場の教室に入ると空気が張り詰めていた。いつもこの空気に飲まれそうになる。
席に着くと頬を叩いて気合をいれた。
今まで一番できたと思った。
発表は今日の17時。もう自分にできることは何もない。
帰路で母が何か言っていたが頭に入らなかった。
帰宅し自室の入ると糸が切れたようにベッドに倒れこんだ。そして、そのまま入眠した。
目が覚めると、外が明るかった。
まだ、回路がつながっていない頭を持ち上げて、時計を見ると7時を指していた。学校に間に合う時間であったが行く気にはなれなかった。
「そうだ、結果出てるんだ」力なくつぶやいた。
結果は母が知っていると思ったが聞く気になれなった。
何度も見た“不合格”の文字がフラッシュバックして怖かった。合格を持っているのに不安でたまらなかった。
ベッドの上でグタグタしているうちに8時30分になっていた。もう学校は遅刻だ。
母は確か10日まで休みであったはずなのに、扉が動く気配がしない。母が家にいるときは7時すぎには起こされた。
「動かないとな」
重い体をゆっくりと起こし、ベッドに座ると当たりを見まわした。ローテーブルには過去問のプリントが山のようになっており今にも崩れそうであった。
よく頑張ったな。しみじみ思った。
呼吸を整えて身支度をしてリビングに行くと、ノートパソコンの前にいた母に手招きをされた。
もしかしたらと期待してしまう。
その期待は何度も砕かれているので、“ダメかも、落ちてるかも”ネガティブな言葉を頭中で唱え続けた。
「顔色悪いよ」
思い詰めすぎて、暗い顔をしていたらしく母に引かれた。
「いや……」
歯切れ悪く答えると母は黙ってノートパソコンの画面を見せた。
「……」
言葉にならなかった。
自然と涙が出た。
母は何も言わずにノートパソコンを閉じると「食事の用意する」と言ってキッチンへ行った。
「なんで……。あんなに頑張ったのに」
何も食べたくなかった。
手に震えて力が入らない。
「ご、ごはんいらね」と力なく言うと幽霊のように立ち上がり自室に向かった。部屋に入るとそのままベッドに倒れ枕に顔をうずめた。
悔しくて、悔しくて涙が止まらなかった。
「5回も受けたのに……」
必死に勉強した日々を思い出した。過去問で7割以上とれた時は、喜び自信になった。
ふと勉強していたローテーブルを見るとその奥には勉強をサボってよく読んでいた漫画があった。それを見た瞬間立ち上がり、漫画を手に取ると乱暴にゴミ箱に捨てた。ゴミ箱はその衝撃で左右に大きく揺れて倒れた。中に入っていた紙くずと投げ入れた漫画が散らばった。
「してねぇ。“何が勉強したのに”だ。してねぇーよ。漫画読んでたじゃねぇか」
勉強しなかったことを後悔した。
悔やんでも悔やみきれなかった。
過去に戻りたいと思った。
その時、母が“勉強しろ”と怒ったのを思い出した。それに自分は悪態をついて逃げた。
愚かだ。
「母さん、ごめん。ありがとう」
バタリと仰向けにベッドの上に倒れた。いつもと変わらない天井があった。
気づいたら眠っていた。手に冷たい物があたり確認すると顔をうずめていた枕がびっしょりと濡れていた。濡れたカバーを剥がすとそれを持って部屋を出て洗面所に行った。
洗濯機にカバーを入れると、顔を洗った。タオルで拭きながら、鏡に映った自分を見ると目が真っ赤に腫れていた。
深呼吸をして、笑った。しかし、ぎこちない笑顔であった。
洗面所を出ると、憲貞に会った。彼もまた目を赤くして頬には涙の後があった。
「アハハ……のりちゃん」と自分と似たような顔に思わず笑ってしまった。
笑った後、不味いと思い口を抑えた。すると、自分のではない笑い声がした。目の前にいる憲貞も口を抑えながら笑っていた。
「なぁ、これから貴也のところに行く。合格祝いだ」
「アイツの決まったのか?」
「あぁ、幕中、快晴中、桜華中のすべて合格だ。桜華中は特待Sを取っている」
それを聞いてモヤモヤした気持ちになった。自分が落ちているに全部受かっている貴也にいい感情を持てなかった。
「いや……」このまま行ったら悪態をつきそうだから断ろうとした。
「ダメだ。行く。見舞いでもある」
はっきりと言った。ここまで真剣な顔をして他者の言葉を否定する憲貞を始めてみた。その迫力に圧倒されて頷いてしまった。
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