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第62話 謝罪と反省と違和感

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和也は小さく息を吐くと、立ち上がり部屋を出て階段を上がった。憲貞は2階の空き部屋を使っている。
憲貞の部屋の前までくると、動けなくなった。

ノックをしようと手を挙げたが手が動かない。何度も扉を叩こうとするが、戸まで後数ミリのところで手が固まる。

その時、後ろから衝撃を受け扉に額をぶつけた。赤くなっていた額が更に赤身を増し腫れた。

「いっ」

額を抑えながら足元を見ると、そこにはにんまりと笑った佐和子がいた。

「にぃには、のりちゃーに ごようなの?」
「え、まぁ」
「そっか」佐和子は嬉しそうに笑うと「のりちゃ」と言って扉をノブに手を掛けた。
「えっ、ちょ……」

和也は止めようとしたが、間に合うことなく扉が大きなこ音を立てて開いた。
扉が開く音で振り向いたであろう憲貞と目があった。彼は椅子に座って目を大きくしている。

「え……、さわちゃん?」
「のりちゃ」

佐和子がダッシュして、椅子に座りキョトンとしている憲貞に飛びついた。彼は驚きつつも、佐和子が怪我をしないように気を付けながら抱き留めた。

「どうした?」
「さわちゃんは、ごようちがうのよ」そう言って佐和子が扉の方を指さしたので、憲貞は佐和子の指を目で追うようにして扉を見た。

「カズ」

名前を呼ばれて気まずくて視線が合わないように部屋を見渡した。すると、自分の家であるはずなのにこの部屋だけ違和感があった。しかし、そんなことを考えている場合じゃないと頭を下げた。

「あぁ、さっきはすまない」
「悪かった」

和也と憲貞が謝罪する声が被った。それがおかしくて思わず吹いてしまい頭を上げると、憲貞は眉を下げて笑った。

「ごめんな。言い過ぎた」と再度謝りながら憲貞を見た。

「なかなおりねぇ。ぷんすこ おしまいね」

憲貞の膝の上にいる佐和子が嬉しそうに言うと「ありがとう」と憲貞は佐和子に向かって言った。彼女はキャッキャと声を出して笑った。

「じゃ、勉強に戻るから」そう言って和也は佐和子を呼んだ。
佐和子は憲貞の顔をじっと見つめから彼の頭をなぜた。そして、ピョンと膝から降りると和也の方に向かった。

「あの」憲貞は佐和子の後ろ姿を見ながら口を開いた「私はカズに甘えすぎていた。優しいから頼りになるからと思ってしまった。本当にすまない」

「いや、俺も言い過ぎた」

そう言いながら、佐和子に戻るように伝え部屋から出すと扉を閉めた。

「カズだから大丈夫と思ってしまった。そんな訳ないに」
「いいって」
「良いわけない。貴也に御三家の受験の提案して私が家から出られるように計画してくれた。今回、私が倒れてしまったことで叶家には大変世話になった。勉強を教えてもらい栄養管理までしてもらった。なのに、私は自分のことばかり……」

憲貞の膝で組んでいる手が震え出した。彼を追い詰めていると焦り何か良い言葉を探したが見つからない。

「貴也のことだが」声がだんだん震えてきた。目には涙を浮かべている「彼の名を使って勉強から逃げていた」

「あれは……言い過ぎた」と自分の発言を悔いて撤回しようとするが、憲貞には伝わらない。
「事実だ。貴也は私に連絡する余裕がないほど頑張っている。それなのに……私は……」
「大丈夫だ。俺より勉強している時間なげーじゃん」

優しく言ったが、それが逆に胸に突き刺さったようで彼の目から涙が止まらない。和也がどうしていいかわからなくて頭をかいた。

「なんで、優しくするんだ。私は本当にダメだ。過去問やっても全くできない。それなのに他に気を散らせてしまった。もう、ダメだ」
「中学受験しない奴の方が世の中は多い。しなくていい受験なんだ。それをわざわざしよーってんだから、大変だよな。しかも難関校狙いとか」

慰める言葉を必死で探した。自分でも何を言っているがわからなくなってきた。

「俺ら今すげー頑張ってんだから。20年後きっと笑ってられるよ」
「20年後?」
「そうそう、中学受験なんて人生のちょっとした出来事じゃん? これから受ける試験なんていっぱいあるしさ。こんなんで人生全部決まんねぇーよ」

憲貞はひくひくとしながら、机にあったティッシュで涙と鼻水を拭いた。

「あ、なんで優しいかだって? 優しくねぇーよ。ダチだから力になりたいと思ったらこうなっただけだ」

その言葉に憲貞は頷きながら小さな声で「ありがとう」と言った。

「じゃ、もう降りるな。母親が帰ってきたし、そろそろご飯になると思うからきて」そう言って、扉を閉めると階段を下りた。

リビングに来ると、母が料理をしていた。和也は何も言わずに椅子に座った。

「その様子だと、解決しなのね」
「まぁね。佐和子けしかけたの母さん?」

テーブルで楽しそうに絵を描いている佐和子を見ながら聞いた。

「あー、バレた?」
「そりゃな。佐和子一人で階段いかせねぇだろ」
「そうだね。居てよかったでしょ」
「うん」

なんでもお見通しという顔をする母に、勝てないと思った。

「あ、そうだ。のりちゃんが使っている部屋さ。あんなに家具の形揃ってたけ? 色も白とで統一されてるし」

母が和也の方を見て、考え込むような顔した。

「憲貞君がやったじゃないかな? 部屋を渡した時、色々運び込んでいたようだし」
「そっか」

憲貞に貸している部屋だし、多少は彼の趣味の物を置くは問題ないかと思った。
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