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第64話 思わぬ結果
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年が明けて、冬季講習が終わればもう首都圏の受験が始まる。
貴也は母に頼み、1月の学校をすべて休み勉強に費やした。それで、どれだけできるか分からないが後悔したくなかった。
1月22日 千葉の幕中受験日。
母と共に受験会場に向かった。門には顔見知りの講師がおり挨拶をして中に入った。
過去問を何度もやっていたが、苦戦した。手ごたえがなかった訳ではないが不安だ。
「お疲れ様、何か食べて帰る?」
帰り道で母に声を掛けられたが、「いえ」と素っ気なく答えた。以前は母の誘いを無下に断らなかったが今はそんな余裕はない。母の寂しそうな顔を見たら、居たたまれない気持ちになったが“勉強のため”と割り切った。
電車に乗ると、受験生らしき親子が多くいたが全体的は空いていて座ることができた。
目の前に席に座っている親子が自己採点をしているようであった。
「ここ、なんで間違えたの? 取れるでしょ」
母親らしき人が横にいる子どもに強く言った。子どもは疲労感たっぷりな顔をしてうなずいている。今入試を受けてきたばかりなのに大変だなと同情した。
こういった親子は珍しくない。横で何も言わずに本を読んでいる母の方が珍しいかもしれない。
「ねぇ、これおいしそうよ。行かない? ここから近いよ」
母はグルメ雑誌を指さして言った。雑誌には美味しそうな料理の写真がいくつも載っていた。母は楽しそうにペラペラと雑誌を見て「ここもいいわね」と言っていた。
「全部合格したら食べようか」
「はい」
その後も、食べ物の話を聞きながら帰宅した。翌日も試験があり同じように受けて帰宅すると自室のこもり勉強した。夕方、パソコンの前に座った。
2校の合格発表は本日であった。
リビングにあるパソコンに電源を入れて、幕中のサイトを開き受験番号をいれた。そして決定キーを押そうとしたが手が震えた。心臓の音が早くなった。
「ここで何しても結果は変わらないのにね」
震える自分の体がバカバカしかった。
深呼吸をしてから決定キーを押した。
不合格
「そ、そうだよね」
想定はしていた。
合格率50%。試験は難しく何度も悩んだ。でも、突きつけられると平常心ではいられなかった。何度見返しても結果は変わらない。
ため息をついて、もう一つの学校の結果を見た。
「え? なんでダメなの?」
ここは常に合格率80%を超えていた。
「あはは……。これが受験か」
自然と乾いた笑いが出てきた。テストで合格率が高く出ても油断はできないと講師は言っていた。その現実を突きつけられて心が折れそうになった。
キーボードに涙が落ちた。
「どうすれば受かるんだよ」
手を抜いて勉強したことなど一度もない。娯楽はすべて断ち切った。
「食事の時間か。やっぱりちゃんと食べるなんて時間の無駄」
その日から母になんと言われようと、ゼリータイプの栄養ドリンクと水分しか口にしなかった。シャワーも最短で終わらし、睡眠時間もなるべく減らして勉強時間にささげた。
「……はっ」
気づくとローテーブルに突っ伏していた。まだ、全然勉強していないのに寝てしまう自分の体に腹が立った。
「いい加減にしてよ」
思い切り、左手の甲に鉛筆を突き刺した。痛みが走り、血がにじみ出た。その痛みで目が覚めると安堵した。
何度も指している左手は穴だらけだ。
2月1日
快晴中の試験が終わり、他の試験同様に母と共に帰りの電車に乗っていた。相変わらず母は、グルメ雑誌を見て合格後の食事の話をしていた。
母は手の傷のことも勉強に捧げている生活のことも何も言わない。しかし、時々悲しい顔をしているのは知っていた。
この生活は辛いが後少しと思い、自分に鞭打った。
2月2日の桜華試験も終了した。全ての試験が終わったが結果がでるまで油断できない。桜華が落ちたら4日にある桜華を再受験しなくてはならない。
快晴についてはもう受験できない。
「そうだ。明日、幕中の試験だからね」
「え?」
「二次試験申し込んだよ」
予想外の母の発言に驚いた。
「別に何回目で受かっても幕中合格は合格でしょ? あ、でも今日の夜に快晴と桜花の結果でるよね。受けない?」
「いえ、受けます。ありがとうございます」
母に感謝した。
快晴落ちても、幕中に受かればそれなりの実力を憲貞の母に示すことができる。
自室に戻ると幕中の過去問を取り出した。問題と解答用紙をコピーするとタイマーをセットして始めた。
何度もやってもひっかかる問題がある。そこだけをピックアップして似たような問題を塾のテキストから探し出しコピーして行った。
それを何度も繰り返して、できない問題を潰していった。時間が掛かるが確実な方法だ。
「あ、快晴と桜華の結果見てない。決まった結果なんて明日でいいか」
桜華が落ちていれば母がきっと4日の申し込みをしてくれると思った。
必死に机に向かったが気づくと、また寝ていた。時間は22時。1度落ちている学校だから油断はできない。しかし、体が言うことを聞かなかったので仕方なくベッドに入った。
翌日、5時に目を覚ますともう一度過去問をやった。1度落ちているため不安で仕方なかった。
しかし、また睡魔が襲ってきた。左手に鉛筆を突き刺しても追い払うことのできない睡魔に腹が立った。
少し考えてから、立ち上がり倉庫から金槌を持ってくると、ローテーブルに向かった。
「今日、試験だよ。いい加減にしてよ」
タオル置いてその上に左手を乗せると思い切り小指目掛けて金槌を振り下ろした。
バギッ……。
鈍い音がして激痛が走った。少し、指を動かすだけで痛みが走った。
「よし」と眠気が去ったことに安堵すると鉛筆を強く握った。
家を出る時間になり、身支度を終えてゼリータイプの栄養ドリンクを飲んだ。母に食事を勧められたがその時間勉強したかったため断った。
以前は母の誘いを断り、彼女が寂しそうな顔をすると罪悪感があったが今は全くなかった。勉強の邪魔をするなと腹が立った。
2月3日。
1月の試験よりは手ごたえを感じた。自信があったが不安だった。前回もできていないとは思っていないがダメであった。
帰宅の電車で母が思い出したように、「そういえば、憲貞君と連絡とってる?」と言った。
「いえ」とズキズキと痛む左手を服に中に隠しながら答えた。
「叶さんから憲貞君の報告来てるんだよね。天王寺さんに伝えないと行けないしね」
「そうですか」
以前は憲貞のことが気になり、和也に聞いたり本人にメールをしたりしていた。しかし、クリスマス前に辞めた。
お互いのことを気にしているのでは以前と何も変わらない。一度距離を置いて、自分自身のことに集中する必要があると思った。
今、聞いてしまうとすぐにでも会いに行きたくなる。受験がすべて終わるまではと思った。
貴也は母に頼み、1月の学校をすべて休み勉強に費やした。それで、どれだけできるか分からないが後悔したくなかった。
1月22日 千葉の幕中受験日。
母と共に受験会場に向かった。門には顔見知りの講師がおり挨拶をして中に入った。
過去問を何度もやっていたが、苦戦した。手ごたえがなかった訳ではないが不安だ。
「お疲れ様、何か食べて帰る?」
帰り道で母に声を掛けられたが、「いえ」と素っ気なく答えた。以前は母の誘いを無下に断らなかったが今はそんな余裕はない。母の寂しそうな顔を見たら、居たたまれない気持ちになったが“勉強のため”と割り切った。
電車に乗ると、受験生らしき親子が多くいたが全体的は空いていて座ることができた。
目の前に席に座っている親子が自己採点をしているようであった。
「ここ、なんで間違えたの? 取れるでしょ」
母親らしき人が横にいる子どもに強く言った。子どもは疲労感たっぷりな顔をしてうなずいている。今入試を受けてきたばかりなのに大変だなと同情した。
こういった親子は珍しくない。横で何も言わずに本を読んでいる母の方が珍しいかもしれない。
「ねぇ、これおいしそうよ。行かない? ここから近いよ」
母はグルメ雑誌を指さして言った。雑誌には美味しそうな料理の写真がいくつも載っていた。母は楽しそうにペラペラと雑誌を見て「ここもいいわね」と言っていた。
「全部合格したら食べようか」
「はい」
その後も、食べ物の話を聞きながら帰宅した。翌日も試験があり同じように受けて帰宅すると自室のこもり勉強した。夕方、パソコンの前に座った。
2校の合格発表は本日であった。
リビングにあるパソコンに電源を入れて、幕中のサイトを開き受験番号をいれた。そして決定キーを押そうとしたが手が震えた。心臓の音が早くなった。
「ここで何しても結果は変わらないのにね」
震える自分の体がバカバカしかった。
深呼吸をしてから決定キーを押した。
不合格
「そ、そうだよね」
想定はしていた。
合格率50%。試験は難しく何度も悩んだ。でも、突きつけられると平常心ではいられなかった。何度見返しても結果は変わらない。
ため息をついて、もう一つの学校の結果を見た。
「え? なんでダメなの?」
ここは常に合格率80%を超えていた。
「あはは……。これが受験か」
自然と乾いた笑いが出てきた。テストで合格率が高く出ても油断はできないと講師は言っていた。その現実を突きつけられて心が折れそうになった。
キーボードに涙が落ちた。
「どうすれば受かるんだよ」
手を抜いて勉強したことなど一度もない。娯楽はすべて断ち切った。
「食事の時間か。やっぱりちゃんと食べるなんて時間の無駄」
その日から母になんと言われようと、ゼリータイプの栄養ドリンクと水分しか口にしなかった。シャワーも最短で終わらし、睡眠時間もなるべく減らして勉強時間にささげた。
「……はっ」
気づくとローテーブルに突っ伏していた。まだ、全然勉強していないのに寝てしまう自分の体に腹が立った。
「いい加減にしてよ」
思い切り、左手の甲に鉛筆を突き刺した。痛みが走り、血がにじみ出た。その痛みで目が覚めると安堵した。
何度も指している左手は穴だらけだ。
2月1日
快晴中の試験が終わり、他の試験同様に母と共に帰りの電車に乗っていた。相変わらず母は、グルメ雑誌を見て合格後の食事の話をしていた。
母は手の傷のことも勉強に捧げている生活のことも何も言わない。しかし、時々悲しい顔をしているのは知っていた。
この生活は辛いが後少しと思い、自分に鞭打った。
2月2日の桜華試験も終了した。全ての試験が終わったが結果がでるまで油断できない。桜華が落ちたら4日にある桜華を再受験しなくてはならない。
快晴についてはもう受験できない。
「そうだ。明日、幕中の試験だからね」
「え?」
「二次試験申し込んだよ」
予想外の母の発言に驚いた。
「別に何回目で受かっても幕中合格は合格でしょ? あ、でも今日の夜に快晴と桜花の結果でるよね。受けない?」
「いえ、受けます。ありがとうございます」
母に感謝した。
快晴落ちても、幕中に受かればそれなりの実力を憲貞の母に示すことができる。
自室に戻ると幕中の過去問を取り出した。問題と解答用紙をコピーするとタイマーをセットして始めた。
何度もやってもひっかかる問題がある。そこだけをピックアップして似たような問題を塾のテキストから探し出しコピーして行った。
それを何度も繰り返して、できない問題を潰していった。時間が掛かるが確実な方法だ。
「あ、快晴と桜華の結果見てない。決まった結果なんて明日でいいか」
桜華が落ちていれば母がきっと4日の申し込みをしてくれると思った。
必死に机に向かったが気づくと、また寝ていた。時間は22時。1度落ちている学校だから油断はできない。しかし、体が言うことを聞かなかったので仕方なくベッドに入った。
翌日、5時に目を覚ますともう一度過去問をやった。1度落ちているため不安で仕方なかった。
しかし、また睡魔が襲ってきた。左手に鉛筆を突き刺しても追い払うことのできない睡魔に腹が立った。
少し考えてから、立ち上がり倉庫から金槌を持ってくると、ローテーブルに向かった。
「今日、試験だよ。いい加減にしてよ」
タオル置いてその上に左手を乗せると思い切り小指目掛けて金槌を振り下ろした。
バギッ……。
鈍い音がして激痛が走った。少し、指を動かすだけで痛みが走った。
「よし」と眠気が去ったことに安堵すると鉛筆を強く握った。
家を出る時間になり、身支度を終えてゼリータイプの栄養ドリンクを飲んだ。母に食事を勧められたがその時間勉強したかったため断った。
以前は母の誘いを断り、彼女が寂しそうな顔をすると罪悪感があったが今は全くなかった。勉強の邪魔をするなと腹が立った。
2月3日。
1月の試験よりは手ごたえを感じた。自信があったが不安だった。前回もできていないとは思っていないがダメであった。
帰宅の電車で母が思い出したように、「そういえば、憲貞君と連絡とってる?」と言った。
「いえ」とズキズキと痛む左手を服に中に隠しながら答えた。
「叶さんから憲貞君の報告来てるんだよね。天王寺さんに伝えないと行けないしね」
「そうですか」
以前は憲貞のことが気になり、和也に聞いたり本人にメールをしたりしていた。しかし、クリスマス前に辞めた。
お互いのことを気にしているのでは以前と何も変わらない。一度距離を置いて、自分自身のことに集中する必要があると思った。
今、聞いてしまうとすぐにでも会いに行きたくなる。受験がすべて終わるまではと思った。
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